表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/177

N-111 ボルテムの黄昏


 何時の間にか長老の部屋にもコタツが作られていた。

 結構大きな作りで、コタツの上に乗せたテーブルだけでも1辺が2m程ありそうだ。

 そんなコタツの何時もの位置に3人の長老が座り、俺とエルちゃんはその横に納まっている。

 アルトスさんとエクレムさんは長老の向かい側だ。残った1辺に長老の世話役と2人の伝令が入って、俺達にお茶を出したり、用意したメモ用紙を広げている。

 部屋の角には2つの光球が浮かんおり、コタツの真上にもう1つ光球が天井に埋め込まれたように浮かんでいた。


 「コタツは好いのう……。ネコ族最大の発明じゃ」

 「最初に作ったのはレムルですぞ!」


 「立派な我等の仲間ではないか。まぁ、それは置いておこう。コタツの賛美だけで半日は過ごせそうじゃ」

 「まぁ、それは俺達も同意しますが、今回集まったのは……」

 「分っておる。それで、状況はどうなのじゃ?」


 皆が一斉に俺を見た。

 確かにエイダスの全体状況を確認出来るのは、エイダス中で俺とエルちゃんだけだよな。

 テーブルの上にエイダスを4つのブロックに分けて作られた地図を乗せる。

 この地図だと、パリム湖が全て描かれているし、ボルテム王都やその東にあるヒーデム町も描かれているから、全体状況を考えるには都合が良い。

 

 広げた地図の4角に小石を乗せて固定すると、雑貨屋で購入したチェス用の駒を取り出した。たまたま出掛けた時に見つけたものだ。余り売れないみたいで埃を被っていたが、こんな時には便利に使える。


 「現在の状況です。此処へ来る前にエルちゃんがフラウさんに確認した内容ですから、真偽を疑う必要な無いでしょう」


 そう前置きして、色の違ったポーンを地図の上に配置する。

 赤のポーンをボルテム王都に2つ、その南に1つ、最後にヒーデム町に1つ置いた。

 黒のポーンはボルテム王都の北に3個、東西に2個、そして旧パラム王都の西に1つ。

 

「これが、周辺3国の状況になります。今年の最初の戦は、ボルテム王国の王都を中心にして行なわれるでしょう。

 サンドミナスもボルテムを何時までも支援は出来ません。この川に沿って柵作りが始まっています。

 レムナム王国の侵攻を此処で食い止めるつもりでしょう。

 この付近の土地はパリム湖と内海が一番接近しています。と言うことは少ない軍勢で、国境を守れるという事になります。

 ボルテム王国の切り取りはこの川を境にレムナムとサンドミナスが暗黙に合意すると思われます。

 問題は、その後のレムナム軍の行動です。

 国境は極めて短いことから、両軍とも此処に大軍を駐屯させることは無いでしょう。

 川は防衛に際しては1大隊にも相当すると考えられます。精々1個大隊を配置すればこの国境は維持できるでしょう。

 となると、ボルテム攻撃軍の次の進軍方向は何処か。

 この部隊を先行させて、後ろよりゆっくりと旧パラム王都の南を通って南の森へ、更に北上して我等の版図に向かう可能性が極めて濃厚です」


 全員が息を呑んで、口を閉ざした。

 冷えたお茶を一口飲んでアルトスさんが俺を見据える。


 「何時だ!」

 「ボルテム王都陥落は早ければ一月後、遅くても夏までと考えています。旧パラム王都の南を進軍するのは早くても秋……」


 俺はアルトスさんに短く答えると、地図上の旧パラム王都に4つのビショップを置いた。


 「このレムナム軍による東征には、1つの大きな不確定要素があります。

 現在、王都の西に駐屯している1大隊は大陸の西にある王国から集められた傭兵です。彼等が先行して東に進めば、この尖塔を見ることになるでしょう。

 その時、この尖塔の噂を思い出すかも知れません。尖塔の建設に旧パラム王都の魔石を殆ど使ってしまった……。

 彼等は通り過ぎるでしょうか。それとも尖塔を破壊するでしょうか」

 

 「たぶん破壊するだろう……。だが、そうなると旧パラム王都の魔物をエイダス中に解き放つことになるぞ!」

 「それにせっかく手に入れた土地を、みすみす手放さなくてはならないだろう。更に魔物を狩るために部隊を展開させなければならん。それ位はレムナムの連中にでも分ると思うが?」


 「レムナム軍なら見過ごすでしょう。でも、傭兵は、エイダスがどうなっても気にはならないでしょう。傭兵の給料よりも遥かに値の張る魔石がそこにあるなら略奪は起るべくして起ると思うのですが……」

 「俺達は、旧パラム王都の結界を破壊された後を考えねばならないのか……」


 「エクレムよ。そう熱くなるな。……確かに南の尖塔を破壊すれば旧パラム王都の魔物は開放されるじゃろう。じゃが、思い出すのじゃ。王都の迷宮の入口はどこにあったのじゃ?」

 「それは、王都の北にある神殿の……! 迷宮は残った結界の中にあります」


 長老の指摘に応えたエクレムさんの目が輝いた。


 「そうじゃ。我等も最初は驚いたのじゃが、良く考えてみるとあの結界は王都の魔物を外に出さぬ為であって、迷宮から出さぬ為ではない。王都の南に徘徊している魔物は先行部隊を襲うであろうが、新たな魔物は出て来れぬ」

 「となると、先行部隊は全滅でしょうな。そして西に進む魔物を討伐するためにレムナム軍は苦労するでしょう」


 アルトスさんの言葉に長老が頷いた。

 

 「じゃが、東に向かった魔物は南の森に住み着くじゃろう。短期的には抑止力として役立つが、長期的に見れば我等が退治することになるじゃろうな……」

 「話を元に戻します。懸念はあくまで懸念です。傭兵が尖塔に見向きもしなければ、少なくとも4大隊。多ければ5大隊を南の森からラクトー山の斜面に展開できます。山の斜面を使って大部隊を移動するのはかなり無理がありますが出来ないことではありません。

 このような塹壕と柵を事前に作って、備えることが必要でしょう」


 「基本は岩山の見張り所だな。あそこに2中隊を張りつければ確かに使えるな。ライフル中隊をそちらに回そう。敵が多くとも近づけさせなければ問題ないだろうし、ハンター達が増援してくれるなら更に1中隊を増援できる」

 「森の柵の方は、2大隊と言うところか。だがバリスタを移動運用出来るから、敵の突撃もある程度対処できるだろう。2中隊が残るが、南の柵で良いのか?」


 そう言ってアルトスさんが俺を見た。

 北の守りを気にしてるんだな。


 「北は連合王国からやってくる屯田兵に期待しましょう。屯田兵は通常は開墾を行なっていますが、侵略時には兵士となって防衛戦を展開します。ネコ族からの開拓民と合わせれば常駐させる正規軍は小隊規模で問題ないと思います。現在展開しているハンター達は、岩山の上にある拠点に配置すれば良いでしょう」

 「なるほど……。で、レムルはどこに?」

 

 「たぶん激戦地は、此処になるかと。ならば此処にいるのがスジでしょうね」

 

 俺の指差した場所は森を貫く街道の関所だ。

 

 「確かに激戦になるぞ。だが、そこにいてくれるなら俺達も安心だ。俺とエクレムは此処だが、無線機が使える。連絡は何時でも可能だ」

 「さて、では俺達はそれに向けて準備を始める。レムルのところにも後で中隊長を向かわせる。準備するものもあるだろう。資金はそいつに任せておけばいい」


 アルトスさんの言葉に俺は頭を下げる。

 そして満足した顔で2人は伝令を連れて出て行った。


 改めて長老の世話役が俺達にお茶を入れてくれる。

 そのお茶を飲みながら、今後の大変さを噛み締める。


 「しばらくはハンターを止めてアルトスを助けてやってくれ。町は他の者に後を託しても問題無いじゃろう。北の開墾はやってくる者達に託すつもりじゃ。それと、レムナムからハンターが流出しておるようじゃぞ。案外早くにレムルの友人達がやってくるやも知れんのう」

 「分りました。準備を整えて出掛けます」


 俺の言葉に長老が頷くと、世話役に向かって小さく頷いた。

 すると、世話役は席を立って俺の所にやってきて小さな革袋をエルちゃんに渡す。

 エルちゃんが俺の顔を見上げて革袋を見せてくれた。


 「軍資金ではないぞ。お前達への報酬じゃ。ハンターを止めねば手に入る金額を入れてある。自分達の為にだけ使うのじゃ」

 「ありがとうございます。では、1年の契約という事で……」


 「ほほほ……、そう来たか。まぁ、それで良いじゃろう。ワシ等からの依頼じゃ」

 

 ツボに嵌まったように3人の長老が笑う中、俺達は席を立って自分たちの部屋に引き上げた。

               ◇

               ◇

               ◇


 「どうなるにゃ?」

 

 俺達の部屋に戻ってコタツに入った途端にアイネさんが聞いて来た。

 他の3人も俺達をジッと見ている。


 「長老からの依頼を受けた。1年間、南の森の関所が俺達の仕事場だ」

 「またサンドミナスかにゃ? 懲りない連中にゃ」


 「いや、場合によっては魔物が相手になるかも知れない。とりあえず準備を始めてくれ。明日には誰かが尋ねてくる筈だ。その打合せが終り次第、俺達も南に向かって出発する」

 「分ったにゃ。基本は迷宮と同じにゃ。向うに行けば食事は向うで作る筈だから、携帯食料は今のままで十分にゃ。カートリッジを買い込むにゃ。マイネ出掛けるにゃ」


 そう告げると、2人が飛び出していく。

 「私達も傷薬や包帯用の布を買い込んで来ます」

 「そうだ!エルちゃん……」

 「大丈夫。タバコでしょ。ちゃんと買ってきます」


 今度は3人が出掛けていく。

 レイク達が一緒なら心強いが、今回は別行動だな。

 そういえば、ルミナス達はどこに落着くんだろうか? 出来ればここに来てもらいたいな。

 

 皆が帰ってきた時に、エルちゃんが報酬を分配する。

 金貨10枚は多くないか?

 1人金貨1枚を取って残りはエルちゃんが管理する。俺達の貯えもだいぶ増えたんじゃないかな。

 クァルのお姉さん達が俺達から離れる時に分配すれば良いと思うのだが、その前にミイネさんやシイネさんが嫁に行きそうだな。


 アイネさんが買い込んできた散弾銃のカートリッジは1人20個になる。俺にはパレトの強装弾も20個渡してくれた。エルちゃんにはロアルの通常弾が20個だ。向うに行けばカートリッジも支給してくれるだろうから、即応用にこれだけあれば十分だろう。

 そして、その夜に手元にある魔石を使って銃の魔石を交換しておく。

 交換した魔石は中位のものだからしばらくはこれで十分だろう。取外した魔石は明日雑貨屋に売り渡すようだ。これでお菓子を買うの! そんなことをエルちゃんが力説していたぞ。

 向うではお店も無いからそれも良いかも知れないな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ