表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/177

N-116 2王国の策略


 ジッと司令室で状況を見守る。

 ボルテム王都への総攻撃が始まって2日目までは、傭兵部隊の動きはなかった。

 そして3日目の早朝、司令室の通信機に緊急を告げる短点の連打が届いた。


 時刻は朝の6時半だ。俺達がようやく起き出し、俺は顔を洗って部屋に戻り、暖炉際でお茶とタバコを楽しんでいた時だ。

 直にエルちゃんが気付いて、通信機の応対を始める。2人の少年兵もその表示灯の点滅をジッと見ながらメモを取っていた。


 始まったようだ。

 俺はタバコを投げ捨て、テーブルに戻ると端末を取出して状況を確認する。

 森の中だから、サーマルモードに変更して、石造構築物に群がる傭兵の集団を眺める。


 やはり、南の尖塔に集団が移動しつつある。他の尖塔には偵察だろうか小規模な集団が動いているが途中で移動を停止したように見受けられる。

 廃都の魔物が行く手を阻んだようだ。


 ラクト村に向かって小さな赤い輝点が移動しているのは、ハンター達だろう。移動速度はそれ程速くはない。ラクト村がこの知らせを受けるのは昼過ぎるんじゃないかな。

 そんな中、かなりの速度で移動していく集団があった。3つ程の集団は馬か何かで移動しているようだ。たぶん傭兵と共に駐屯していたレムナム軍の正規兵なんだろう。この速度で移動すれば、夕暮れ前にボルテム攻略軍とレムナムの王都に到着するだろう。そして、3つあるということは、ガリム王国軍の兵士が傭兵部隊に混じっていたとも考えられる。

 

 ガリム王国に画像を移動すると、王都の南に展開していた2大隊規模の軍団が見えない。

 慌ててサーマルモードに切替えると、国境の南約2km程の所にぼやけた発熱反応がある。

 夜間移動して砂を塗した天幕の下に隠れているようだ。

 

 国境からレムナム王都までの距離は30km程だろう。1日で到着できる。そして、レムナム軍の主力はボルテム王都攻略の真っ最中だ。

 増援軍が出ているが、数日前に出発しているから引き返しても間に合わないし、ガリム王国軍の部隊も一緒だ。


 状況を確認しながら、地図上の部隊配置を変更していく。

 問題は、この早馬みたいな連中だな。彼等がもたらす知らせを受けて各部隊がどう動くかだが……。

 ガリム王国の動きが早くないか? これだと、あらかじめ尖塔の破壊日付を決めていたようにも思える。

 

 タバコを取り出して日を点けようとしたところに、エルちゃんがテーブル越しに報告を始めた。


 「お兄ちゃん、聞いて! 通信文は『南の尖塔が破壊されつつあり、戦闘が起きている模様。他の尖塔は現在無事』という内容。こちらからは、『変化がなくても通信をなるべく送れ』と返事しておいた。

 アルトスさんの部隊とエクレムさんの部隊、それと駐屯地に連絡終了だよ」

 「ありがとう。今はそれで十分だ。次の変化は昼過ぎだと思うんだけどね。傭兵達が他の尖塔も破壊するとかなり状況が変化するから、エルちゃんの送信は俺の考えと同じだ」


 バタンっと扉が開き、ガイネンさんとアイネスさんが副官を連れて入って来た。


 「尖塔が破壊されていると聞いたが!」

 「始まりました。とりあえず関係する箇所には連絡済みです。それに何かあっても10日以上先になるでしょうから、5日程は今までの状態で問題ありません。先ずは食事にしましょう」


 食事を運んで貰って、朝食を取りながら状況の説明を改めて行った。

 

 「…すると、レムル殿が前に言ったガリム王国の策略の可能性が濃厚ということになる」

 「山脈を越えて東に来たら厄介にゃ!」

 

 「それまでには日数が掛かります。たぶん山越えの後は西に向かうと思いますよ。

向こうも俺達がサンドミナス軍を退けた位は知っているでしょうし、折角、宝をせしめたんですから、それを投げ出して俺達を襲うことはないでしょう」


 「では、我々はこのままで良いと?」

 「一応、全軍に状況を説明しておけばいいでしょう。旧パラム王都の南の尖塔が傭兵部隊に破壊されて、魔物が逃げ出した。後10日もすれば南の森に魔物がやって来る。魔物の逃走でラクト村方向からのレムナム軍の襲来は不確定になりつつある。……これ位は知っておいても問題はありません。隠す方が士気を低下させる事もありますからね」


 「了解だ。南の森の道もかなり見通しが良くなってきたし、新たな柵や空堀も作っている。それを伝えれば作業もはかどるに違いない」

 「そうにゃ。隠してると悪い方に噂が立つにゃ」


 そう言って、食事を終えた2人は副官を連れて出て行った。

 エルちゃんも昼の当番兵のエリィちゃんと一緒に通信機の前に移動する。アイネさん達は暖炉のベンチに移動した。確かにここより暖かいからね。

 俺は1人で端末を立ち上げると、仮想ディスプレイを睨んだ。

 

 廃都の南から煙が上がっている。森を焼いているのか?

 鬱蒼とした森は見通しが悪いから不便だな。サーマルモードでも火事の熱で人の集団が分からなくなっている。

 他の尖塔付近には発熱反応が見受けられない。破壊は尖塔1つに限定されたようだな。そして、早馬は……もう直に村に入るみたいだ。

 レムナム国境のガリムの部隊は沈黙している。

 そして……! 海上にレムナムの軍船が出ているぞ。軍船の数はガリムの軍船より多い10数隻だ。

 

 ということは、レムナム国王はガリム王国の策を利用してるってことか?

 例え2個大隊でレムナム王都を攻略しようとしても、王都に2中隊もいれば当座は凌げる。

 その間に軍船で兵員をガリム王都周辺に上陸させたら……。

 だが、それ程の軍勢をレムナムは持っているのだろうか?

 ボルテム王国を滅ぼすに兵員をかなり消耗している筈だ。

 たぶん徴兵も行っているだろう。だがそんな兵士を前線に投入すれば新兵であるだけに士気を下げるのが落ちだ。

 となれば、投降した兵士を利用する手はある。

 兵士の家族を人質にすれば、死に物狂いで戦場に臨むだろう。

 

 もしそうなら、とんでもない策士だな。

 それが分かるのは、今夜か。少なくとも軍船が接岸するのは夜になりそうだ。

 そして、まだ行動に移さないところを見るとガリム軍の侵攻も今夜ということになる。

 

 テーブルを離れて暖炉のベンチに座ると、タバコに火を点ける。

 カーリーが俺にお茶を入れてくれた。


 「大分悩んでるにゃ。何かあったのかにゃ?」


 俺の顔を覗き込むようにしてアイネさんが聞いてきた。

 

 「ちょっと、事態が複雑になってきた。エルちゃんはそのまま、通信機のそばにいてくれ。間もなく傭兵の撤退が始まる筈だ。その連絡が入ったら、偵察部隊の位置を西に移動してくれないか。どうも、レムナムの動きが変だ」

 「西にどれ位移動させますか?」


 「傭兵が森を出て北に向かうのを確認できるところまでだ。たぶん20M(3km)程度でいいんじゃないかな」


 俺の言葉を、しっかりとメモってるな。

 これで、傭兵の方はいいだろう。俺の勘が正しければラクト村から討伐隊が出発する筈だ。

 1中隊あれば、十分牽制できる。彼等の任務は少しでも早くボルテナン山脈を傭兵に越えさせること。それによって東の脅威を魔物だけにするつもりだ。

 たぶん、こんな感じで東は進むんじゃないかな。

 そして、レムナムの軍船がガリム王国に接岸したら……今度は、全軍を挙げてガリム王国の侵略が始まるんだろうな。


 だが、それ程旨くことが進むんだろうか? その計略に課題はないんだろうか?

 ガリム王国が1個大隊をレムナム軍と一緒に増援させなければガリム王国に軍配が上がっていたかも知れないな。そして、ガリム海軍がボルテム王族を攻撃する為に内海を東に進まずに港に入れば、また違った結果となるだろう。

 今のところ、全てがレムナム王国の考え通りに進んでいると考えて良さそうだ。

              ◇

              ◇

              ◇


 「「来た!!」」

  

 エルちゃんとエリィちゃんが同時に声を上げる。

 俺達全員がエルちゃんの前にある通信機のチカチカと瞬くランプを見詰めるが、誰もその信号を読む事ができないんだよな。

 それでも、そのランプの瞬きで俺達の緊張は一気に高まった。


 2人がとった通信記録を互いに確認すると、エリィちゃんが電鍵を叩き始める。

 えるちゃんは席を立って俺の前にやってきた。


 「旧パラム王都の北にいる偵察部隊からです。『傭兵が戦闘を行いつつ撤退中』以上です。先程お兄ちゃんに頼まれた文面を見張り部隊に送った後に、アルトスさん達3箇所に偵察部隊からの電文を送ります」

 「ありがとう。偵察部隊には、傭兵の戦闘相手が人か魔物かを問い合わせてほしい。今のところ大きな変化じゃないから心配はいらないよ。

 アイネさん。ガイネンさん達に連絡しといてくれないかな」

 

 「直に出掛けるにゃ!」

 

 そう言ってマイネさんを連れて出て行った。

 時間は2時過ぎだな。そろそろ小腹も減ってきたぞ。


 「ミイネさん。例のお菓子を……」

 「食べたいのかにゃ? 大丈夫にゃ、沢山作ってあるにゃ」


 シイネさんと頷きあって部屋を出て行く。

 これで、おやつの時間に間に合いそうだな。もっともこの世界ではおやつという概念がないかも知れないけどね。


 そして30分後、俺達はテーブルを囲んでドーナツを食べている、何故かしらアルトスさんとエクレムさんも一緒だ。副官を残して状況の詳細を知る為にやってきたらしい。


 「まさか、お菓子を食べながらお茶を飲むとは思わなかったぞ。悲壮な顔をして沈んでいると思っていたのだが……」

 「全くだ。俺の部隊など黙々と銃の手入れをしてる奴が殆どだ」


 「あれ程、時間はあると言ったじゃないですか。魔物が廃都を逃げ出しても、南の森から現れるのは早くて5日以上先の話ですよ」

 「だが、兵士はそうは思わんようだ。もう少し詳しく聞いて中隊長達に説明せねばなるまい。それでやってきた」


 アルトスさんが応えるとエクレムさんも頷いている。

 かなり不確定要素が高いが、俺の考えを話しておくか……。


 「現在、分かっていることを話しておきます。その後で俺の考えで良いですね?」


 俺の言葉に、アルトスさん達以外にもテーブルを囲んだ連中が頷いてる。


 「今朝方始まった傭兵による尖塔の破壊は南の尖塔を破壊しただけで終了しました。傭兵達は魔物と戦闘を継続しながら撤退中。まだ森からは出ていませんが時間の問題でしょう……。

 以上が、確実な情報です。

 これからが、この情報を元にした俺の考えです。

 今回の傭兵の反旗はガリム王国が意図したように思われますが、レムナム王国がそのように策謀したのではないかと考えています。

 そう考えると、この後どう動くかがある程度予想できます。

 まず、傭兵ですが、魔物ではなくレムナム軍に追われるでしょう。1個大隊の傭兵はレムナムとて無視できません。自分達の意にそぐわなければ早々と帰って貰う方が得策です。

 次にサンドミナスとの国境は膠着状態化させて軍を王都に引き返させます。そうすれば、レムナム王都を囲む2個大隊等北と南から挟撃できます」


 「そこまで読むか……」

 「何時分かる?」


 「今夜…。早ければ傭兵部隊については夕刻には分かるでしょう。ですが、ガリム王国の伏兵が動くのは今夜をおいてありません」


 日没まで後数時間。何時の段階で動くか分からないが、12時間は掛からない筈だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ