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N-106 拠点からの帰還


 夕食は簡単な物だったけど、暖かいスープは冷え切った体には何よりだ。

 敵の方は、ひたすら雪の中に隠れているから、かなり体も冷え切ったいるだろう。

 これだけでも俺達の優位は確かなものだと思う。

 冷えた体での突撃など、体が思うように動かないからいい的になるような気がしないでもない。

 とはいえ、寒さにはある程度耐性を持った種族なんだろうな。やはりこの戦は常識で考え無い方が良いのかも知れない。


 「正面の部隊から左右に1人ずつ走っていったよ!」


 カミューが俺達の所に走ってきて教えてくれた。


 「いよいよらしいな。カミュー達は俺達と交替だ。小屋の後ろでジッとしていてくれ」

 

 俺達3人は外に出ると簡単な梯子を上って屋根に出る。

 そこは2m四方程に雪が除けてある場所だった。

 

 「西側は屋根の端が高くなってるんだが北側は屋根が障壁だ。そして南側には何にもねぇ」

 「南は柵がありますから、下の連中に期待しましょう」

 「そういうこったな。だが、流れ弾が飛んでくるぞ。昼間の怪我も、流れ弾だ」

 

 それは、ある意味運任せだな。

 まぁ、俺に万が一の事があっても、エルちゃんを支えてくれる人は多い筈だ。

 ならば、俺が一番南を位置してやろう。


 俺達3人は屋根の上に居場所を据えて周囲を見渡す。

 確かに此処は眺めがいい。日が落たばかりだから、まだ周囲はよく見える。しかし、もうすぐ俺の目には辛くなるな。

 周りが白いから遠近間隔もなくなってきている。

 

 「どうだ。人間の目には辛いだろうが、俺達がいる。レムルははっきり見える奴だけを狙ってくれ」

 「そうします。やはり、夜はネコ族の人に敵いません」


 俺の言葉に2人がニヤリと笑って俺の肩を叩いた。

 任せておけって事だろうが、俺だってそれなりに役立つとは思うぞ。

               ◇

               ◇

               ◇


 ドォン!、ドォン!

 2発の銃声で俺達は周囲を素早く見渡す。

 どうやら動き出したようだ。


 「西からだ。こっちは俺に任せとけ。レイク、ちゃんと北を見とけよ!」

 「分ってるって。……レムル、南を頼んだぞ!」


 レイクの言葉に、俺の方に伸ばした彼の足を叩いて応えた。

 同時に四方から銃声が轟く。俺の胴に届いてるレイクの脚が散弾銃を撃つたびに俺を蹴飛ばすように動く。

 北と西は激戦だな。

 南は下の連中が応戦していた。3人だが、敵も5人程だから大丈夫だろう。


 そんな中の1人に狙いを定めて、トリガーを引く。

 前進しようとしていた兵士の1人が仰け反るように倒れた。

 当ったようだな。

 ボルトを引いて薬莢を変えながら、そんなことを考えた。

 

 「レムル、こっちを手伝え!」

 

 ザエルさんの声に雪を掻き分けて西にある板囲いに向かう。


 「奴等、全員で前進してくる。もうすぐ爆裂球が届く距離になるぞ!」

 

 そう言いながら急いで散弾銃にカートリッジを詰め込んでいる。

 確かに、モグラ穴のようなモコモコが西から近付いてるな。

 あの先頭に敵兵はいるはずだ。

 慎重に狙って、トリガーを引く。

 甲高い発砲音に続いて、一人の敵兵が雪の中から飛び出してひっくり返る。やったみたいだな。


 薬莢の交換をしている時に前方からドオォン!っと大きな音が聞こえてきた。

 

 「大丈夫だ。投げようとした奴に散弾が当ったらしい。隣の奴を巻き込んだようだぞ」

 「北は何とかなったみたいだ。俺も西を狙う」


 俺は素早くレイクと場所を交換する。

 レイクのいた場所に移ると北を見る。そこには動く者がいない。

 南も、あと2人のようだ。西から何人か回りこんだようだ。ドルムさん達が懸命に射撃を続けている。

 そんな敵兵の一番左を狙ってライフルを撃つ。


 「奴等逃げ出したぞ!」


 その言葉を聞いてレイクの上に折り重なるように伏せると、一番先頭になって逃げる敵兵に銃弾を放つ。


 「当ったぞ1M(150m)は離れてるが良くも狙えたものだ」

 「遠距離用ですからね。次ぎも当てますよ」


 そう言いながらもボルトを引いて薬莢を交換する。そして再びトリガーを引いた。

 

 「撃ち方、止め!」


 ケリアスさんが小屋から出ると大声で俺達に伝えてきた。

 

 「ザエルにレイク。しばらくそこで見張ってくれ。レイムはちょっと降りて来い」

 「此処は俺達で十分だ。早く言って来い」


 レイクの背中を叩いて応えると、レイクから体を離して屋根を降りた。

 急いで小屋に入ると、ドルムさんが炉の傍で手招きしている。

 俺が隣に腰を下ろすと、早速話し掛けてきた。


 「ご苦労だった。10人以上に逃げられたが……まぁ、仕方あるまい。アイネス達の銃に助けられたようだ」

 「あれ程当たるとはな。俺も欲しくなったぞ」


 「ハンターにはお薦めしません。散弾銃の方が迷宮では遥かに使えます」

 「それが難点だよな。外ではあの銃、そして迷宮では散弾銃があれば良いんだが……」


 確かにライフル銃は命中率が高い。だがそれは迷宮では余り役立つとは言えない。迷宮の戦闘は至近距離だし、それだと1発の威力が高いスラッグ弾や、多くの弾を一度に発射出来る散弾の方が遥かに便利に使える。


 そんな所にエルちゃんがお茶のカップを運んで来た。

 エルちゃんに状況の確認をフラウさんに聞いてみてくれと頼んでおく。


 「気になるのか?」

 「えぇ、このまま戻ってくれれば良いんですが、どこかで停止して再度の挑戦を仕掛ける恐れもあります。

 敗走すると見せかけて、もっと山を上って東に向かう可能性だってあります。どこに奴等がいるかを確認しておかないと、安心して眠れませんよ」


 敵の迂回は気になるところだ。真直ぐ戻ってくれればありがたいんだが……。

 だが、敵兵の出元も気になるところだ。

 現在のレムナム王国の当面の目的はボルテム王国首都の陥落の筈。まだ先行きが定まるには早い気がするけど、ひょっとして事実上陥落したってことかな。それなら、首都に軍勢を入れて、旧パラム王都に軍を進める事も出来よう。

 

 「お兄ちゃん。状況を教えてくれたよ」


 エルちゃんがメモを片手に話してくれた内容は、俺達の満足するものだった。

 敗走した敵兵は13人。まだ息のある重傷者が数人いるようだ。今の状況で助ける訳にも行かないな。万が一近付いた時に爆裂球なぞ使われでもしたら目も当てられない。


 「それでね、遺跡の迷宮をカラメル族が調査したいと言ってるらしいよ。帰ったら長老と相談してくれと言っていた。あの迷宮にはカラメル族が少し絡んでいるみたい」

 「カラメル族だって?」


 「知ってるんですか?」

 「あぁ、話だけだがな。何でも水の中にいる種族らしいぞ。戦闘能力はかなり高いと聞いた事がある。詳しい話は長老に聞くんだな」


 さてどうしたものか……。

 

 「俺達がこの拠点に来たのは敵の侵攻勢力に拠点に配置した兵力が見合わなかったからだ。敵が敗走したならば速やかに村に引き上げねばなるまい」

 「そうだな。俺達だけだと確かに危うかった。明日にでも帰るがいい。俺達は請け負った期間は此処でのんびりするさ」


 そう言うと、カミューを外に走らせた。屋根の上の2人に降りるように伝えるためだろう。

 

 「では、そうさせてもらいます」

 「あぁ、そうしてくれ。また何かあったらやって来ればいい」


 俺は席を立つと、アイネさんに明日村に発つことを知らせた。

 アイネさん達は直ぐに準備を始めるが、スゴロクは置いていくようだな。娯楽の少ない小屋だから、ちびっ子にはいい暇つぶしになるだろう。


 「何、帰るんだって?」

 「あぁ、とりあえず俺達の仕事は終ったからな。報酬は長老に相談するから少し待ってくれよ」


 「それはそれでいいんだけど、早くないか? 奴等がまた来る可能性だってあるんだろう?」

 「大丈夫だ。敗走したらしい。それに、村に来客があるらしい。カラメル族だ」


 そんな話をすると、後で詳しく教えろよって言いながらも帰り仕度を始めた。

 それが終ると思い出したように、ミーネちゃんを連れて外に出掛けて行った。


 「2人で大丈夫でしょうか? まだ敵兵は息があります」

 「重傷者なら、もう死んでいるだろう。それに奴等には近づかない筈だ。レイクが出て行ったのは雪レイムの罠の確認だろう」


 と言うことは、2人で夜のデートって訳か!  羨ましい奴……。


 「まぁ、そう熱くなるな。レムルにだって春は来るさ」


 ザエルさんが慰めてくれたけど、あんまりありがたくないぞ。

               ◇

               ◇

               ◇


 次の朝、お弁当を頂いて俺達は南の拠点を去ることになった。

 昨夜のレイク達だが、雪レイムを1匹手にして帰ってきた。今朝のスープにはそれが入っていたんだけど、元々小さいからな。これかなって感じの肉だったぞ。

 それでも、ミーネちゃんは2匹の雪レイムの毛皮を手に入れたんだから今度の旅は良い旅だったに違いない。

 何を作るんだろうな? 定番は帽子らしいんだけどね。


 小屋を離れても、俺達が見えなくなるまで皆が手を振ってくれるのは嬉しい限りだ。

 今朝のフラウさんからの情報では、昨夜の敵は20km程敗走しているから拠点はしばらく平穏が続くのだろう。

 それにしても、スキーを持っているのには驚いたけどな。

 

 昨夜遅くに、南にある見張り所からの光通信が届いて、俺に港に出向くよう長老からの指示が届いた。

 村に戻ったらすぐに出掛けなければならないようだ。

 もっとも、俺とエルちゃんだけらしいんだけど、ユングさん達が来てるのかな?


 来た時と同じように、ドルムさんにレイクと俺で雪に道を作りながら歩いて行く。

 たまに腰まで潜り込むことがあるから、しっかりと槍で足元を確かめながら進んでいった。


 途中3回ほど休んで4回目の休みに昼食を取る。

 薪はお茶を沸かすぐらいを残して、拠点においてきたから慎重に焚火をしなければならない。

 それでも、焚火の周りに輪になって昼食を食べながら暖を取るぐらいの事は出来る。


 「だけど、あの軍隊の目的は何だったんだろうな?」

 「レムルの言うとおり、破壊工作をやるつもりだったらしい。今朝早くに敵兵のバッグを検分したら、10個以上の爆裂球が出て来たとケリアスが言っていた」

 

 やはり……。ラクトー山は鬼門だな。これからもそんな輩が入ってくるだろうな。

 これはどうしても、定期的な上空からの監視情報を入手する手段を得なければなるまい。

 昼食を終えると、また雪原を歩き始める。

 そして、どうにか夕暮れ前までに村へと帰ることが出来た。


 「それじゃぁな。後で教えてくれよ」

 

 レイク達と村の入口で分かれる。そこには、1本角のトナカイが引くソリが用意されている。

 

 「私等は先に戻ってるにゃ。何かあれば連絡するにゃ!」

 

 アイネさん達もそう言って村に入っていった。

 俺と、エルちゃんがソリに乗り込むと、直ぐに林の中をソリが走り出した。

 結構な速度だ。これなら3時間も掛からずに港に着くんじゃないかな。

 


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