N-109 手紙
端末を使っての連合王国名所めぐりは、アイネさんの強い要望で再度上映となってしまった。
夕食後に再び目にした映像は、最初気付かなかったものが見えてくる。
新たに分かったのは、運河と鉄道があることだった。閘門を多段に作って10m程の船で荷物を搬送している。
鉄道はSLではなくて3匹のガルパスが曳く2両編成の木造客車だ。貨車は6本足の牛が4頭で曳いていた。
まだ蒸気機関まではたどり着いていないようだが、何れ形になるんだろう。
ここまで発展させた手腕は驚く限りだ。
だが、このような生活をこの島にそのまま導入するのは簡単だが、明確な理由がいるだろう。綺麗だから、便利そうだからではそれが受け継がれない。必要になって初めてそれを受け入れるという何かの基準みたいなものが必要になるだろうな。
導入や建設費用は魔石の税金だ。それはハンターが命懸けで手に入れた物に外ならない。
それでも、映像が終った最後には皆でこんな暮らしに憧れてるんだよな。
俺達の国を作って、他国からの干渉を受けなくなってからが、暮らしを良くするために何が出来るかを考えば良いだろうということで納得して貰ったけどね。
しかし、逆に考えれば連合王国への移民も多いんじゃないかな?
その辺の対応をどうやっているんだろう?
かえって、俺達の村に移住してくる人達がいるのが不思議な気がするぞ。
次の日は、朝から皆でコタツに入ってられると思っていたが、朝食を終えたアイネさん達が早速、次の迷宮への仕度を始めた。
ほんとに行動的だよな。エルちゃんを含めて、足りない物を手にいれるために出掛けてしまった。これでしばらくは留守番だな。
バッグから地図を取出して眺めていると、扉をたたく音がする。
どっこいしょと言いながらコタツを出るのが、何となく年寄りくさく思えて思わず苦笑いをしながらも、扉へと歩いて応対に出る。
「長老から武器の購入についてレムルと相談せよと指示を受けて来たのだが……」
「どうぞ、中へ。俺だけですんで遠慮は無用です」
やってきたのはアルトスさんとエクレムさんだ。
まだ昼前だから、昨夜の内に連絡していたのだろう。
2人をコタツに案内すると、部屋の片隅の炉で温めてあるお茶をカップに入れて2日との前に差し出した。
俺のカップにもお茶を注いで席に着く。
「拠点で敵を迎撃した後で、長老の指示で港に向かいました。連合王国の仲立ちでカラメル族が遺跡の調査を行うようです。何でも昔に逐電した仲間の後始末と言っていました。
その調査の見返りに、カラメル族は爆裂球を5千個を通常取引で行うと言っていましたし、明人さんは武器の売却が可能だと言っています。ただ、ライフル銃は今まで通りの供給になります。この場合の武器というのは、散弾銃とバリスタになります。
そこで、アルトスさんと必要量を確認する事になったんです」
「ライフルは魅力だが、多数を揃えんと使い難い。俺としては、部隊全員を同一の銃で揃えたいぞ」
「そうだな。俺もそう思う。ライフルは拠点や見張り所に詰める兵士に渡すほうが良いだろう」
アルトスさんにエクレムさんも追従する。
「だが、そうなると散弾銃が……1千丁は必要だ。それ程の財力がこの村にあるとは思えん」
「そこは計画的に進めれば良いでしょう。状況に応じて、中隊毎に更新すれば一度に購入する銃は200丁で済みます。それに少しはハンターに回せるでしょう」
「問題はバリスタだな。あの兵器は前に供与して貰った数では拠点防御がいいところだ。出来れば移動可能な構造にして20は揃えたいぞ」
「やはり、南の森か?」
「来るとすれば、今の状態ではそうなる。だが、この間レムル達が戦った相手はレムナム王国の部隊だ。旧パラム王都を迂回して進軍することはできる」
アルトスさんが俺の広げていた地図に、指で進軍ルートを示した。
だが、そうなると森でサンドミナス軍とぶつかりそうだな。
「ガトル族を使ったということは、レムナムの連中は本気でこの村を襲うつもりらしい」
「だがそうなると、レムナム軍がボルテム王国を下したとしても、サンドミナス軍とガリム軍を睨みながら俺達の村に攻め入ることになる。軍を分散すれば攻略が難しくなるのは分かっているはずだ」
「ボルテムの軍人を併合すれば数は揃いますよ。サンドミナスではなくガリム軍と対峙させれば、旧来の兵はサンドミナスとこの村に向けられます。ガリム王国とは今のところ緊張状態が続いているだけですからね」
「確かにそれは可能だが……。それだけの働きをするだろうか?」
「人質を取る位はするでしょう。家族を殺すと脅されれば戦に我が身を投じるでしょうね」
「確かにレムナムならやりそうな話だ」
聞くところによると、現在の兵力は3大隊とちょっと。これを配置するとなれば北に1大隊、南に2大隊といったところだな。通信部隊と港の守りに1中隊いるらしいが、これは動かさない方が良いだろう。
「確かにバリスタの移動部隊を作るのは良い案だと思います。小隊単位で運用する事を考えれば、1小隊で16台、都合32台あれば形になりますよ」
「移動方法も問題だな。冬にはガルパスが使えないからレイブを使うことになるだろうな」
「レイブなら草食だ。荒地でも餌には困らんだろう」
「それでは、その数で交渉します。代金はユングさん達に貰った魔石を使います。後は……、
通信機です。200M(30km)を夜昼関係なく通信できるものを数台供与してくれるそうです。北と南の砦に村の東の駐屯地に1台ずつ置こうと思いますが、他に必要な箇所がありますか?」
「かなり便利になるな。岩山の見張り所にも置きたいところだ」
「後は移動する部隊、バリスタ部隊に渡せないか? それなら部隊の移動が早くなるぞ」
「そうだな……都合6台になるが、上手く交渉してくれ」
それから後は、来春には予想される敵の侵攻をどう防ぐかの議論になった。
最初に比べると増員されているが、基本は柵を使った迎撃だ。
移動バリスタを使えばかなりの敵軍も跳ね返せるんじゃないかな。それに、敵軍も俺達で損耗を強いられると他国に攻め入られる可能性があるのだ。
どんな攻撃をしてくるかは明人さんに貰った端末で確認できるから少しは見通しが明かるいな。
◇
◇
◇
そして次の日には、皆で迷宮に出掛ける。
レベル上げは必要だし、俺達の生活費だって稼がねばならない。
往復に2日、迷宮内で2日都合4日で得たものは、中位の魔石が3つに低位が7個。低位の魔石に黒が1個あったのが救いになるな。合計で690Lになるが、ハンターの出兵が続いているから、35%の税率だ。448Lが手元に残り。半分はシイネさんが管理して、残りの37Lが各自に分配された。
まぁ、とりあえずは買うものも無いから構わないが、カートリッジや携帯食料もバカにならないんだよな。
次は地下2階に出掛けようとコタツで相談する事になってしまった。
「一回で1人100Lが目標にゃ!」
アイネさんは元気に目標を掲げて天上に腕を伸ばす。俺達も元気良く、それに追従した。まぁ、こんなのはノリが大事だからね。
2日程休息して、今度は迷宮の地下1階を目指す。
大カエルのグラッグとメタボな蛇のガルバンが狙い目だな。
3日も迷宮に入り浸って大量の魔石を手に入れた。旨い具合にトカゲのカルドムには遭遇しなかった。あれはちょっと面倒だからな。
手に入れた魔石は、中位の4色が17個。今回は白黒が出なかったな。
それでも、2,550Lだから、手取りは1,657Lになる。半分を皆で分けると、138L。やはり地下に以下なければ目標を達成するのは難しいな。
盛大に散弾銃を撃ちまくったけど、800Lもあるんだからお釣りが来ると思うんだけどね。
そんなある日。
アイネさんが部屋に駆け込んできた。
「臨時のギルドが開くにゃ! 予約しといたから、夕食が済んだら皆で出掛けるにゃ」
そういえば、しばらくギルドの職員がやって来なかったな。
村のハンターの殆どが、魔物を狩って魔石を得ることで収入を得ているから、ギルドの依頼も無いのが現状だ。たまに獣を狩るときがあるけど殆どが肉が目的だし、毛皮は雑貨屋で引き取ってくれるからあまり無くても困らないんだろうな。
それでも、迷宮探索の目安としてのギルドランクは欲しいから不定期でやって来るんだろう。
俺だって、少しは上がってると思うんだ。M29の撃てる弾数が魔法力だから、やはり目安は欲しい。
夕食を終えると直ぐに皆で雑貨屋に向かう。雑貨屋の隣にある部屋が臨時のギルドなのだ。
扉を開けると、先客が数人レベルの確認をしている。
ギルドカードを渡して、水晶球を両手で持つだけなんだが、それでレベルの判定が出来るらしい。
俺の番になってお姉さんから渡された水晶球を両手で持つ。
「はい。終りましたよ。……白の8つですね。魔法力が30に上がってます。その他の数値も1つずつ上がってますよ」
そう言って笑顔でカードを返してくれた。
営業スマイルなんだろうが悪い気はしない。野郎に笑顔で返されてもあまり気持ちは良くならないだろうな。たぶんカウンターに若い娘さんを置くのはそんな理由なんだろう。
「白の7つになった! 魔法も26に増えたよ」
エルちゃんが嬉しそうに教えてくれた。
アイネさん達も嬉しそうなところを見ると、それなりに上がってるみたいだな。
◇
◇
◇
アイネさん達と迷宮で魔物を狩る暮らしをしていたある日、長老の世話をしている若者が手紙を届けてくれた。
封を開けてみると、ミミズがのたくった様な文字書かれた紙が1枚。綺麗な文字で書かれた紙が2枚入っていた。
文の最後には名前が書かれている。下手な文字は案の定ルミナスからだし、綺麗な文字はやはり、リスティナさんだった。
どれどれ……。
『 てっちゃん。元気か? エルちゃんと仲良く暮らしているのを知って嬉しいよ。サンディも喜んでる。
こっちは、レムナムの搾取が激しくてちょっと殺伐として来てるぞ。あまりに酷くなりそうなら、がリムに行こうかと考えてる。そっちに行きたくともネコ族の村だから、俺達はお邪魔だろう。皆元気だから心配するな……』
なるほど、手紙でもこれだけの情報が得られるんだな……。
かなりレムナムは無理をしているみたいだ。戦費が嵩むということだろうが、それに見合った領地を得られていないとみえる。
となると、守りに入る事もありえるな。
ルミナスの手紙をエルちゃんに渡して、今度はリスティナさんの手紙を読み始める。




