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N-100 守り神?と手紙


 「ネコ族であろうと安全ではない。少人数であれば通れるのだ」

 「ボルテムの連中め、王都の迷宮を破壊しおって……、あの森にはデルノスがおるのじゃ。慌てて結界を作ったので旧王都の東には来られんが、王都の北西の広大な森に奴は根を下ろしたようじゃ」


 「本体は森の奥深くにあると思うが、誰も見た事が無い。それでも奴の分身であるデルノアが森を守っておる。デルノアが狩るのは大型の獣じゃ。我等は敵とも認識されぬ。鉢合わせしても攻撃せねば襲ってこぬが、大勢であれば話は別じゃ。群れと単体の識別ができぬのかも知れぬ」

 「そのような理由であの通路を使って攻撃するには少人数に限られる。ある意味我等の守り神なのかもしれぬのう……」


 大型の魔物らしいな。しかし、群れと単体の区別が出来ないなんてどんな思考をしてるんだ?

 ひょっとして、植物性なのかも知れないな。感覚器官が発達していないようだし。


 「なるほど、それなら理解できます。ですが、将来的にはやはり倒すことを考えても宜しいですね」

 「そうなるじゃろう。あの逃避行ではかなりの者達が奴の犠牲になっておる。だが、まだ倒すには早いぞ。あれが森にいることでボルテムも大軍を動かせないことも確かなのじゃ」


 いったい、どんな魔物なんだろう。

 将来的に旧パラム王都を再建する時には、どうしても倒さなければならないだろうが、今の段階では一軍に匹敵するということで、そのまま放置ってことになる。

 となると、レムナム王国軍が侵攻するのも旧パラム王都を南から回りこんでこなければならなくなる。サンドミナス王国軍と森の南西部でぶつかりそうだな。

 その勝負如何によって、レムナム王国軍はボルテム王国に引導を渡すことになりそうだ。


 長老達に、疑問に答えてくれた礼を言って俺は長老の部屋を後にした。

 これで、謎は解けた!……って、俺は探偵じゃなかったな。

 とりあえず、あの通路を通れる部隊はいないということが分れば良い。

 それと、情報収集は必要だな。

 だが、ネコ族が直接情報収集は出来ないよな。何と言っても猫耳だし、アイネさんみたいに殆どの女性は語尾に『にゃ』が付くからな。

 

 部屋に帰って、その辺りを考えて見た。

 ある程度は港に入る船から情報を得ることが可能だろう。船には商人だけではなくて船乗りもいるはずだ。当然あちこちの港に立ち寄るから噂話には事欠かないだろう。

 酒場の外れのテーブルで酒を飲む振りをしながら、それを聞くのも方法だな。

 全てが噂と言う訳でも無いだろう。幾つかの真実がある筈だ。

 

 後は……、連合王国の情報網を利用する手はあるだろうな。

 たぶん聞けば答えてくれそうだけど、聞き方が問題だ。俺としてはなるべく美月さんの負担にはなりたくないしな。

 

 「お兄ちゃん、心配事なの?」

 「あぁ、ちょっとな。この村はエイダス島の他の王国から切り離されてるだろ。それで、各国がどう動いてるかをどうにか知る方法がないかを考えてたんだ」


 「なら、リスティナさんに手紙を書いたら良いんじゃないかな?」

 「手紙?」


 「うん。手紙はギルド経由で届く筈だし、お兄ちゃんは人族で登録されてる筈だから他の人が不審に思うことはないと思うよ!」


 そんなことが可能なのか?

 この世界には郵便制度が無いから手紙を商人に託すことになるが、商人はそれをギルドに託すのか……。

 切手代とはいかないんだろうな。

 それでも、ちゃんと届くなら凄いと思うぞ。


 「だけど良くそんなことを知ってたね。」

 「お風呂で、そんな話を聞いたの。知り合いと手紙のやり取りをしてるって」

 

 迫害を逃れてチームから抜け出したハンターもいるんだよな。その後のチームの消息を確認したくなるのも頷ける。

 リスティナさんよりはルミナスの方が気楽に書けるな。ルミナスの書いた返事はたぶんリスティナさんが監修してくれる筈だ。

 

 そんな訳で、ラクト村ギルドのルミナス宛に長い手紙を書くことになった。

 いざ、書くとなるとこれまでの話を書かなければならないし、頼みたい事もある。

 住んでる場所はぼかしておかないとな。此処は、フラウさんの名前を借りるか。後で、ユングさんとフラウさんにはエルちゃんから事情を送信して貰おう。

 

 エルちゃんに、フラウさんの名前を借りる承諾を頼むと、「分った!」と言って部屋を出て行った。

 一応、マントを抱えていったから防寒対策は考えてるみたいだけど、風邪を引かなければ良いんだけどね。

               ◇

               ◇

               ◇


 1時間程してエルちゃんが戻って来た。

 直ぐにコタツに潜り込んだところを見ると結構寒かったようだな。お茶を入れてあげると、ふうふうと息を吹きかけて飲んでいる。


 「え~とね。問題ないって言ってたよ。それだと、一旦此方に届くから、差出人がルミナスで宛先がフラウなら此方に届けるように商人達に言って置くって言ってた。

 それと、書き取るように言われて書き取ったんだけど、お兄ちゃんなら分るとユングさんが言ってたよ」


 そう言ってバッグから1枚の紙を取り出した。

 BA8056:1000、BA9057:2000……。これって!

 

 直ぐにテーブルの上に地図を広げる。地図の周囲の座標は……。間違いない。これは敵軍の現在の兵力だ。

 これは、ユングさんに貰った地図だから、これと同じ地図が無ければこの数字だけでは何のことか分らないだろうな。

 だけど、こんな具体的な場所と兵力をどうやってユングさんは知っているんだろう?

 まさか偵察衛星を使ってるなんて事は無いよな。幾ら、ファンタジーでもそれは無いだろう。たぶん優秀なスパイを商人を使って送り込んでるんだろう。


 エイダス島の東北地方は地図2枚で作られている。

 そこに、厚紙を切ったコマに数字を書いて地図の上に並べてみた。

 ボルテム軍は王都にこもり、かろうじてサンドミナス軍が王都の南を守っているようだ。サンドミナスが軍を動かしただけで、ボルテム王国は無くなるな。

 レムナム王国軍は3方向に部隊を展開している。その最大兵力をボルテナン王都に差し向けている。

 旧パラム王都に差し向けている兵力の一部をボルテナン王国の攻略部隊に合流させた時が、ひとつの山場だな。

 サンドミナスは2千の兵力を展開しているだけだ。本国に1千、そして南の森の近くに3千の兵力を展開している。

 ガリム王国は分らないけど、エイダス島の北を進む軍は無さそうだから、とりあえずは放っておいても大丈夫だな。

 

 「最後はこの部隊だよ。50って少ないよね」

 

 そう言って、エルちゃんが渡してくれた厚紙を地図上において、思わず唸ってしまった。


 「どうしたの?」

 「最後の部隊だけど、此処なんだよ」


 旧パラム王都を囲む程の大きな森が南の森だ。その森の北にその部隊がいるのだ。

 たぶん、森を時計回りに迂回するようにラクトー山の斜面を上っているのだろう。

 

 「これは早いところ、エクレムさん達に知らせておいた方が良さそうだ」

 「なら、お姉さん達に知らせてくる。たぶん、食堂か、酒場にいる筈だから」


 そう言って、また部屋を出て行った。

 どれだけ信用できるかだが、出所がユングさん達だからな。間違いはないだろう。 

 となると、この迎撃をどうするかだが……。

 

 やはり、岩山の上に作った2つの見張り所とラクトー山に新たに設けた見張りの拠点を使う外無さそうだ。

 だが、見張り所に常時いるのは1分隊10人だ。5倍の敵を退けられるのだろうか?

 たぶん散弾銃は持っているはずだ。敵の2倍の距離で攻撃できるが、一斉突撃に対処できるかは疑問だな。

 2分隊であれば十分に対応できるだろう。

 

 扉が開いて数人が入って来た。

 扉も閉じずに俺の前に座り込むと、エクレムさんが口を開いた。


 「どうした? 急に俺を呼び出すとは」

 「実は……」


 コタツに入ってきた連中に概要を説明する。

 

 「これか? 軍の配置をどうやって彼女達が知っているかは別に考えるとして、確かに問題だな。至急、アルトスに連絡しろ! 岩山の上の見張り所に分隊規模で増員しろとな。後は、拠点の方だな。少なくとも一番右側の拠点は増員しなければなるまい」

 「俺達が行きます。レイムのチームを加えれば何とかなります」


 「すまん。拠点を頼むぞ。そして連絡は発光式信号機で行なえば、連携して対応できるだろう」

 「分りました。レイクと連絡が取れ次第俺達は出発します。それと、この手紙を商館に届けてくれませんか?幾ら掛かるか判りませんが……」

 

 「ハンター間の手紙の代金はギルドが一括して支払うから気にするな。それでは預かっておく」


 エクレムさんは俺の手紙をポケットに入れると部屋を出て行った。

 さて、俺達も準備しなくちゃな。


 「シイネとエルちゃんは食堂にゃ。レイク達の分も貰ってくるにゃお弁当2つ必要にゃ。ミイネはレイクに連絡にゃ。私とマイネは雑貨屋にゃ」


 アイネさんの指示で皆が出掛けてしまった。

 テーブルに広げた地図を図版に仕舞いこんで魔法の袋に入れて置く。

 今度は人が相手になるのか……。そうなるとより遠距離が狙えるライフルになるな。

 部屋に行って、一足先に装備を整える。

 あの寝袋毛布も持っていこうか。拠点は洞窟の部屋と違って寒そうだからな。

 綿の上下に革の上下。それにマントを着れば大丈夫だろう。まだ冬の初めだ。ラクトー山の北と違って東側だからそれ程雪も積もっていないだろう。


 さいしょに帰ってきたのはミイネさんだった。


 「参加すると言っていました。準備が出来次第、ここに来ると言っていました」

 「すみません。先に俺の準備は終りました。ミイネさんも準備しといた方が良いですよ。昼過ぎに出発することになりそうです」


 俺の言葉にミイネさんが部屋へと走っていく。

 そして、アイネさん達が大きな袋を持って帰ってきた。


 「全員の雪靴を買い込んできたにゃ。村の雪靴は底が広いにゃ」

 

 雪靴までは気が付かなかったな。確かに底の大きさがブーツの2倍はあるぞ。

 その後で、色々な品物が袋から出てくる。

 まぁ、皆必要な物なんだろう。俺には理解できないのもあるけどね。


 そして、エルちゃん達が同じように袋を持って帰ってきた。これは必要な物だ。

 アイネさんとミイネさんが籠を担いで部屋から出て来た。みんなの水筒を要求している。水を用意するみたいだな。俺とエルちゃんの水筒に大型水筒を渡すと、直ぐに部屋を出て行った。


 「姉さん達は準備が面倒みたいで……」

 

 ミイネさんが2人が出て行った扉を恨めしそうに見ている。

 ということは、何時もキチンと準備してあるのは、ミイネさん達の努力があったんだ。


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