N-127 アルトさんが連れてきたハンター達
2カ国の使者が退席するのを、俺達は笑いを堪えて見守った。
ある意味、俺達の決意表明だからな。それに、彼等の言い分では俺達が侵略しても問題無さそうだ。
「言葉質は取ったのじゃ。ディーが一緒じゃから、何かあれば我等を呼ぶが良い。
それより、先ほどの者を何故斬り殺さなかったかの方が問題じゃ。たぶんアキトと同じで殺す事に罪悪かんがあるのじゃろう。それは良いことではあるが、時と場合によるぞ。……何らかの手を考えねばなるまい」
咄嗟に剣を抜いて対処するのは、まだ無理だな。
どうしても抜くときには覚悟がいる。それは相手が獣や魔物であってもだ。
やはり、日本は平和な国だったんだろう。
それを急に直すのは無理なのかも知れないぞ。
「ホントは私等がやるべきことにゃ。兄様にお詫びができないにゃ」
ポツネンっと下を向いてアイネさん達がしょげている。
でも、ちょっと離れていたし、今回は何とかなったんだから次から頑張ってくれれば良いと思う。気落ちして警護では、かえって問題だ。
それでも、俺の背中にしがみ付いているエルちゃんを、部屋に連れて行ったくれた。
エルちゃんも吃驚してたからな。
これからは、警護の人員配置も考えないといけないみたいだ。
「まぁ、それはアキトに相談するとして、いよいよじゃな。どう進めるのじゃ?」
「立ち話もなんですから、こちらにどうぞ。そして、長老様。始めますよ!」
「うむ。レムルに任せる。我らはその裏手で援助を惜しまぬ」
長老が退席するのを見守って、アルトさん達とアルトスさん達を王族の執務室へと案内した。
◇
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丸テーブルに皆が着くのを見計らって、クラリスさん達がお茶を運んでくれた。
そして、奥の私室からエルちゃんが革の上下に着替えた姿でやってきた。俺の横の席にちょこんと座る。
「2カ国とも動くでしょうが、問題は何時動くかということです。そして、両国共に睨み合ったままですから、兵力を大きく展開する事ができません。こちらに大軍を向かわせると互いに背面を突かれる可能性があるからです。多くて3個大隊、俺が予想しているのは2個大隊というところです。
対する我等の兵力ですが、正規軍が3個大隊。ハンターと民兵が3個中隊。それに屯田兵が2個小隊です」
「全体の兵力は敵を上回るが、分散せざる得ない状況じゃな」
「山はハンターと民兵に任せます。北の石塀は元屯田兵の人達ですから、新た何入植者と合わせれば1個中隊程になるでしょう。
山を2つに区分して、北側に1個中隊、南に2個中隊で守る事になります」
「残りの3個大隊で一気に攻撃するのか?」
「はい。ですが、先攻は別の部隊です」
「俺達には、後の部隊なぞ無いぞ!」
「この地図を見てください。南の森の全体図です」
バッグから折畳んだ大きな地図をテーブルに広げた。
地図には、膠着状態のレムナム軍とサンドミナス軍の規模と配置を書き込んでいる。
「ほほう……ただ広がっているだけと思っていたが、湖と王都それに岩混じりの山麓で微妙に森が変化しておるのじゃな」
「それが、今度の作戦に影響します。
サンドミナスは北に兵力を送るでしょうが、送る兵力は最大で2個大隊。そしてサンドミナス軍との睨み合いを続けている、この前線の存在も無視できません。
レムナムとて出せる兵力は3個大隊程度。海軍が増強できたとしても、それ以上出す事は後方の備えを考えると無理でしょう。内海に見張り所を築き即応部隊を点在させている筈です。
とはいえ、この戦はレムナム軍が口火を切ることになります。
サンドミナスの国境近くに2個大隊を駐屯させればサンドミナスはそれに応じて派遣した部隊をやはり前線付近に駐屯させます。
この状態で、旧パラム王都の西側から火を点ければ、森の魔物の逃げる方向は我等の方向と、サンドミナスの後ろに向かいます。」
「狙いは、俺達とサンドミナスの両者だというのか?」
「良く出来た作戦ですよ。魔物を使って敵軍に被害を与えたところを攻撃出来るんですからね」
「じゃが、この作戦には大きな穴があるぞ。相手も同じことを考えると、自分達が魔物に攻撃を受ける」
「そうです。そこが心理戦になるんです。俺達は王都の周囲の森を大切にしてきた筈です。そしてサンドミナスには大きな森がありません。
どちらも森を焼く事は考えていないというレムナムの読みがあります。
ですが、再び森を作りことを前提に、我らはこの森を焼き払います。俺達の作戦開始はサンドミナスより少し遅らせて王都の南に火が迫ってからにします」
地図にサンドミナスの森を焼き払った範囲を太い赤色の鉛筆で示した。
「待て、これだと王都の西北に火が回っていないぞ!」
「気が付きましたか……。ここにはデルノスがいます。デルノアを使って火は消し止めるでしょう。植物性の魔物と聞いています。火は植物の大敵、少しは対策を持っているでしょう」
「その状態で、森を北から焼くのじゃな。そうなると……王都の北を魔物が迂回するということか?」
「上手く行けばの話……場合によっては山の斜面に出る可能性もあります。その為に2個中隊を配置します」
「それは見ものじゃのう。我等の連れて来たハンターの2分隊をそちらに回そう。強力なハンターじゃぞ。そして新たに到着するハンター2分隊と残りを我が率いて魔物を狩れば良いじゃろう。森の狩はあまりしておらぬ奴らじゃが、これを機会に覚えればよい」
「我等は?」
「急造の1個大隊は、湖の横に陣を張ります。魔物が帰らぬようにしなければなりません。そして2個大隊はこのように王都の東から西に進軍します。
問題は、デルノスですが……アルトさんにお任せします」
「我というより、ディーが倒してくれる筈じゃ。我はハンターを率いて負うとの魔物狩りをするぞ。その頃には、山からもハンターが下りてきて合流できる。50人のハンターなればたやすいことじゃ」
自信を持って言ってるけど、大丈夫なのかな?
後は、マイデルさんに頼んだ武器が何丁出来るかだな。
バリスタはサンドミナス軍用に移動すると、レムナム軍用に使えるのはあれだけになる。
「では、今の話の通りに部隊を配置するぞ。大隊と山に展開する部隊、それに屯田兵の駐屯地には無線機を置く。小型の無線機は中隊に置くから、指示は容易に伝達できる。
レムルは姫と仮宮で待機しろ。ここからは我等の仕事だ」
「そうもいきません。俺達も同行します。これはエルちゃんとも話し合って決めました。アイネさんやクラリスさんも同行してくれますから、俺達は安全です」
「そうじゃのう。やはり、我等と一緒に一旦は王都に足を踏み入れる事は大切だと思うぞ。その時は我が万全な警備をするのじゃ」
体面ということだろうな。何と言っても王都の奪回なのだ。エルちゃんが旗印とならなければなるまい。
「レムルの発注した資材は次の船便で届く。輸送用のガルパスもじゃ。後3日といったところじゃろう。ところで、明日は閑か?」
「直に部隊に戻ろうと思っていましたが……」
「明日の早朝。町の東に集まるがよい。連合王国屈指のハンターを一度見ておかねばなるまいて」
「まさか、我等の知らぬ種族ということですか?」
俺の問いにニコリと微笑むとディーさんを連れて出て行ったが、あの大鎧を着て良くも身軽に動けるものだ。
「犬族という事はあるまい。たぶんトラ族の屈強な連中だろう。楽しみだな」
そう言ってアルトスさんは笑っていたんだが……。
次の日、食事を終えて俺達が向かった町の東の門の広場には大勢の人で溢れかえっていた。
その人込みを掻き分けるようにエクレムさんとアルトスさんが先行して俺達を広場の中へと入れてくれた。
途端に俺達は硬直した。
そこに、隊列を組んでいたのは、どう見てもトカゲとしか見えない。そしてその後ろに勢揃いしているのは、大きなカンガルーに乗った屈強な若者達だ。
「ようやく来おったか。吃驚せずにこちらに来るのじゃ」
革の上下に着替えたアルトさんが彼等の前にいると大人と子ども以上に見えるぞ。
恐る恐る俺達が近づくと、トカゲの風貌をした人物とカンガルーに乗った若者がアルトさんの隣に並んだ。
「紹介しようぞ。我が連合王国屈指のハンター達じゃ。こちらがリザル族のダナン。そしてこちらがテーバイ州のカシュナルじゃ。
ダナン、カシュナル。依頼主のレムルじゃ。ミズキの鍛えた弟子の1人じゃ」
「我等リザル族、ミズキ殿達の恩義は忘れん。その弟子の依頼なら我等全力で獲物を狩るぞ」
リザル族のハンターは、俺達と同じ革の上下に頑丈そうな革のブーツだ。幅広のベルトには大きな斧と、ナイフが抜き身で差し込んである。そして手に持ったのは、3m程の手槍だな。身長が2mを越えてるから短く見えるぞ。
「我等の版図を広げたのはアキト殿の子孫と伝えられている。そしてミズキ殿はその始祖を生んだ国を救ったと聞く。その2人の縁ある者が依頼を出した以上、我等は最強のハンターを揃えてきた。リザル族の精強は我等も聞き及んでいるが、我等とて遅れは取らんつもりだ」
そんな事を言っている若者は大きなサンダルを履いたカンガルーに乗ったままだ。鞍の脇にはモーニングスターが括りつけられてるし、若者は革のパンツルックだ。上半身には革のベストのみで腰のベルトの後ろに幅広の片手剣を差している。そして、片手に持っているのは薙刀にしか見えないぞ。
こんな連中が最強なんだろうか?
銃の世界では浮いているようにも見えるんだが……。
「どうじゃ。彼等ならどんな魔物でも対応できよう。我等の仲間を別にすれば彼等が地上最強の狩人じゃと思うぞ」
「銃は使わんのか?」
「一応持っているが、使えば仲間の笑いものだ。それでも、仲間が危険とあれば使うことに躊躇はしないぞ」
狩りは昔ながらの方法を取るという事だろうか?
それにしても、あの槍やモーニングスターで狩る相手はなんだろうな?
「まぁ、姿が変わっていることは確かじゃ。しかし、彼等はれっきとした連合王国の市民である事も確か。姿に驚くのは仕方がないことじゃが、それによる差別は連合王国を敵とするに等しいことじゃ」
これだけアルトさんが注意するという事は、昔何かあったんだろうな。
だが、アルトスさんの2倍の体格をしている連中だ。王都の解放は彼等に任せれば安心できるかも知れないな。




