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N-123 ラティ


 明人さんから通信があった数日後に、ディーさんが1人でやってきた。

 どことなく、美月さんと明人さんの面影があるんだけど、2人の子供なんてことはないよな。

 ユングさん達と同じ高度な知能を持ったオートマタらしいけど、革の上下に大型の金属製ブーメランを背中に背負った姿は、人間のベテランハンターそのものだ。


 俺達の前に座ったディーさんは俺達の誕生日を聞くと、今度は俺達にテーブルの上に左手を開くようにお願いされた。

そして、俺達の手をジッと見つめた。

 

 「リングサイズは確認できました。一月後にはお持ちします。それで、前に依頼のあったものを持参しましたのでお渡しします」


 そう言って立ちあがると、腰のバッグから大型の袋を取出した。どうやら魔法の袋らしいがとんでもなく大きいぞ。机がそのまま入ってしまいそうだ。


 ディーさんが袋に手を入れると、次々に機材を取出してテーブルに並べ始める。

 拠点用の中型通信機が2台、小型の通信機が10台。

 監視用の三脚が付いた望遠鏡が5個に小型の望遠鏡が10個。

 そしてナップザック程の袋が1つ。これには薬莢が入っていると言っていた。

 

 「後は……外に出てくれませんか」

 

 俺達と、知らせを受けてやってきたガウネンさんとアイネスさんがディーさんの後から部屋を出て運動場程の広場に出た。


 ディーさんが腰のバッグからもう一度大型の魔法の袋を取出した。

 片手を入れて袋から取り出したものは……、大型のライフル銃のようなものだ。

 次々と銃を取出して並べていく。

 そして最後に木箱を2つドンっと地面に置いた。


 「連合王国戦闘工兵部隊で使われている『ラティ』です。弾丸は特殊な作りのなっていますから、商会を通して購入してください。訓練用に150発を持ってきました」


 なんとライフル銃にソリが着いている。ソリを取り外して折畳んだ脚を伸ばせば、3脚になるようだが、この位置では伏せて撃つしか無さそうだ。

 まぁ、重量は30kgを越えているみたいだから、これを持って撃てる人間は早々現れないだろう。

木箱の蓋を開けて出てきた弾丸は単1の乾電池より太いし、長さは20cmを越えている。

 超強装弾って感じだが、ネコ族の人達に撃てるのだろうか?


 「照準合わせは済んでいます。早速、試射をお願いします」


 ディーさんが俺を見ると、周囲に集まった連中も俺を見る。

 俺が撃つしかないのか?

 実際に使うのは迷宮の出口を守る連中なんだけど、まだ決めていなかったからな。

 

 「的を用意しろ。なんでもいいが、できるだけ丈夫な奴だ!」

 

 ガウネンさんが大声で集まった兵士達に命令すると、直に的が運ばれてきた。

 どうやら食堂のテーブルを数人で運んできたようだ。

 

 およそ100m先に、そのテーブルが表をこちらに向けて横倒しにされた。

 大雑把にラティを的に向けると、その後ろに寝転んで伏せ撃ちの体制を取る。


 重いボルトを操作して開いた挿入口に弾丸を乗せてボルトを閉じると、弾丸がバレルの中に入っていった。

 ストックを肩にぴったりと着けて、照尺を合わせる。50mから200mまでの4段階で固定できるみたいだな。

 100mに合わせて照準の山と谷を合わせる。

 重心点に三脚があるみたいでそれ程苦労しないで保持できる。

 バレルの後ろにあるセーフティの位置も、俺のライフルと一緒だな。


 小さく【アクセル】と呟いて身体機能を上げておく。


 「撃ちますよ!」


 そう言って、セーフティを解除すると、照準にテーブルの天板を捉えてゆっくりとトリガーを引いた。


 ドオオォン!

 轟音と共に肩を棍棒で殴られたような衝撃が来た。

 あまり硝煙は出ないようだな。装薬が特殊なんだろうか?

 そして、的になったテーブルの天板にはぽっかりと大穴が開いていた。


 「とんでもない威力だな。体は大丈夫なのか?」


 立ち上がって肩をもんでいる俺に、ガウネンさんが聞いてきた。


 「何とか……ってとこですね。上着を少し改造する必要がありそうです。棍棒で殴られたような衝撃を受けました」

 「そうか……。誰か、撃ちたい者はいるか? 誰でも良いが、レムル殿より体格が落ちる者は我慢しろ!」


 ガウネンさんの声に数名が名乗りを上げた。

 なるほど体格は俺よりも勝っている。ネコ族というよりもトラ族出身じゃないかと思う程だ。


 「ロイ。お前からだ」

 「基本はライフルと同じで良いのですな?」


 「あぁ、ライフルが大型化したと考えて貰っていい。だが、肩に来る衝撃は半端じゃないぞ。しっかりと肩に着けるんだ。そして位置を間違えると鎖骨を折るぞ」

 

 俺の言葉に頷くと、伏せ撃ちの体制を取る。

 ボルトを操作して弾丸を装填すると、体を固定して撃った。

 再び轟音が周囲に木霊した。

 

 「これは、すごいですな。連続して撃て!と言われても3発が限度です」

 

 ロイと呼ばれた男は、立ち上がりながら衣服の砂を払いながらそう言った。

 

 「今度は俺だ!」


 次々に試射が行われる。

 そして、彼等の言葉はどれをとっても、連射はできないということだ。やはり、2発がいい所なんだろうな。俺だって無理だと思うからね。


 「なんとか撃てましたね。連合王国ではトラ族の兵士が主に使っています。それではこれで……」


 ディーさんは俺達の操作を一通り見ていたが、そう言うと俺達の前から飛ぶようにして北に向かって行った。

 背中に羽を伸ばして光のような航跡を残しながら去って行く姿は、なんとも不思議な光景だ。


 「ディーさんて、妖精族なのかにゃ?」

 

 アイネスさんが小さな声で呟く。

 それに周囲の者達も同意したのだろう。同じようなタイミングで頷いていた。

              ◇

              ◇

              ◇


 暖炉の傍のベンチに腰を下ろして、俺達とガウネンさん達とお茶を飲む。

 さっきの銃の話をしておかねばならない。


 「……すると、レムル殿はあの銃は戦ではなく、魔物を倒す為に使うつもりだったのか?」

 「あぁ、旧パラム王都を俺達の手にした時、最大の課題は破壊された迷宮から現れる魔物になる。

 小さな結界を作ることも1つの手だが、どんな魔物が出てくるかは分からない。ある程度、対策は必要だろう。あれが5丁あれば結構役立つんじゃないか?

 現に、連合王国も大型獣やそれに類した魔物をあれで狩っているようだ」


 「確かに対人相手では威力がありすぎるな。……5台あるのだったら、アルトス殿と俺の所に2台ずつ供与出来ないか?

 森からたまに魔物が顔を出す。まだそれ程危険な奴は出て来ないが、この先どうなるか分からんからな」

 「そうですね。ある程度慣れてもらわないと困ります。アルトスさんの方への連絡は宜しくお願いします。もう1台はどうしますか?」


 「そうだな。アルトス殿の方が範囲が広い。アルトス殿に3台を渡してくれ」

 「でも、凄かったにゃ。あのテーブルに大穴が開いたにゃ」

 

 「撃とうなんて思わないでくださいよ。とんでもない反動ですから」

 

 アイネスさんが渋々頷いてるけど、大丈夫かな。

 

 「それで、状況に変化なしか?」

 「はい。……しかし、油断は出来ません。南の森から攻めるのは以外に簡単なんです」

 

 三叉路が森の中にあると思えばいい。

 それぞれの道の先に、レムナム王国、サンドミナス王国、そして俺達の村がある。

 現在は森に多くの魔物が生息しているから、簡単に森を通れないと誰もが思っているけど、この森を焼き払ったらどうだろう。


 レムナム軍がせめこうとしたら、その公算が極めて高い。森林資源は他の森で補えるからだ。サンドミナスだと、大きな森林を持たないからこの森林を1つの資源とみなすだろう。可能な限り温存しながら俺達を攻略することを考える筈だ。


 「もし、南の森に火を放たれたら、どうしますか?」

 「そんな事をするとは思えない。南の森は広大で奥深い。貴重な薬草や木材が取れるのだ。敵もそれは考えるだろう」


 「サンドミナスならね。だけど、レムナム軍はやると思いますよ。レムナム王国は自国に大きな森を2つも持っています」

 「だが、それではラクト村が困るのではないか?」


 「あそこは、レムナム軍の駐屯地になってます。村人は殆ど残っていないでしょう。それに小さな森なら湖の周辺に点在しています」

 「それはそうだが……。今だかつて、そんな暴挙した国王はいないぞ。考えすぎではないのか?」


 そうでもない。

 火から逃げようと、魔物は三叉路をサンドミナス側と俺達の村の両方向に移動する筈だ。

 ある意味、死兵を先行して投入するに等しい。

 俺達もその時には全軍を集結しなければならないだろう。どんな魔物が飛び出して来るか分かったものじゃないからな。 

 そして、サンドミナスの守備隊は精々2個中隊程だ。国境に対峙した部隊の休息がてらに守っているような感じもしないではない。

 南の森からサンドミナス側に魔物が溢れたら、大幅な部隊の後退は余儀なくされるだろうな。

 正に、一石二鳥の作戦だ。絶対にレムナムは森に火を放つだろう。


 「単に俺の取り越し苦労なら問題ありません。ですが、行動するならこの冬の終わり。森の木々が乾燥している間です」

 「後2ヶ月か……。だが、その前に兵力の移動を行う筈だ。例の観測拠点はその意味もあるのか」


 本当なら、1年は兵を休ませながら再編成を行い、糧食を整えることも必要だろう。

 だが、その辺りは余り考えないようだ。

 レムナム軍の行動は迅速だ。現在主力部隊は王都近辺にいるのだが、サンドミナス軍の海軍の行動もレムナムとしては気になるだろう。全軍ではこれない筈だ。

              ◇

              ◇

              ◇


 次の日に、アルトスさんが直々に数人の兵士を連れて現れた。

 ガウネンさんと撃った事がある兵士で、ラティの操作を教えているようだ。

 ここまで轟音が聞こえてくる。


 バタンと扉が開いて、アルトスさんがガウネンさんを連れて入って来た。

 暖炉の傍に2人を誘うと、エルちゃんがお茶を運んでくれた。そして、俺の横に座る。


 そんなエルちゃんを微笑ましくアルトスさんは見ていたが、俺に顔を向けると口を開いた。


 「とんでもない威力だ。あれなら大型の魔物でも倒すのに時間は掛からないだろう。だが、5台というのは少なすぎないか?」

 「元々は旧パラム王都の破壊された迷宮を出る魔物を待伏せするために用意したものです。……ですが、足りないということはアルトスさんも火攻めを考えているんですか?」


 「港の部隊から、商人達の会話に気になる話があると伝えて来た。レムナム王国にタールを100樽届けたらしい。確かにタールは家の屋根に塗る代物だから、あながち不自然ではないのだが、その話をしていた商人は次に届けるのはラードを100樽と言っていたそうだ。2つをあわせれば広範囲に火を付けられる」

 「アルトス殿に昨日の話をしたら、やはり!と言ってここに来たのです」


 考えは同じだな。そして、現実にレムナムに森を焼き払う資材が届けられるとなれば、確定したと言っていいだろう。

 問題は、何時か?ということだ。

 



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