表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/177

N-120 建国への課題


 アルトスさん達との話し合いで、新パラム王国を早期に作ることになってしまった。

 俺としては民主国家としたかったが、そこまで国民レベルを直ぐに上げることは困難と言う結論だ。

 まぁ、仕方あるまい……。とは言っても、王を補佐する者をどれだけ置くか、そしてその者の技量が問題だ。

 

 エルちゃんが旧パラム王国の王女であることは、何時の間にか広がっている。

 本来は、村の奥で祭られる存在なんだろうけど、エルちゃんはそんなことは嫌なようだ。俺と一緒に行動を共にしている。

 ある意味、兄妹だから当然と皆には映るようで、とやかく言われた事はない。

 だが……、女王となったからにはそうもいかないだろう。

 俺も、少し自重しなければならなくなるな。不敬罪なんか適用されたら堪ったものではない。


 「エルちゃんを女王にすると……」


 俺の言葉に、アルトスさんが頷く。

 

 「何れはそうなるのだ。来年の誕生日には16歳になるはず。ネコ族の成人は16歳だ」

 「と言っても、お前達の生活は余り変らないぞ。近衛兵としてクァル姉妹を傍に置き、後見人としてレムルを置くことになる。

 私生活は今までのままで十分だ。ただし、謁見の間では、エル女王が中央に座れば良い。将来の国王の席は空席だ」


 俺はエルちゃんに顔を向ける。

 

 「私は大丈夫。そんなに心配しないで。お兄ちゃんもいるし、クァルのお姉さんだっているんだから」

 「そうは言っても、今までとは違う。女王としての展望も持たなければいけないし、常に国民に良かれと思わねばならないんだぞ」


 「それは、お兄ちゃんや長老に任せられるし。ダメだったら、必要な人を集めれば良い。お兄ちゃん達が十分に考えた結果を私の名で布告すればいいと思うんだけど……」


 ん? ……それって、君臨すれど統治してないよな?

 なるほど、それなら独裁化は防げるな。重臣による合議制となるのかな。

 

 「当然、皆さんも協力してくれるんですよね?」

 「請われれば参加する。だが、参加する者は長老と十分に協議してくれ」


 「そこでだ。新しい町に仮の宮を作る。小さくとも良い。謁見用、執務用それに私室があれば十分だ。

 これは、長老と計って現在作っているの町の建物を改造する。頼むぞジェナス!」

 「まぁ、長老の言葉であれば村人に異は無いでしょう」


 ある意味、国を作るのは俺達にとって都合が良い事は確かだ。

 明人さん達も早く国を作れと言っていたのは、反乱軍への援助ではなく、国が国に対して行なう援助を言っているのだろう。

 そして、俺達が魔石の供給を破壊できると考えているなら、義援軍の派遣も視野にある筈だ。

 少ない兵力の俺達には、ありがたい話になるが……期待はしないでおこう。それよりは国作りのノウハウを教えて貰う方が得かもしれない。

 

 「1つ、確認したいことがあります。前に、明人さんが早く国を作れと俺に言いました。たぶん、大型の援助を考えているんじゃないかと思うのですが……。もし、義援軍を送ると連合王国が言ったら、どうしますか?」

 「それは、もちろん断わる! 将来は分らぬが我等の国作りは我等で成し遂げよう。それでこそ建国の意義があるというものだ」


 エクレムさんの言葉に全員が頷く。

 エルちゃんも頷いている。なら、方針は決まったな。


 技術援助は、散弾銃や、バリスタそしてライフルと便宜を図って貰ってる。通信機もだな。

 それは俺達が使う。それが大事なことらしい。

 他国の軍事力を頼らず自分達で何とか自分達の版図を確立する。

 大きいか、小さいかは問題では無いが、旧パラム王都は何とか取り戻したいものだ。

 

 「レムルはエイダスの2国化を考えておるが、俺は3国でも良いのではないかと思う。サンドミナスを残して、南からのレムナム王国の侵略の防波堤とすることも視野に入れるべきだと思うのだが……」


 アルトスさんの言葉は俺も考えたことだ。

 だが、サンドミナスには、ガリム王国と、ボルテム王国の貴族連中が逃れているのだ。

 いずれ、俺達に牙を向くだろうな。

 とはいえ、短期に見れば眠れる王国になるだろう。しばらくは俺達への侵略を我慢して国力を高めねばなるまい。レムナムの侵略の触手はサンドミナスの国境に達しているのだ。


 俺達が放っておいてもサンドミナスは滅びるだろう。

 だが、その寿命を少し延ばす手はある。

 俺達による旧王都の開放だ。南の森を西に進めばレムナムも俺達に軍を向けねばなるまい。そうなるとサンドミナス侵攻軍の兵力は削減される。

 ラクト村を版図に収め更に西に向かえば、レムナムの侵攻軍は横を突かれる。それが成功すればレムナムとてサンドミナスから撤退せねばなるまい。

 

 「旧パラム王都を版図に加えると?」

 「できれば、来年の目標としたい。旧パラム王都の位置は微妙だ。余り西に向かえばレムナムとの総力戦になりかねん。そんな時にサンドミナス軍が北上すれば俺達は総崩れになりかねん。この作戦を何とか立案して欲しいのだ」


 とんでもない事を言い出した。

 確かに、俺も少しは考えた。そしてその方法も……。

 もしも来年に旧王都を奪回するなら、早めに手を打たねばなるまい。

 

 「無謀だと思います。ですが、ちょっとした武器が手に入るなら、少しは先が見えます」

 「レムルも考えてはいたのか……。ならば、それが如何に困難かも知っているはずだ。無謀だと言い放ったからな。

 だが、何とかその策を考えて欲しいのだ。我等ネコ族全員の願いだと思ってくれ」


 アルトスさんは俺に向かって頭を下げた。

 回りを見ると全員が俺に頭を下げている。エルちゃんも一緒だ……。


 俺は慌てて、皆に頭を上げるように言うと、言葉を続けた。


 「……もう、そんなことはしないで下さい。俺をネコ族の一員として見てくれるのですから、できる限りのことはするつもりです。ですが、皆さんにも協力してもらいますよ」

 

 俺の言葉に、皆が頷く。部屋の隅の通信機に向かっている少年兵達も俺の言葉に頷いていた。

               ◇

               ◇

               ◇



 ガリム王都が炎上して3月程経つと、南の森からたまに魔物が伐採した森の跡地に顔を見せることがある。

 光を嫌うらしく、直に森に消えてしまうから害は無いのだが、何時大型の魔物が出るかと、ガイネスさん達は心配しているようだ。

 大型の魔物はリングラン位しか見たことがないが、アイネさんの話だともっとスゴイのがいるらしい。


 ガリム王国の残党達は、南西の森に集結した後に海軍の軍船でサンドミナス王国へと落ち延びたようだ。

 要せずして軍船と2中隊程の戦力それにガリム王国の財宝の一部を手に入れたようなものだ。それを使って軍備の充実を図れるだろうな。

 

 北の石塀近くに入植した屯田兵達は、羊を育てているそうだ。

 羊なら、羊毛は取れるし肉も取れる。そして糞は肥料に使えるな。そうやって少しずつ土地を耕作地に変えて行くつもりなんだろう。

 村人や、移民の中からも志願者が出て、現在は1個中隊程の規模になっているそうだ。

 屯田兵の家族達を2小隊程の民兵にできれば、北の守りを正規兵2中隊程度に抑えることができるな。


 俺達のいる南の森の戦線は、アルトスさんとエクレムさんでいろいろと部隊を再編成しているようだ。

 改めて、小型の通信機を10台手に入れて、山岳猟兵を訓練している。少年兵には少し過酷なようだが、部隊のマスコット的な存在になっているようで、皆にかわいがられていたぞ。


 そして俺は、ちょっと変わった武器を考えている。

 敵の軍隊相手なら今までの武器で良いだろうが、大型の魔物というやつが曲者だ。

 最終的には旧パラムの王都を再建したいのは誰もが思っているに違いない。

 だが、王都にあった迷宮の入口は破壊され、今でも魔物が破壊された入口から出て来るそうだ。

 その魔物を容易に倒す方法が無い限り、旧パラム王都内を歩けるのは高レベルのハンターだけだ。

 そこで、考えたのは重くても良いから強力な弾丸を発射できる銃だ。

 バレルの内径だけで3cmはある。そして長さは1.5m程。鉄の三脚に伸せて使う、殆ど対戦車ライフルみたいなものだ。

 たぶん連合王国でのみ作れるだろう。鍛造鋼の成形加工等、村の工房では夢のまた夢だ。レムナムや三度みなすでも不可能と考えられる。そしてこれが旧王都も魔物対策の切り札になるだろう。

 ボルト操作で後装式なら3丁もあれば十分だろう。

 あくまで戦用ではないから、明人さんも許してくれるに違いない。


 外略図を描いて、補足説明を加えれば連合王国の工房では形にできる。

 大型工作機械までは実用化してはいないようだが、ある程度の大きさまでは対応できるみたいだ。動力源は水車辺りだろうが、ひょっとして初期の蒸気機関ぐらいはあるのかもしれないな。


 従兵に頼んで、照会経由で明人さんに送って貰う。

 数日過ぎれば何らかの便りが来るだろう。

 あまり兵器を作りたがらないようだ。やはり兵器開発のスパイラルを恐れている感じがするな。

 

 「お兄ちゃん、終ったの?」

 「あぁ、終ったよ。なんだい?」

 「この間の綺麗な絵を見せて!」

 

 俺の言葉を聞いて嬉しそうにエリィちゃんに何か話している。あれを見せてあげたいのかな?

 端末を取出して仮想ディスプレイが現れたところで、司令室にいる連中にも声を掛ける。

 皆、このエイダス島から出たことはないだろうしな。

 こんなんで、旅行気分が味わえるなら安いものだ。


 皆が集まったところで、自動モードで写真のスライド上映のような鑑賞会が始まる。

 結構長いから、その間は俺が通信機を見張ろう。暖炉のベンチに腰を下ろし、タバコを取り出す。

 通信機はスピーカモードになっているから、何かあれば分かる筈だ。


 時々、うわー!とかすごい!とかの声がテーブルから聞こえてくる。

 やはり、連合王国の文化水準は俺達よりも遥かに高いからな。

 だが、それを目標として頑張れば、俺達も同じように暮らせるかもしれない。俺達の代ではできなくとも次の世代がそれを引き継いでくれるだろう。

 文化には到達点はないから、永続的により良い生活を目指せばいい。


                ◇

                ◇

                ◇


 10日程経った、ある日のこと。

 端末を開くと、明人さんからメールが届いていた。

 早速、開けると例の対戦車ライフル銃の話が書いてある。


 『……先ずはおめでとう。どうにか国としての体裁を作れるまでになったようだな。

 だが、国作りはそれで終わりではないぞ。そこから始まると考えておいた方がいい。

 建国記念日には連合王国を招待してくれ。それと忘れずにレムナム王国とサンドミナス王国にも招待状を出しておけ。招待状は商会に託せば間違いなく届く。来るか来ないかはどうでもいい。出すことが重要で、それによって色々と分かってくるものもある。

 連合王国としては物資の援助がやり易くなる。大型の援助も可能になる筈だ。

 そして、屯田兵については更に1小隊規模で移民を行いたい。たぶん、移民はそれが最後になるだろう。

 最後に、対戦車ライフル銃だが、5丁を贈る。ライフル銃の製造と同時にこちらは既に作っていたのだ。

 使用目的は大型獣対策だから目的とするところは同じだ。ちなみに、マンモスの頭蓋骨を貫通できるぞ……』


 添付された画像を見て驚いた。

 本当にマンモスのような、巨大な毛むくじゃらのゾウの姿がそこに映っていたのだ。

 この世界に何故にいるのかは分らないが、もっと色々と教えて貰った方が良いのかも知れないな。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ