魔王と離れて尋問中
この電車は東京に向かいますか?と英語で聞かれたことはあるだろうか。京都駅の新幹線ホームでだ。何言ってるのかさっぱりわからなかった俺だが、東京だけは聞き取れたので、多分そうだと判断しイエスって頷いてあげた。安心したそのアメリカ人だかカナダ人の大柄なマムはサンキュー、とか言ってたんだけど、暫くして、エレベータを上がってきた別の外国人っぽい奴に慌てて駆け寄って、また同じ質問をしてたんだ。傷つくよねー。じゃあ俺に聞かないで欲しいって思った十年前の話。
それはともかくだ。
「ごぶりん、敵、扉こわした」
「そい、西方共通語、ふごしゃっと、ごぶりん」
「うだ!とこっかす!ごぶりん!」
俺たちに壊れた扉を指差しながら衛兵の一人が拙く喋ったまではよかったが、その後それを制した小柄な奴と、自分たちの言葉で言い争いを始めてしまった。
「んー多分、『普通のゴブリンは西方共通語を喋らない』『いやいや、ゴブリンだろどうみても!』の流れ」
「だよなあ、所々わかるってことは固有名詞は共通なのかな」
ぼんやりと衛兵さんの言い争いをただ見ている俺達である。扉の事もあるしな。
「だまだで、ぽんてぃぐらんだす。ごぶりんうしゃごぶりんうれ、とこってますだりん」
「とこってまれ」
「とこってまれ。お二人、質問するです。よいか?」
おっと、いきなり喋りかけられた。まあ尋問タイムってことだろう。謹んでお受けする。
「よいですよ。扉のことはごめんなさい」
「はい、二人、どこから、来た。名前、理由、教えてくれさい」
「はいはい、私は佐藤じゃなくてサットゥ、いやサッツォだっけ?」
「いきなり怪しい」
振られてついつい日本名を喋った俺に、本上さんがツッコミを入れた。小柄な衛兵も気になったようだ。
「サトウ、サットゥ、サッツォ?」
「うーん。どれも正解ですが、言いやすい方で。発音しづらいってクレームがあって」
「そう。私、大丈夫。サトウ、言うます。こちら?」
小柄な衛兵は本上さんに手のひらを向けた。本当にジェスチャーは同じだなあ。
「はい!冒険者のホッジョちゃんだよ!年齢は秘密!この人と一緒に旅してるの」
「だま?番い、ですか?」
「そうです」
「違います」
なんだか魔王様の前でも同じことやってた気がする。
「だま?番い違う、一緒の旅はおかしい、です」
「だから、番いです」
「んーじゃあもうそれでいいや。理由はあるんだけど」
「では、番い旅、どこに行く、ですか」
「どこではなく、人を探してるんだ、俺達みたいな奴」
「人。わかりました。お二人、扉壊した。どうして?理由?補償?直す?」
「開けようとしたら壊れちゃった」
「俺達も直せるものなら直したい。壊すつもりはなかった」
「どうなんだろうね。折れた閂は直せないだろうし」
正直に言う。本上さんはちらりと後ろ、つまりぶっ壊れた扉を振り返ると、
「扉を直すは無理だけど、門を塞ぐは出来るよ。どうする」
「今、ゴブリン、騒ぐ。閉めたい、です」
ごぶりん、にあわせて他の衛兵がまた、だまだまとこってとこった、など騒ぎ出し、小柄な衛兵もそれを制して三人で話だしてしまう。
初遭遇だから仕方ないとはいえ、面倒くさいなあ、会話って。




