魔王は碌な事言わない
街中で「二人乗りやめなさーい」とパトカーのスピーカーから注意されて、慌てて彼女が荷台から降りるシーンとか定番だと思います。怨嗟の目で睨むも、幸せいっぱいの高校生カップルには通じないのだ。もげろ、もげてしまえ。いかん落ち着こう。
チャリに乗ろうにも二人乗りしようにも、ある程度平坦な道じゃないと危ない。ということで、置いといたチャリを回収しに森に戻った魔王様を俺達はぶっ壊れた門の前で待っていた。
目の前には十人ばかしの倒れた異世界衛兵さん。ジェムジャラムリンも白目剥いてぶっ倒れている。鎖に繋がれた元同僚の姿はない。担がれたか引きずられたか、森へその姿を消した筈である。無事に回収されていればの話だが。アイツ、体力もつかなあ。もう五十くらいの筈なんだけど。
「ジェムちゃんどうしようかねえ」
本上さんが思案顔。俺達を一応人間として扱おうとしてくれた存在ではあるが、放っておけば死ぬし、復活させても周囲の状況を見れば、きっと敵対するだろう。起こして殺すか、このまま殺すか、それが問題だ。いずれにせよ殺すっていう。
「私にお任せいただけますか?」
チャリを片手で引きずりながら魔王様が戻ってきた。荷台を持ってハンドルが暴れるのを力づくで押さえるスタイル。いくらチャリが頑丈だからって乱暴過ぎ。
「どうするんだよ魔王様」
「よくよく考えれば、いきなり街一つ滅亡させると、他の神々からのクレームが大きいので」
「今更」
「ですから、この街が滅んだ原因について、よく言い聞かせておかなくてはならないのです」
魔王様がチャリを渡してきたので、正しい体勢、即ちハンドルを握り、サドルを腰に合わせる。魔王様はそのまま、ジェムジャラムリンの脇腹を蹴った。蹴ったよ。
ぐへえ、と呻き声上げ、目を開けたジェムジャラムリンが起き上がりざま、魔王様を目撃してあわてて膝をついた。見てわかるんだな。あと恭順のジェスチャーもこちらと同じか。
「ジェムジャラムリン、聞きなさい」
「だま!とこってまれまれどく、どもってな!」
「この街は滅びます。神の使徒であるこの二人に敵意を向けたからには、報いを受けねばなりません」
「だま!とこってまれてな!とこってまれてな!だま!」
「あなたのみが神の使徒への親切な振る舞いで許されます。この事実を帝国にしらしめなさい」
「とこってまれまれどく!」
なんかコント見てるような感覚になるが、ジェムジャラムリンの表情は固く、魔王様の言葉を一々拝復し、大声で答えている。確かに神様の顕現なんて見たらこんな感じになるんだろうけどなあ。
「とこってまれ、つうのが神様に関わる何かなのかな。よく使うよねジェムちゃん」
「このタイミングで言語学者みたいな事言われても困る」
本上さんは流石文系乱読女子だけあって、ジェムジャラムリンの言葉の文法などに興味があるらしいが、倒れて魚みたいに跳ねてる奴を含む、他の衛兵は目に入ってないんだろうか、いや目には写ってる筈だよなあ、とうっすら背中が寒くなった。
ようやく立ち上がったジェムジャラムリン、魔王に背を向けないよう、何か変な動きをしながらこちらに向き直った。
「お二人、神、使い。しらないだった。ごめんなさい」
「いや、こちらもなんかとんでもないことになってすまん」
「神の使いかあ。私らのせいにする気だよね魔王様」
本上さんの的確な指摘ではあるが、俺、そこは無視に決めたので。
「必ず、伝える。帝国、敵、違う。わかる、ほしい」
「わかった。敵対はしないが、奴隷とか見て気分悪くなるとこはどうにかして欲しいけどな」
その言葉がどれほど重く伝わり、どんな効果を及ぼすかなんて考えもせず、俺はそう告げた。
「必ず、伝える、ます。言葉。使い、神、言葉」
「ありがとう。じゃあ俺達は帰る。助けようとしてくれたことは改めて感謝だ、ありがとうな」
「またねジェムちゃん」
またね?いやもう二度と来ない方がいいと思うんだけど、と思ったが口には出さず、俺はチャリ漕ぎ役、本上さんはがっつり荷台に男座り。魔王様はふわっと空に浮いた。
ツッコミはしない。何も言わない。スルーだスルー。再び平伏したジェムジャラムリンに軽く手を振って、俺は異世界チャリを漕ぐ前に、と。ちゃりんちゃりん。
「なぜベルを鳴らすし」
「しゅっぱーつ、しんこー」
「まあいいけどさ」
呆れる本上さんの声と同時に彼女の腕はしっかり俺の腹部にまわされて、なんだか気恥ずかしい。そんな事はおくびにも出さず、俺はチャリを漕ぎ出した。
漕ぎ出したらすぐに世界がぼんやりとしてきて、異世界とはおさらばだ。




