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N-122 婚約にも準備がいるらしい


 レムナム王国が動きを取れない内にと、エクレムさんがラクトー山の南東斜面に拠点を新設したようだ。

 岩山の見張り所から西北西に約150M(約22km)の距離にある岩の露頭を利用したらしい。


 「大岩1つだと思っていたんだが、少し掘ってみると斜めに大きな岩が重なっていたんだ。その隙間が意外に広くてな。小隊規模で常駐できるし、資材も貯えられる。

 2分隊を今期越冬させて、様子を見るつもりだ」

 「この辺りですか……。1小隊となると、猟兵の拠点に出来そうですね。こちらの2つの拠点を廃止して監視区域をラクトー山の南西方向にも広げられそうです」


 エクレムさんの話を聞きながら、目の前の地図を眺める。

 俺の応えを聞いて、お茶を一口飲むとパイプを取り出した。


 「では、レムルも俺の案を支持してくれるのか?」

 「もちろんです。この場所に通信機を置けば、この範囲の情報はここにいながらにして確認出来ますからね。望遠鏡を2本ほど持たせてください」


 「それを強請りに来たんだ。まだあるかと思ってな。出来れば通信機も欲しいところだ」

 「エルちゃん、どれ位渡せる?」


 俺の隣で話を聞いていたエルちゃんが、バッグからメモ帳を取り出して確認している。


 「通信機は中型を1台、小型を4台渡せます。望遠鏡は、拠点監視用を2台、携帯用を5個渡せます。残りは、中型が2台に小型が6台。望遠鏡は拠点用が1台に携帯用が4個になります。カートリッジの発注に合わせて、1中隊分を購入しておきます」


 エルちゃんの応えを聞いてエクレムさんは満足そうだ。どうやら要求した台数以上に配布されるとは思わなかったみたいだな。


 暖炉際のベンチで待機していたアルを呼んで早速機材を揃えるように話すと、エクレムさんに同行してきた兵士と一緒に部屋を出て行った。

 

 「たぶん、来春にはこの新しい拠点が活躍してくれるでしょう。通信機は次に入荷したらもう1台届けます。受信専用、送信専用という感じで運用しなければ対応できなくなりますよ」

 「なんだと!……まぁ、この位置だからな。だとすれば、越冬部隊に洞窟を掘るように言っておくか。最大2小隊が待機出来るようにしておけば少しは安心できる」


 「あまり掘りすぎて岩山が崩れたら本末転倒ですよ。それより、通信機の信号を学んでください。少年兵を最前線よりも更に前進させて配置するのは考えものです」

 「そうだな。冬の間は敵も動かんからその間に学ばせよう。2分隊もいることだし数人がものになれば十分だ」


 これで、役目上の会話が終了した。

 後は、アル達が引渡しを終えれば次に会うのは毎月の会議だな。幾ら動きは無いといっても状況の推移を皆で確認するのは大事だと思う。

 

 エクレムさんと暖炉のベンチに移ってタバコに火を点ける。

 レミーがあらためて出してくれたお茶のカップを手に取ると、エクレムさんがニヤリと悪戯小僧のような笑みを浮かべた。


 「聞いたぞ。村でも長老達が動いているそうだ。俺もそうなることを望んでいたからな」 

 そう言って、小さなテーブルを乗り越えるように身を乗り出して俺の肩をポンっと叩く。


 「もう、いったい何処まで広がってるんですか? 俺達の問題ですから、あまり変な噂は立てないでくださいよ」

 

 俺の抗議も笑ってやり過ごしている。

 エルちゃんは真っ赤になってしまった。


 「まぁ、そんなに怒るような話でもない。久し振りの明るい話題なんだろうな。これでパラム王国が復活すると誰もが目を輝かせているのが本当のところだ。希望を持たせることは悪いことではない。そしてその希望が叶うのが近いとなれば、浮かれる者も出てくる。村の酒場ではこの話題で深夜まで賑わっているとのことだ。何時もは酒は1杯までだが、期間限定で2杯を長老が許可したせいもあるだろうな。

 もう直ぐ、長老から兵士達にも祝い酒が送られてくるだろう。お前達もそろそろ準備した方が良いぞ」


 しばらくは空いた口が塞がらなかった。

 でも、最後に気になることを言っていたな。


 「準備と言いましたが。俺はその辺に明るくありませんから、出来ればご教授ねがいたいのですが……」

 「だろうと思って、俺が来たのだ。要するに婚約という事になる。結婚はまだ先で良いだろう。姫が18歳を目処に長老達が動いている筈だ。

 そこで、姫とレムルが婚約した印を公に示すのだが、これはレムルに任せると言っていたぞ。

 お前の故郷の風習で良い。それを俺とアルトスが確認すれば婚約は終了だ。

 まぁ、全軍の兵士に祝い酒の1杯位は振舞ってやれ」


 これはちょっと問題だぞ。セレモニーをしろってことだよな。簡単に指輪の交換で良いだろうが、頼むところがあるのだろうか?

 それと酒の手配か……。少し値が張っても良い酒を手配したいな。


 「分りました。準備出来次第、お二方をお呼びします」

 「あぁ、皆が祝ってくれるぞ」


 そう言って、面白そうに俺達を見ながらお茶を飲んでいる。

 そんなところに、アルが部屋に入ってくると、機材の引渡しを終えたことを報告してくれた。

 

 「終ったか。じゃぁ、これで失礼する。新しい拠点は俺達に任せておけ。お前も早くに始めることだ」

 

 俺達にそう告げると、部屋を出て行った。

 扉が閉まると思わず俺達は顔を見合わせる。


 「大変な話になってきたね」

 「まさか、こんな話になるなんて……」


 「それでも、おめでたいということは確かだ。婚約の証と酒だったな。これは明人さんに相談すれば教えてくれるだろう。酒も3千人分となると、どれ位の量になるか分らないから一緒に相談だ」


 「金貨なら20枚はあります。足りなければ、以前頂いた魔石で何とかなるでしょう」

 「そうだね。将来に使いたかったが、それで何とかなると思うよ」


 早速、テーブルに戻ると端末を使って明人さんにメールを送る。

 中身は、婚約したらどうするの? それに3千人にカップ1杯の上等の酒を振舞うとしたら酒ダルの数とその値段は?と言う内容だ。


 ついでに、エイダス島の状況を確認する。

 先ずは、エクレムさんの言っていた拠点だな。

 

 岩山から西北西に23km……。

 当たりを付けて、仮想ディスプレイの画像を拡大すると、山の斜面から突き出すように岩が露出している場所があった。

 その脇に石を組んだ入口が見える。これは良い場所を見つけたな。

 下には南の森から続く森が見えるし、遠くには旧パラム王都の廃墟が見える位置だ。

 殆ど稜線に近い場所だから、ラクトー山の西に広がる荒地や森も見えるだろう。

 廃墟越しに見るパリム湖は郷愁を兵士達に持たせるかもしれないが、何時かは戻れると自分達を奮い立たせる効果の方が高いかもしれない。


 そのまま映像をラクト村の方向に移動させると、俺達が小屋掛けした辺りに柵が設けられている。空掘りと2重の柵は魔物対策に違いない。

 そしてラクト村も大きな建物が増えて規模も大きくなっている。畑が荒廃しているから、以前の村人は住んでいないのだろう。今は駐屯地といった感じだな。2個中隊は待機していそうな感じに見える。


 ということは……。

 映像をパリム湖の東に移動する。森を南下すると……。

 やはり同じように柵と空掘りが作られている。

 こちらも2個中隊程の部隊が駐屯しているようだ。白い天幕が東西に延びる柵の中間点付近に点在している。

 

 両国とも今は軍備を整えている最中だろう。

 そして互いに南北に伸びた版図は内海を挟んで対峙している。陸上戦に主力を投入すると、背後から上陸されて王都を脅かされそうだ。

 それを考えると海軍の充実が急務になるが、軍船等直ぐに作れるものでもない。

 以前はレムナム王国が軍船の数で勝っていたが、今はガリム王国の軍船を手に入れたサンドミナス海軍も同じ位の数持っている。

 

 そのにらみ合いが何時まで続くかは疑問だが、俺達はしばらく戦わずに済みそうだな。

 南の森に放たれた魔物は、1個大隊以上の効果を持っているのかも知れない。

 だが、旧王都を手に入れるためには南の森の魔物が邪魔になることは確かだ。なんとか、どちらかの軍勢に退治して貰いたいものだ。


 そのためには……。

 簡単な方法はあるのだが、反対されるだろうな。

 だけど、シュミレーションぐらいはできるだろう。確か、バビロンへ相談すれば良いといってたから、メールで依頼してみよう。

 

 そんなことをしていると、エリィちゃんが大声を上げた。

 

 「通信が入ってます。長文です。少し待ってください」

 

 エルちゃんが急いで通信機の所に駆けて行く。

 隣でスピーカーから聞こえてくる信号とメモを見比べているようだ。

 だけど、段々と顔が赤くなってきたぞ。


 「通信終了です。送信先はネウサナトラム・アキトとなっています」

 

 エリィちゃんがベリってメモを破ると俺のところに持ってきてくれた。

 どれどれ……。


 『皆が喜んでるぞ。姉貴は舞い上がって自分の事のように喜んでる。早速、赤ちゃん用の靴下を編むんだとか言ってたけど、期待するなよ。俺の貰ったセーターは袖の長さが左右違ってたからな。

 姉貴の言うにはm婚約の証は指輪で良いと言っていた。誕生石を送るらしい。エルちゃんの生年月日を知らせてくれれば姉貴が揃える。可愛い弟子のためと言っているが、これは姉貴が作るんじゃないから安心してくれ。それと、酒は俺が用意する。同じ故郷を持った者同士、それ位はしても問題はない筈だ。ユングも賛成してくれたから、2人で送ることになる。届いた後で会う機会があれば礼をいっておけば十分だ。

 指輪のサイズを確認するためディーが旅立った。数日は掛からないと思うが、よろしく頼む』


 なんか失敗したかな?

 こっち以上に騒いでるみたいだぞ。

 

 「なんて、返信るの?」

 「そうだな、とりあえず『了解ですありがとう』で通じると思う。俺とエルちゃんの名前を入れておけば向うも安心だと思うよ」


 そういえば美月さんの高校の文化祭は実質美月さんが取り仕切ってやっていたらしいから、昔から皆でワイワイが好きなのかもしれない。

 その実行部隊長である明人さんの逸話も色々と聞かされたことがあるな。

 それでも、全て遣り通したらしいから明人さんの実力は美月さんに匹敵するんじゃないかと俺と同期の門下生達で話していたことを思い出してきたぞ。

 

 

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