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N-119 展望


 続々と入港した商船から、ネコ族の人達が俺達の版図にやって来ているそうだ。

 ガリム王都の炎上から一月経っても、逃げ出すネコ族はまだいるみたいだな。

 ガリム王族は数百の兵士とともに、南西に広がる大きな森に逃げ込んだみたいだ。

 レムナム軍は山狩りをするような形で森を遠巻きにしているが、さてどうするんだろう? 火攻めという手もあるが、余りに森が大きすぎる。

 場合によってはエイダス島から他国に亡命することもありえるな。

 サンドミナス辺りは、兵士込みで受け容れるかも知れない。


 レムナム軍も再編して休養と言うことになるんじゃないかな。

 大返しは作戦的には成功だが兵士の疲労は大きいからな。そして新しい支配地の統治もしなければならない。

 まだ、反対勢力がいるのなら厄介なことになりそうだ。

 

 そして、サンドミナスも俺達に構っている暇は無くなったに違いない。

 廃都の結界の一部が壊れたことで南の森が魔物の住処になってしまったから、パリム湖を時計周りに辿ることは至難の業だ。

 サンドミナスも俺達の版図に進出出来なくなった代わりに、レムナム軍の迂回侵入をある程度無視することができるだろう。

 国境の名も無い川の防衛と、内海を渡って進軍してくる軍船の防衛が彼等の課題になるだろう。

 内海は外洋への出口が小さいことから比較的穏やかだ。急造の船でも容易に兵員を輸送できるだろう。


 「お兄ちゃん。アルトスさんとエクレムさん。それにメイヒムさんとジェイムさんが来るって言ってたよ」

 

 暖炉でタバコを楽しんでる俺をエルちゃんが振り返って教えてくれた。


 「時間を言ってた?」

 「お昼には着くって言ってたよ」

 

 鳩時計を見ると後1時間ぐらいか……。反対側のベンチで編み物をしているミイネさん達が俺達の話を聞いて此方を見ていた。


 「ミイネさん。どうやら客人です。何か摘む物を作ってくれませんか?」

 「分ったにゃ。簡単なお菓子を作ってくるにゃ」


 お菓子と聞いて、エルちゃんの隣に座っていたエリィちゃんがニコリと嬉しそうな顔をしている。

 この間、ミイネさん達が作ったドーナッツは美味しかったからな。

             ◇

             ◇

             ◇


 4人がやって来たのは、昼を少し回っていた。

 今回は発言権は無いが、外ネスさんとアイネスさんが末席に座っている。

 アイネさん達は俺達の後ろのベンチに並んでいる。

 そして、アルトスさん達の前には俺とエルちゃんだ。

 

 ミイネさんが作った薄いパンにハムと野菜を挟んでクルクルと巻いたロールパンを皆で頂きながらお茶を飲む。

 長い話になりそうだからな。腹ごしらえはしておいた方が良さそうだ。


 そんな食事を取りながら、部隊配置の状況を説明する。 

 

 「危機は去ったと言うことか?」

 「危機が小さくなったと考えてください。依然として危機は存在します。南の森にどんな魔物が紛れこんでいるかが分かりません」


 「旧パラム王都の魔物か……。銀レベルが出ていると厄介になるな」

 「だが、ハンターの多くが旧パラム王都の結界を潜って魔物を狩っている。彼等の平均のレベルが青の高位辺りだ。確かにチームを率いる者は黒だろうがな」


 それ程深刻になるな、ということかな。

 確かに、1小隊が一度に散弾銃でスラッグ弾を撃てばたいがいの魔物は始末出来るだろう。

 だが、どこに、何時出現するか分からないのも事実だ。見張りと素早い部隊運用が出来るようにしておかねばならないだろう。

 

 「それでも、素早く見つけて、始末することは必要でしょう。2個大隊は必要ないでしょうが、防衛線の兵力を削減するときにはその辺りを考慮願います」


 俺の言葉に、アルトスさんとエクレムさんが頷いた。

 

 「次は北も考慮する必要があるな。そして、移民とガリム王国からの引揚者で駐屯地には5千人程いるのだが、多くは婦人や子供達だ。中には元兵士やハンターもいる。何とか彼等にも協力して貰いたいものだ」

 「北のハンター部隊を早期に解散すべきでしょう。現在の3個大隊体制では、南北の同時侵攻に対応は出来ません。何とか2つ程大隊を作らねばなりません」


 俺の言葉に全員が渋い表情をする。……どうにか、3個大隊を作っているのだ。更に2個大隊千数百人を動員する力が俺達にはない。

 

 「新たな移民や戻って来た旧パラムの住民から徴募しても、1個大隊には未たないだろう。精々2中隊がいいところだ」

 「そこで、民兵を作ろうと思います。俺達の戦の基本は防衛戦です。頑丈な石塀に囲まれた状態で、前に向かって散弾銃を撃つならば、それ程訓練を必要としないのではないでしょうか?」


 「確かにそれならば可能だろう。拠点守備になるが、安全な場所からならそれ程被害も受けないだろうし、士気の低下もあまり気にしないで済む」

 「ひょっとして、婦人や子供、老人も参加させる気なのか?」


 俺は黙って頷いた。

 それを見て、全員がしばらく口をつぐむ。

 

 「ここまで来ると綺麗ごとは言っておられません。総力で迎撃することになります。銃を使って弾を前に飛ばせる者なら全てを動員することも視野の内です」

 「とりあえず、散弾銃を使ってスラッグ通常弾を撃てる者とすれば、15歳から40歳までを動因できるだろう。だが、実際には三分の一以下になるな。魔石は貿易上必要だ。それに村の維持も考えねばならん」


 「民兵に出来そうな人員は……、なるほど2個大隊規模は確保できそうだ」

 「その良い例が、北の大地を開墾している筈です。屯田兵は平時は農作業ですが、事が起これば兵士に変わります。そこまで行かずともそれに近い動きを民兵に期待したいですね」

 

 「それは、メイヒムに頼もう。現在、北の石塀を守っているハンター達と早期に交代させてくれ」

 「了解です。それと入植者の生活の保証はお願いしますよ」


 「動員したハンター達が再び迷宮に挑む筈だ。蓄えも無限ではない。なるべく早く魔物狩りに復帰して貰おう」

 「それは、拠点のハンターにもいえますよ。彼等も村に早く返すべきでしょう」


 「そうですね。その為に新たな兵種を作ります。猟兵部隊です。規模は3小隊。

 ラクトー山の監視と敵の偵察部隊への攻撃です。全員にライフルを装備させてください」


 そう言いながら、地図にその偵察範囲を指で示した。


 「かなりの範囲になるな。だが、来ると考えているのか?」

 「来るでしょうね。場合によっては、現在の拠点位置を敵は狙ってくるかも知れません。レムナム国王はかなりの軍略家です。次の侵攻に際しては相当の下調べを行うでしょう」


 「だが、大国には大国の弱点がある」

 「確かに、レムナム王国内には火種が燻ぶっています。特に今回のように先を急ぐ戦をしたからにはその火種を根絶するのに時間が掛かるでしょう。ですが、これを表に出さない方法は意外と簡単なんです」


 そう言って、話をしたのは密告制度と差別制度だ。5人組み制度も使われそうだな。


 「自分達よりも更に苦しい暮らしを見せることで安定するのか? そして連帯責任と密告制度が使われては身動き出来なくなるぞ」

 「それが狙いです。制度的には単純ですが効果は高いですよ」


 だが、それでも燻ぶった者達が蜂起することはあるだろう。それに厳罰をもって対応すればやがて火は消える。そして、恐怖政治が始まるのだ。

 

 「俺は、何をすればいい?」

 ジェイムさんが名乗り出た。

 

 「出来れば、社会基盤の整備をお願いします。そして、人材の発掘を行ってください。戦に必要な人材はアルトスさん達が見つけて来るでしょうが、民生考えられる人材の発掘をお願いします。そしてもう1つ、損得勘定に長けた人を探してください」


 「それは次の戦に必要になる人物なのか?」

 「いや、どちらかというと戦がない状態に必要な人達です。俺達は敵からみれば単なる野盗ですよ。相手が国として認識していないでしょうからね。国の体裁を造って、連合王国に認めて貰わねばなりません。これは戦を優位に進める上にも必要なことです。

 さらには、工房の誘致や更なる移民の対応等もありますから、戦ばかりを考えてはおられませんよ」


 「たぶん長老達も手助けをしてくれる筈だ。まぁ、頑張ってくれよ」


 エクレムさんは他人事のようだな。

 その内、とんでもない役を負わされそうだぞ。

 

 「そして、良いですか。……最大の課題が、1つあるんです。それは、この俺達の国の政治形態をどの様にするかです」

 「前国王の末の王女がいるのだ。王国で良いのでは?」

 

 「俺もそれに賛成だ。長老達が補佐してくれるだろう」

 「だが、レムルがそれを問題視するということは、王制を望んでいないのか?」


 「君臨すれど統治せず……。これが俺の理想なんですが、ここでは難かしいでしょうか?」

 

 5人が一斉に俺を見る。その目はかなりの威圧がこもっているな。

 やはり、受け入れることは難かしいか……。


 「君臨は分かる。だが統治せずでは責任の放棄にならないか?」

 

 エクレムさんの質問にみなが頷いた。

 

 「統治は国民に任せることになります。最初から全てとは行かないでしょう。軍隊と外交を国王に任せて、国民の暮らしに係ることを国民の代表者に任せます。勿論責任は代表にとって貰うことになりますが、その報告と執行に関しては国王の許可を得る形で進める事になりますね」

 

 「護民官を国民が選ぶのか?」

 「30人程の代表者を選び、そこで国民生活を向上させるための議論をして貰います。そして代表者の中から更に護民官に相当する者を選び、その遂行を行わせます」


 「確か、連合王国の統治制度はそんな形だと聞いたことがある。王はいるが、どちらかというと全体の治世を監視するための組織らしい」

 「将来的には連合王国への参入も、視野に入れる必要があると考えます。俺達の版図は小さく、将来的にエイダス全島を支配する等と考えるのは無謀です」


 「言わんとすることは分る。だが、この戦は誰かがエイダスを統一しない限り終わらんぞ。エルムの考えは少し消極的だ」


 アルトスさんがそう言うと、パイプを取り出した。

 ミイネさんとシイネさんが立ち上がって、全員のカップにお茶を注ぎはじめる。


 やはり、消極的過ぎるか……。

 それは俺も認める。だが、全島統一にはどうしても必要なのが兵力だ。

 それを考えると、ある程度の場所で妥協しなければならなくなる。版図が広がれば、その維持を図る為の兵力もまた必要なのだ。


 「でも、そんな治世を敷いたらレムナムは何れ滅びるんじゃないかな。国王が元気な時は良いけど……」

 

 何気ないエルちゃんの言葉に俺達はエルちゃんに注目する。

 確かに、恐怖政治が長く続いたためしは無い。

 

 「レムナム国王は何歳ですか? それと種族は?」

 「確か50歳位だと聞いたことがある。そして種族は人族だ」


 後、10年程度が気力が保つ範囲ってところだろうか?

 だとすれば、あまり俺達に余裕は無さそうだ。

 「最終的な目標はエイダス島の統一としても、その前にレムナムとのエイダス島2分割を考えましょう。2分割したところで国力を高め、レムナム王国の隙を窺います。長くても30年程でしょう。

 現在のレムナム国王が退き、新国王の選出で国が紛糾した時が俺達の付け入る隙になります」


 名案では無いが、国王の交代はその国王が恐怖政治を引けば引く程に、後継者で混乱するだろう。

 各地で叛旗も広がるし、国軍もみだりに動くことができない。下手に動けば反乱の恐れありと疑われかねない。有能な将であれば尚更だ。

 果報は寝て待てとはこのことだろうな。


 

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