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N-102 通信機


 アイネさん達と見張りを交替して、炉の傍に座る。

 すっかり体が冷え切ってるな。寝る前に少し温まらないと眠る事もできないぞ。

 再び俺達の番になるのは8時間後だから、6時間は眠れそうだな。

 板の間を見ると、結構場所が開いている。元々20人が此処で待機できるように作ってるようだし、エルちゃん達は天井のようになったロフトに寝てるからな。


 ミーネちゃんが入れてくれたお茶を飲みながら、レイクと一服を楽しむ。

 炉の上に開いた煙突に煙が吸い込まれるから、エルちゃん達には迷惑になら無いだろう。それでも、起きてる時には外で吸わなければなるまい。


 「本当に来るのかな?」

 「分らない。だが、俺達の版図に立ち入らせる訳には行かないぞ」


 俺の言葉に2人が改めて頷いた。

 敵の意図は不明だが、どの王国であっても俺達には敵だと言える。だが、この雪だ。何時来るのかは俺にも分らない。


 寝ようとして籠を見ると、寝袋毛布はエルちゃんが使用中のようだ。古い毛布と、見に纏った毛布の2枚に包まるようにして、小屋の端の方で横になる。

 寒いことは確かだが、炉には赤々と火が燃えている。外や、見張り場所から比べれば此処は十分に暖かい。

 ネコのように丸くなって何時の間にか俺は寝てしまったようだ。


 次の朝、エルちゃんに起こされて朝食を取る。

 小さな窓から外を見ると雪が降っているようだ。


 食事を終えて、お茶を貰うと、外に出てタバコを吸いながらお茶を飲む。丸太の軒下には小さなベンチがあり、先客が2人いた。

 

 「ようやく起きたな。後1時間で交替だぞ」

 「分ってるさ。昼は少し起きていた方が良さそうだな」


 レイクともう1人の年かさの男はケリアスさんの仲間だな。


 「初めまして。レムルと言います」

 「おぉ、そうだったな。俺はサミエルだ。何故か皆にはザエルと呼ばれてる。お前達もザエルで良いぞ」


 「ザエルさんで良いですね。この仕事はやはりキツイですか?」

 「そうでもねえな。寒いことは確かだが、2時間の我慢だ。それに散弾銃がタダで手に入ったし、一月で1人銀貨2枚だ。俺としては良い仕事だと思ってるよ」


 確かに、何も無ければ楽な仕事なんだろうな。だが、敵がやってきた場合はとんでもない仕事になる。

 味方が来る間、ここで防戦する必要があるのだ。

 小さい連中を抱えたチームだと全滅覚悟で対応しなければならなくなる。

 援護の方法をもう少し考えなければならないな。


 「雪山を50人が向かってくると聞いた時は驚いたぞ。ケリアスが何度も妹に確認をさせていたからな。そして、此方にハンター1チームが来ると聞いてようやく俺達は、その知らせを受け容れた。全くあの通信機は便利な品だ」

 「その辺りをもう一度確認してみるつもりです」


 「だが、今は日中だ。あの通信機は夜しか利用できないのが難点なんだよな」

 「もう1台別の通信機を持って来ました。それで確かめるつもりです」


 早速小屋に入ると、ちびっ子達でスゴロクの熱戦中のエルちゃんに、山を進んでいる部隊の現在位置を確認して貰う。


 「フラウさんで良いよね。確認してみる」


 そう言って、箱を取り出して、アンテナ線を天井の梁に引っ掛けると、電鍵を叩き始めた。妹や弟達がゲームを止めてその様子を覗っている。


 エルちゃんが一定のリズムで電鍵を叩いていると、小さなランプがチカチカと点灯する。

 単音3つを続けるのが呼び出しなんだ。それに対する応えが長音3つなんだな。


 今度は違ったリズムでひとしきり電鍵を叩いている。それが終るとランプがチカチカと点滅して答えが返ってくる。

 やり方は違うけど、発光式信号機と同じモールス信号だ。子供達にはその会話を聞く事ができたんだろうな。


 ミーネちゃんの弟がその点滅信号を見てメモを取っている。エルちゃんも片手でメモを取っているから、後で付き合わせればちょっとしたミスは確認できそうだな。


 「今朝の位置だそうです」

 

 そう言って、1枚のメモを渡してくれた。

 早速、地図にその位置を落としてみる。前回はここで、今朝はここか……。

 経過日数は約2日。それで北東方向への移動距離は40km位だ。雪原の

山の斜面であることを考えればかなり速いぞ。

 

 「だいぶ、行軍速度が速い。かなり訓練された部隊だ」

 「ケリアスもそう思うか……。だが、まだ奴らの狙いが分からん」


 「このまま進めば、俺達が作った岩山の上にある見張り所付近に到達します。春季攻勢の準備の為の威力偵察か、それともこのように進路を変えて版図の施設を破壊するか……」

 「だが、村は堅く守られている。焼討ちするなら新らしい町、駐屯地、それに港位のものだ。

 町の方は形にもなっていない。駐屯地への攻撃は50人では自殺行為だ。港は商人の私兵達が守っているし、我等の方も1小隊を任に着けている。やはり、偵察が目的だろうな」


 「それより、この情報は連合王国からか? そうならば、あの国ではいながらにしてエイダス島の状況が分かるちゅうことだぞ!」


 ケリアスさんが腕組みしながら俺を見る。

 確かに不思議だよな……。やはり偵察衛星を利用してるに違いない。俺達に告げないということは理由があるんだろうが、説明に困るな。


 「この通信機も連合王国のハンターであるユングさん達から提供して頂いたものです。そしてケリアスさん達が持っている散弾銃も原案は俺が作りましたが大量生産は連合王国で行って貰いました。国力がまるで違います。当然技術や情報処理のやりかたは俺達が想像できるもの以上でしょう。

 たぶん、俺達が想像もつかない方法で周囲の敵情を探っている筈です。

 この情報提供が好意なのか、それとも何らかの野心があるのかは判りません。ですが、現在の俺達にとって確実な情報収集の手段ではあります」


 「お互い様という分けでも無さそうだ。そして、連合王国は俺達にとって遠井存在。向こうにとってもこの島に魅力があるわけでも無さそうだしな。

 連合王国のハンターの頂点に立つ連中と知り合いだとは聞いている。その伝で教えてくれるんだろう」

 「それで、助かってるのも確かだ。南の森の戦ではだいぶ援助して貰った武器で助かったとアルトス殿が言っていたぞ」


 まぁ、そんな事は長老達に考えさせておけば良いだろう。

 俺達の任務は、、現在のところ拠点の防護で良い筈だ。

 隣にいたエルちゃんに見張り所へ発光式信号機を使って連絡が取れるか確認して貰う。


 「ダメなら夜になってからもう一度お願い。でも、一度試して見てくれないかな。望遠鏡でこっちを見れるなら分かる筈なんだけどね」

 「やってみます」


 そう言って、子供達を連れて扉近くの窓に向かった。そこには発光式信号機が小さな台に載せられて置いてある。

 傍に椅子もあるから長時間の通信も疲れないだろうけど、小さい子ばかりだからな。どっちかと言うと飽きないことが大事だな。

 エルちゃんがカチカチと信号を出して、男の子が望遠鏡で南東方向を見下ろしている。

 果たしてどうなるのか?


 「夜は問題ないんだが、昼ではな……」

 「向うも、こっちを望遠鏡で見ていれば良いのだが」


 ドルムさん達も興味があるのか、エルちゃん達の様子を見守っている。

 突然、エルちゃんの持つレバーの動きが激しくなった。

 ひとしきりレバーを動かすと、バッグから望遠鏡を取り出して隣の男と同じ方向を覗いている。

 後ろの女の子がそんな2人の言葉を書き取っていた。

 

 「何とか交信に成功したようですよ。」


 俺の言葉に2人が顔を緩めて頷いている。

 エルちゃんのところから男の子が走ってきた。


 「連絡できるから、連絡文をって言ってます」

 「あぁ、そうだな。連絡する内容は、敵軍50は西に400M(60km)。それを伝えてくれ」

 

 俺の言葉を粗末なメモ帳に書き写して直ぐに戻っていく。

 今度はエルちゃんに変って男の子が信号を送るみたいだな。

 ひとしきり作業を見守っていたエルちゃんが俺たちの方へやってきた。


 「何とか送れたよ。向うからも送った文を送り返してもらったから、間違いなく届いたと思う」

 「ありがとう。何かあればまた頼むからね」


 そう言って頭を撫でると、恥ずかしそうに皆の所に帰っていった。これからスゴロクでも始めるのかな?


 「そうか、送れたか……。夜間限定だと聞いて今まで試してもいなかったんだ」

 「やってみねば分らぬという事か。まぁ、これで少なくとも見張り所までは連絡が着いた。夜になる前に、北東の拠点とも試しておいた方が良いだろうな」


 「そうですね。確かにそっちも心配です。それに何の情報も無いのでは不安でしょう」

 そういうことだな。どれ、俺達は少し外に出ていよう。アイネス達がパンを焼くと言っている」

 

 小さな扉から外に出ると、途端に寒さが襲ってくる。

 雪は降ったり止んだりだな。今は静かに降り続けている。

 ベンチに座ると、早速パイプを取り出して一服だ。男だけでこうして楽しむのも悪くない。

 

 「あれは、雪レイムの足跡だ! これは、罠を作らねばな」

 「作れるのか、レイク?」

 「任せとけ。毛皮は高値で売れるんだけど、肉だって捨てたもんじゃないぞ!」

 

 そんなレイクをドルムさん達が微笑んで見てる。と言うことは、そんなに簡単じゃないってことだよな。

 ちょっとした娯楽って事かな。上手く行けば美味しく頂けるし、ダメだったら皆で祝福してやろうってことだろう。

 簡単に獲れるなら、とっくにケリアスさん達がやってる筈だしな。

 此処は、俺も生暖かい目で見守ってやろう。


 早速、レイクが行動に移る。片手剣を引き抜いて近くの潅木から、横5cm、長さ2m程に皮を剥いで持って来た。


 「ほう、作り方は知ってるようだな」

 「これぐらいは、誰でも知ってるさ」


 「知ってることと作れることは少し違うぞ。まぁ、分らなければ俺に聞くんだな」

 ケリアスさんが笑いながらレイクに忠告してる。

 そんな言葉にムキになって早速、剥いだ皮から表皮を片手剣で削っている。

 

 危なっかしい手付きならすぐさまケリアスさんが介入しようと待っているのが俺にも分る。

 ドルムさんはそんな2人をにこにこした顔で見守りつつパイプを煙らせている。

 さて、どんな罠が出来上がるんだろう。

 ラクト村にいた時も、ルミナスが罠を作っていたが、あれは蔦で作っていた。今の時分は蔦は手に入らないからな。

 

 俺達3人が見守っていると、1時間程で罠が3つ出来上がった。

 輪にした罠に首を突っ込んだら、輪が締まるというウサギ罠だな。こんな罠に掛かるんだろうか? だとしたら相当警戒心の無い獣だぞ。

 

 「ほう、たいしたもんだ。蔦を使う奴は多いが木の皮を使う方が断然量が取れる。後は仕掛ける場所だな……」

 「この雑木林に仕掛けるさ。雪の中を遠くまでは歩きたくないし。俺達は増援であって猟師じゃない」


 ホントにその罠って有効なのか?

 単に、細いヒゴ状にしたものを丸く輪にしただけだぞ。

 吃驚してる俺を見もしないで、レイクは罠を仕掛けに小雪の中へ歩いて行った。




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