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N-118 ガリム王国崩壊の始まり


 レムナム王都は何とか耐え切ったようだ。

 後続の2中隊が後を脅かし始めると、王都を取り巻く攻撃が段々と鈍くなっていく。

 そして、日が昇って来たころにレムナムの軍船が港に到着して部隊を降ろし始める。その数は1個大隊にも匹敵するぞ。

 真直ぐ、王都を目指して進んでいる最中だ。

 軍船は港を少し出ると、ガリム海軍を待伏せするように展開した。


 「勝負はレムナムに傾いているな。これでガリムは滅びるのか……」

 「パラム、ボルテムに続いてになりますね。残るはサンドミナスと俺達です」


 吐き出すような声でアルトスさんが言葉を発する。

 俺は淡々とそれを肯定した。

 すると、全員が俺の顔を見る。


 「次ぎは俺たちか?」

 

 エクレムさんが呟いた。

 

 「たぶん。レムナムにとって目の上のたんこぶですからね。今度は大変ですよ。大軍が相手です」

 「例の移民はこれを考えてのことなのか?」


 「本来は、農業開発です。でも、手伝って貰えるなら助かります」

 「全く、レムルいてくれて良かったぞ。正しく大軍師の名に恥じぬということだ」

 

 「レムナム国王の軍略は相当なものだな。だが、俺達にもレムルがいる。そして俺達精鋭もいるのだ。俺達の版図にはやつらを1人たりとも入れぬよう頑張らねばならぬ」


 アルトスさんの言葉に全員が頷いてるけど、そんなに頼りにされても困ってしまうぞ。

 だが、この騒ぎで1つだけ俺達に有利になったことがある。

 南の尖塔が破壊されて廃都の魔物が半分開放されたことだ。3割は傭兵を追って行ったに違いない。だが半分以上は南の森に拡散した筈だ。レムナム軍が俺達を襲撃するためには魔物を倒しながら進軍する必要がある。

 かなりな消耗を強いられるだろうし、進軍速度も低下するだろう。

 

 そして、北を廻る進軍ルートは途中に集落がまるでない。

 補給路が長く延びた進軍は容易ではないし、場合によっては補給部隊を襲撃することもできそうだ。

 だが、その前に、山の斜面を越えるルートを閉ざす必要がある。

 難工事だが、簡単な柵と空掘りだけでも作っておくべきだろう。

               ◇

               ◇

               ◇


 「サンドミナスは動くだろうか?」

  

 エクレムさんがお茶を飲みながら俺に顔を向ける。

 全員が俺を見たところを見ると、皆が同じことを知りたがっているということか?

 飲みかけたカップをテーブルに戻すと、地図の上の現時点の部隊状況を見ながら話を始めた。


 「半年は大軍をうごかさないでしょう。サンドミナスは軍を2つに分けねばなりません。王都周辺の防衛部隊と国境の防衛軍です。

 更に攻撃軍を作るとなると、徴兵して訓練を行なう必要があります。

 先ずは、レムナム軍の侵攻に対する防衛を整え、旧ボルテム地方を侵略することを考えているのが現状でしょう」


 「では、つかの間の平和が俺達に訪れるのか?」

 「そうなります。ですが……」


 「分っている。その間に柵を更に堅固にして空掘りを掘ることにする。エクレムは見張り所の柵をラクトー山の斜面に沿って伸ばすことだ。

 レムルの話では今日から5日は森は安全だということだが、見張りをたてればもう少し伸ばせるだろう」

 「材料は森で手に入れるからな。早速連絡させよう。そして俺達も引き上げだ」


 2人は簡単なメモを作るとエルちゃん達から交替した少年兵に渡すと、俺達に片手を上げて部屋を出て行った。

 兵舎で休息して帰るんだろう。


 テーブルと、ベンチを見ると眠そうな顔をした連中ばかりだな。

 

 「さぁ、とりあえずは俺達に影響は無いだろう。皆、一眠りしてくれ」

 「いいのかにゃ? 誰もいなくなるにゃ」


 「俺が、ベンチで横になってるよ。何かあれば……、アルを残しておくから、彼に皆を呼んでもらうよ」

 「分ったにゃ。昼過ぎまで一眠りするにゃ」


 ぞろぞろと出て行く連中がいなくなったところで、俺とアルは暖炉の前にあるベンチで横になる。

 

 この後に予想されるのはガリム王国の防衛戦だが、いったい何時まで続くのだろう。

 連合王国のネコ族救出作戦は、予想通り明人さんから出されたもので、ハンター10人程がガリム王国で活動しているらしい。

 活動内容は不明だが、3日程過ぎれば港に救出された者達がやってくるだろう。

 その聞き取り調査でおおよその活動が分かる筈だ。

 俺がガリム王国のネコ族保護を考えたのは昨夜だが、連合王国のハンター達が既に動いているということは、少なくとも10日以上前にこの事態を予想できたということになる。

 今更ながらに連合王国の情報収集能力とその分析能力には驚くばかりだ。


 そして、サンドミナスの動きが少ないのも気にはなる。

 この事態を予想していなかったんだろうか?

 まぁ、この時代の情報伝達手段は伝令か早馬みたいな感じだからな。以外とまだ知らないのかもな。

 ここで、知ったらどう動くんだろうか?

 サンドミナスが欲しいもの……、それは兵士に他ならない。

 軍船がサンドミナスを出てガリムに向かうならば、それは自国の兵力を高める腹づもりの筈だ。ガリムの兵士とて、レムナムとの再戦は望む所だろう。


 そんな事を考えながら、何時しか俺は眠りに落ちたようだ。

             ◇

             ◇

             ◇


 エルちゃんに起こされた時、時計を見ると3時を過ぎている。

 数時間は眠ったようだな。

 アルはとっくに起きて、エルちゃんに起こされてる俺を見ていたようだ。

 

 ぼ~っとした頭を、レミーが出してくれたお茶を飲んでスッキリさせる。

 思わず、ニガイ!って叫びたくなるようなお茶だったが、頭はスッキリしたな。この苦さはアイネさんの作った毒消し以来だぞ。あれは苦い上に不味かったんだよな。


 「エルちゃん状況は?」

 「通信が1つ。『傭兵は北に去った。森の西に2つの小隊が陣を作った』って偵察部隊から」


 これからの部隊運用を考えると、駒の種類を何種類か作っておいたほうがいいかも知れないな。

 小隊、中隊、大隊の3種類は必要だろう。後で形を考えて作ってもらおう。


 「偵察部隊は分隊規模だったから、そろそろ引き上げさせるか。アルトスさんの部隊からだろうから、アルトスさんに引き上げても良いんじゃないかって質問する形で通信してくれないかな」


 直ぐに、エルちゃんが通信文を書き始めた。

 一応、アルトスさんが指示しないと、指揮系統がめちゃくちゃになりそうだ。


 タバコに火を点けて端末の仮想ディスプレイで状況を確認する。

 レムナム王都を囲んでいた部隊はガリム王都に向かって進んでいる。

 その後を、3中隊程のレムナム軍が追撃しているようだ。

 

 今夜には形勢が逆転してガリム王都の攻防戦が始まりそうだが、それが本格化するのはもう少し後になってからだな。2個大隊の軍勢が明日にはレムナム王都に到着しそうだ。相当な強行軍だが、数が揃ってるからな。この軍勢がガリム王都から確認できたら王都を一斉に逃げ出すに違いない。

 

 気になるのはネコ族救出の状況だ。こればかりは此処から部隊の様子を確認することはできないぞ。

 待てよ、ガリム王国の港から商船は脱出している筈だ。保護したネコ族の中には老人子供もいるはずだから、島の北側を時計回りに移動することなど不可能だ。

 だとしたら、適当な入り江に商船を待機させている筈だ。


 俺は、ガリム王国の海岸線沿いにディスプレイの画像を拡大して調べていった。

 そして……。あった!

 20分程調べると、外海の近くに小さな入り江があり、小型の商船が2隻待機していた。

 近くには町があるが、小さな砂漠があるようだから、近寄る者はいないだろう。

 良く見ると、その町からも身1つで入り江を目指して歩いている者が見える。

 さらに北の町からも集まってきているぞ。

 かなりな人数を救出出来そうだな。

 商船が小さいのが気にはなるが、俺達の港に救出した人達を降ろした商船が再びこの入り江に向かうんだろう。

 

 それによって、村の人口はどれ位に増えるのか予想は難しいが、移民を含めて3万人程度にはなるだろう。

 ハンターの仕事が増えそうだな。税率は上げたくないし、遺跡の迷宮にも積極的に挑んで欲しいものだ。

 そのためには、ハンターを管理するギルドの常設が必要だ。

 さらには、民兵組織の立ち上げも考えておく必要があるだろう。

 

 北の石塀を守りながら開墾を行なう屯田兵に指導して貰ってネコ族の屯田兵を作りたいものだ。これはアルトスさんに会った時にでも相談してみよう。

 

 夕食前に、再度ガリム王国の王都を見ると、黒煙に包まれていた。

 レムナム軍は略奪よりも殲滅を目的にしているようだ。

 もう、王都にネコ族が残っていないことを祈る外にないな。

 王都に住むものは、王族も庶民も全て灰にすることを考えているように思える。


 「それで、状況はどうなのですか?」

 「あぁ、ガリム王国の王都は炎上中だ。今夜あたり、ガリム軍の反撃を行ないながら王都から闘争を企てているんじゃないかな。だが、そこからはジリ貧だ。南に逃れても何時かは追っ手から追い詰められる。そして終わりだな……」


 夕食後に、ガウネンさんが訊ねてきた。

 一応の状況を説明すると、カーリーさんが下を向く。

 

 「連合王国の救援は間に合わなかったにゃ……」

 「いや、内科医の外れにある入り江に商船が2つ停泊していた。それに向かって2つの町から身一つで脱出している者達がいる。たぶんネコ族の人達だ」


 「手回しが良すぎます。俺達だってこの事態を知ったのは最近ですよ!」

 「そうだ。俺だって半信半疑で過ごしていたのも確かだ。だが、連合王国には、軍隊組織の上を行く者達がいることも確かだ。その人達が動いたんだと思ってる」


 「何故に我等を助けてくれるんでしょう?」

 「以前に、聞いたことがある。妹がネコ族だったらしい。そしてハンターになっていろいろと助けてくれたのもネコ族の人だったと言っていた。俺も昔教えを受けたことがあるから、できの悪い弟子を見る気持ちも少しはあるかもしれない」


 「受けた恩義は忘れないということですか……。ネコ族のような考え方の御仁ですな。それにしても妹がネコ族と言うのは良く分かりませんね」

 「それは聞き辛い話だぞ。だが、確かにそう言ってるし、あの場の人間は誰もそれを訂正していない。確かに妹として育てていた娘がいたんだと思う」


 それは数百年も前の話で、その妹は今は墓の中に眠っている筈だ。

 マイデルさん辺りなら知ってるかもしれないな。たぶん有名人なんだろうからね。


 「それで、ガリム王国については部下達に話しても良いのだな?」

 「問題ありません。そしてしばらくは戦が無いことも話して置いてください。ただし、5日後には魔物が森を徘徊します。木を伐採する者達には特に注意してください」


 俺の言葉にガウネンさんとカーリーさんが頷く。

 柵と空掘りはこのまま作業していても問題は無い。どうせ、1年後には必要になる代物だ。

 そして、その1年間の間に俺達の軍隊をどれだけ大きくできるかが、今後の大きな問題になる。

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