表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】そんなに姉が大好きで、私に興味が無いのでしたら私も無関心になりますね  作者: 野良うさぎ(うさこ)
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/89

花火、夜の温泉街、セイヤの部屋にお忍び


「あっ、セイヤ様……、これ見てください!」


「ピオネ? ここにいたのか……、ちょっとまってくれ」


 お風呂上がりのセイヤ様を屋敷の広間で待ち構えていた。セイヤ様は私を見て、口元を手で隠す。

 私は手に持っている『浴衣』というものをセイヤ様に見せた。


「さっきリオナ先生が貸してくださったんです。なんでも、今夜は領地で花火が上がるからこれを着て、セイヤ様と見に行けって」


「……リオナ先生は変な事を言っていなかったか? そ、その俺の事とか」


「いえ、特には……あっ、甘やかすなって言われました」


「そうか、ならいいんだが……。ごほんっ、『浴衣』か、聞いたことがある、東の国の服で、祭りに着たりする服という認識だ。着物との違いがいまいちわからないが、夏には涼しそうでいいな」


「ふふ、セイヤ様、いつもよりも口数が多いですね」


 私はセイヤ様の寄り添う。お風呂上がりのセイヤ様は良い匂いがした。


「……ピ、ピオネ」


 セイヤ様は私の手を取ろうとしたけど、私はひらりと身を躱す。


「駄目です、浴衣に着替えてからですよ、ふふ。じゃあまた後で」


 そして、私たちは脱衣所でももう一度浴衣に着替え、夜の温泉街へと繰り出すのであった。


 ***


「リオナ様のところの客人ですね! サービスしますよ!」

「君、イケメンだね。ほら、これも持ってきな!」

「綿あめって知ってる? 不思議なお菓子でしょ。これは東の国で――」


 温泉街は夜中なのに活気に満ちていた。歌劇場の出店と似ているけど、どこか異国情緒が漂う。

 私とセイヤ様は温泉街を楽しみながら通り抜け、湖へとたどりつく。


 パンッ、という音が鳴った。空が色を染める。


 花火を待っていた人たちの歓声が聞こえる。

 そして、連続して上がる花火にため息が漏れる。


 ふと、何かの映像が私の頭に流れた。


 ***


 なんでもない学園生活の日常、三年生の私とセイヤ様がいて、リュウ様とシグルド君が集まっていた。……、四人でお祭りで遊んで、観覧車から花火を見ている。それが当たり前のように受け入れていた。


 ***


 花火とともに、その映像は淡く消えてしまった。

 私が経験した事のない世界の未来。



「そんな幸せな未来もあっていいよね……」


 花火の音にかき消される私の声。

 セイヤ様は気がついていないけど、無意識に私の手を探していた。迷子になってしまいそうな心、私はそれを掴む。


「……なんだ、今の……は……、俺は、なぜ……」


 私だって答えはわからない。でも、もしかしたら――


「可能性があるのなら……、私はそんな未来を望みます」


「……そう、だな。前を向こう、ピオネ」


 花火の音が私たちにとって特別な音に感じられる。

 寂しいけど、儚くて美しいひとときの夢を見られる。


 私は目を閉じる。


 あの観覧車で観た花火。


 女神魔法のサクラ色の力が手のひらに集まる。


 私は――それを頭上に投げつけた。



 淡いサクラ色の大きな花火が空を彩った――あの時観た花火と一緒だった。



 ***



 屋敷に戻った私たちは、一度自分たちの部屋に戻ろうとした、のに――


「ピオネ、なんでだろう、少し寂しい気分なんだ」


 花火はとても素敵だった。でも私たちの胸の奥には感傷というものが浮き彫りになった。


 歌劇の公演、亡くなってしまったシグルド君、消えてしまったリュウ様。花火をそれを思い出させてくれた。


 セイヤ様は私の手を引っ張った。

 この旅行では、私がセイヤ様を驚かせていた事が多かったのに、突然の事で私が驚いてしまった。


「……今日は、一人だと寝れない。ピオネ、一生のお願いだ。……添い寝をしてほしい」


 セイヤ様の顔がぐっと近づく。心臓がドキドキして伝わっていないか心配だった。


「は、はい……」


 私はセイヤ様のお部屋へと訪問する事になった。えっと、元々訪問するつもりだったけど……。


 抱きしめられたままセイヤ様のお部屋に入ると、セイヤ様の匂いで充満していた。


 そして、私たちは歌劇の時のお話をして、今まで話さなかったシグルド君の事や、リュウ様の事をいっぱい喋った。


「だから、あいつは――」「俺はあいつと――」「良い友だちに……」


 今だから言える事、ずっと溜め込んでいた気持ち。

 私も同じ気持ち。


 シグルド君の最後、遺体もなく消えてしまった謎。もやもやとした気持ち。



 全部全部吐き出した。


 いつしか、セイヤ様は私の膝の上で寝てしまった。


「もう、セイヤ様、起きてください……。ふわ……、私も、眠くなっちゃった」


 セイヤ様はいつも言っていた。私と一緒にいると眠くなる。それはとても心地よいって。


 私も一緒。


 腰をかけていたベッド。

 セイヤ様を枕に移動させ、私は――歌を歌った。

 何故か覚えてしまった歌劇の歌。それを子守唄のように歌う。


 セイヤ様の身体をポンポンと優しく叩きながら。


 いつしか――私は――



 ***



 ――夢を見た。


 違う世界線の私が、自由都市皇国で大変な目にあっていた。それでも、私たちは笑っていた。


 夢の境界線が曖昧になる。そして、私はまどろみの中、目を開けた。


 後ろからキスをされた。



「おはよう、ピオネ」


「はい……、おはようございますセイヤ様」


 私はセイヤ様に後ろから抱きしめられていた……。抱きしめているセイヤ様の手をそっと触ってキスをした。







第二幕終了です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ