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N-110 レムナム王国の噂と傭兵

 俺に届いた手紙から、レムナム王国の状況が少し見えてきた。

 リスティナさんからの手紙には、村のギルドでの噂まで書かれている。あくまで噂だと断り書きしているところをみると、かなり信憑性が高いってことだろう。

 その噂とは、島以外の王国から傭兵を雇い入れたとの事だ。

 この種の情報は始めて聞くが、連合王国以外にも大陸には王国が沢山あるのだろう。その資金源を賄うための重税となれば、ルミナスの話ともリンクする。

 津そして、もう1つ気になることはレムナム正規兵の持つ銃のバレルが少し延びているとの記述だ。

 2D(60cm)には達しないが、ハントよりは長いらしい。

 マイデルさんの見解では、ハントの射程を越えるとのことだ。以外とそのことが、レムナム軍優勢で戦を進めている根底にあるのかもしれない。

 数個の武器が戦を左右することは少ないだろうが、兵隊全員に持たせたら今までの戦を根底から変えることになるだろう。

 最後に書かれていたのは全員の銃を前に戻したとあった。

 ハンターの持つ銃にまで制限を掛けてくる様子があると書かれている。メイデルさんが鋳潰して長剣に変えたらしい。

 これは鉄材の供出や魔石の供出をハンターに課す事を暗に伝えようとしているのだろうか?


 そんな事を考えてたら目が冴えてしまった。

 寝床を這い出して服を着ると、エルちゃんに毛布をちゃんと掛けてあげる。

 リビングに行くと、上手い具合に光球がまだ明るく部屋を照らしていた。

 コタツはまだ暖かいな。

 テーブルの上にエイダス北東地方の地図を広げて、手紙の状況を思い浮かべながら改めてレムナム軍の配置を考えてみた。


 軍事費が幾らあっても足りないような配置には変りはない。

 早々とボルテム王国を下して王都を略奪でもしないことには軍事費が底を尽くだろうな。

 とはいえ、ボルテム王都の南は未だにサンドミナス軍が睨みを利かせている。たぶん大勢が王都を脱出してサンドミナスに逃れているのだろう。

 近くに、ヒーデムと言う町があり、パリム湖と内海がこの辺りで一番狭くなる。小さな名も無い川が内海に注いでいるから、この川を堀として阻止線を築けそうだな。ヒーデム町はその砦に変ってしまうだろう。

 レムナムとしてもそこまでだろうな。重税を課すようならそのまま南進することは難しいだろう。一旦は国力を貯える必要がある。

 そして、背後からか……。


 だが、その作戦はパリム湖を時計回りに回って南の森を南進することになる。このルートの最大の難問は廃都だな。

 軍の統制が取れていれば良いのだが、万が一にも結界を作っている塔を破壊するような事態が生じた場合はどうなるのだろうか?

 とんでもない魔物が廃都から溢れ出てくる可能性が無い訳ではない。

 レムナムとしては戦どころではなくなるし、サンドミナスの野望も頓挫するだろう。ガリム王国は影響無しだな。

 

 問題はこの村への影響だ。

 明日は、この話を一度長老に話しておいた方が良いかも知れないな。

 そういえば、商人達の噂話を集めるような話もあった筈だ。

 どんな噂が流れているかを聞く事も出来るだろう。

 どうにか、眠くなってきた体をコタツから出して、地図を仕舞うと部屋に帰る。

 服を脱いでエルちゃんの隣に潜り込むと直ぐに目蓋が閉じた。

               ◇

               ◇

               ◇


 「なるほど、それで我等を訪ねたのじゃな」

 「確かにその懸念はあると我等も考えておる」


 「じゃが、手紙で暗に知らせてもらえるとは、良い友人を得たものじゃ」

 「それで、旧パラム王都の結界じゃが……」


 長老の長い話を要約すると、俺の考えをある程度肯定していた。

 やはり、大陸の西方の王国から傭兵を雇ったようだ。大隊規模だというから、次の侵攻の切り札になるのだろう。

 となれば、欲に目が眩むものもいるだろう。廃都の東西南北に設置された4つの尖塔には、結界を維持するために大量の魔石が使われているのは周知の事実だ。

 たぶん、南の結界は破壊されるだろう。場合によっては西の尖塔も可能性があると俺に話してくれた。


 「レムルの思うようにレムナムの東征は頓挫するじゃろうな。場合によってはラクト村を前線とした魔物の侵入を防備せねばなるまい。サンドミナスも同様じゃ」

 「俺達は南の森に作った柵で大丈夫でしょうか?」


 「十分じゃろう。生憎と、結界の作り方は王都陥落の折に技術を伝える者も炎に消えた。我等は魔石に頼らず実力で魔物の侵入を阻止しなければなるまい。

 それには銃じゃが、アルトスから話は聞いておる。レムルの考え通りに連合王国から武器を購入する計画じゃ」

 「その武器ですが、レムナム正規軍のバレルが長くなっているようです。たぶん、ボルテム軍が敗退した理由はそんな所にあると思います」


 「長くなれば命中率と飛距離が延びるが、そのためには資源が必要じゃ……。まさか、レドナスを押さえたという事か!」

 「それ以外に考えようがない。ドワーフ族の工房都市をよくも押さえたものじゃ。まてよ……、前にエル姫を捉えたという連絡があったということは、ボルテム王国への侵攻前にレドナスを押さえたのじゃろう」


 レムナム国王はかなりの切れ者だな。

 だが、此処に来て国庫は火の車らしい。一気にボルテム王国を滅ぼして、そこで野望を納めれば良いのだが、どうもそうはならないみたいだ。

 

 「前にお話した移民の枠ですが……、ラクト村のハンター数人を迎える事は出来ないでしょうか?」

 「現在のネコ族は1万5千人程じゃ。前の話で、我等もそれを考えた。確かにネコ族だけで国を作るのは難しい。 

 最終的には3~4割は他民族を迎えることになろうが、建国まではレムルの言う1割は我等も賛成じゃ。アルトス達賛同しておる。場合によっては村の迷宮も彼等に開放してはと言っておったぞ」


 「それでは、迎え入れても良いと……。」

 「無論じゃ。レムルの友人であれば問題はないぞ。ラクト村のその後を考えれば10人程を迎える事もやぶさかではない。その旨、伝えておくがよい」


 善は急げだ。長老に礼を言うと、早速部屋に戻って手紙を書く。

 返事が来るのは何時になるか楽しみだな。

 エルちゃんもサンディに手紙を書くみたいだ。

 これをお願い!って俺に渡してくれた神に書かれた文字はリスティナさんには落ちるけど俺よりは遥かに綺麗だ。そして、これは筆記体なのか? 綺麗に繋がって書かれているが、文字として俺にはちょっと読みづらいな。


 まぁ、これでルミナスが来てくれればありがたい。レイクと性格が似てるからな。2人とも直ぐに仲良くなれるだろう。

 

 シイネさんが手紙を届けて来ると、エルちゃんを交えてテーブルの上でスゴロクを始めた。

 俺はのんびりとコタツで横になる。

 

 何時の間にか寝てしまった俺をエルちゃんが起こしてくれた。

 どうやら、客人らしい。

 目を擦りながらコタツに身を起こすと、笑いながら俺を見ていたのはエクレムさんとレイミーさんだった。


 「休んでいるところを済まないな。小耳に挟んだのだが、ラクト村から移民を募ると聞いたのでな」

 「あぁ、その件ですね。ルミナス達ですよ。長老は10人程ならと言っていました」

 

 「ふむ、となるとレムナス達が来るかも知れん。少しは頼りに出来そうだ」

 「ルミナス達も来るかどうかは怪しいですよ。ましてレムナスさんとなると……」


 「もし来るなら、リスティナは声を掛けるだろう。もっとも、村に入ればの話だがな」

 「……ところで、状況はどうなの? また、春から戦になるのかしら」


 レイミーさんが質問して来た時にエルちゃんが俺にお茶を運んでくれた。

 一口お茶を飲むと、苦さで頭がシャキっとしてきたぞ。


 「ちょっと微妙なところですね。アルトスさんに会う事もあるでしょうから、俺の予想をお話します。ちょっと特殊な話なので長老とも相談したんですが、やはり同じ事を考えていたようです」


 そう、前置きをした上でコタツの上に地図を広げて説明を始めた。

 春から起きることは2つ。ボルテム王国の崩壊とレムナム軍の東侵だ。

 その最大の懸念事項は廃都の南の結界を維持する尖塔の破壊。


 「それが起きるというのか?」

 「かなりの確度だと思います。長老は西の尖塔も場合によってはと懸念しています」


 「でも、そんなことをしたら自分達の首を絞めるようなものだわ……! 傭兵ってことね。それで話が繋がるわ」

 「だとしたら、ラクト村まで影響を受けそうだ。それでルミナスか……。それも絡んでいるんだな」


 エクレムさんがパイプを取り出したところで、地図を仕舞いこんだ。俺もパイプを取り出すと互いのパイプに火を点ける。


 「アルトスには俺から話しておく。これは大変な事態になるぞ。一気に島が動きそうだ」

 「お願いします。けれど、事態が収拾すると、しばらくはどの国も動けなくなるのではと考えています。俺達の国作りを邪魔されずに行なえますよ」


 「確かにそうだ。だが、その前は……。レイミー、直ぐに駐屯地に行くぞ。アルトスを交えてじっくり考える必要がある」


 そう言うと、俺達に非礼を詫びてレイミーさんと出て行った。


 「忙しそうにゃ。まだ山は雪にゃ、のんびりしてれば良いにゃ」

 「まぁ、ジッとしてられない性分なんでしょう。でも、俺達はゆっくり休みますよ。この間迷宮に出かけたんですから、アイネさんも後1日は辛抱出来るでしょ」


 全く行動的なんだよな。旦那さんになる人は相当足腰を鍛えた人じゃないと、寝込んでしまうんじゃないかな。ちょっとまだ見ぬ旦那さんに同情してしまった。


 「分ってるにゃ。今はのんびりにゃ」

 

 そう言って、テーブルにスゴロク盤を乗せた。

 またしばらくはサイコロの転がる音が聞こえるんだろうな。そんな事を考えながらコタツに潜って一眠りだ。

               ◇

               ◇

               ◇


 数日後、迷宮からの帰り道のテラスで、エルちゃんがフラウさんと通信を開いた。

 どうやら、カラメルの戦士達は地下の部屋を調査して、俺達に害となる存在を破壊したらしい。

 得た情報は、フラウさん達にも開示してくれなかったらしい。

 これで、初心者用迷宮になった筈だと教えてくれたから、港にも近いし他国のハンターにも利用の門戸を広げるに違いない。

 もっとも外はまだ雪だから、俺達が出掛けるのは少し後になりそうだな。


 そんなある日、長老の世話役が俺を呼びに来た。

 春も近いということで、迎撃の準備を話し合うらしい。

 

 「明日の朝食後においで下さい」

 「お役目ご苦労様です。出向くのは俺とエルちゃんで良いですか?」

 「それで大丈夫でしょう。アルトス様が伝令を連れて行くと言っていましたから」


 その言葉に、クァルのお姉さん達はホッとしてるぞ。まぁ、確かに退屈な話にはなりそうだからな。




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