魔王品質、伊達じゃない
場に応じた装いってのも大人になると求められるわけで、大手の会社主催な交流パーティとかだと流石に背広か、せめてジャケット着用が必須だと思ってたら、何故か主催者側がTシャツで出てきて何じゃそりゃ、てなった経験なら結構ある。そのくせこっちがTだとなんか残念な目で見られるんだよなあ。解せぬ。
つうわけで今のロンTジーンズの装いで、木の柵と質素な木の門を目の前に、冒険者アピールのリハーサルである。なんだこれ、まるでマッチしてねえぞ。
「俺はサッツォ。三十過ぎたおっさんだが、まだ冒険者なんてものをやっている」
「どうも〜、同じく冒険者のホッジョちゃんだよ!年齢は無しで!」
「はい、二人共よろしいかと思います」
「自分でちゃん付けする本上さんのキャラが」
「うるさいな」
こっちの世界の人との初遭遇なのだ。木の門の先に居る筈の門番さんに、説明する口上などを二人であわせ、魔王様にチェックしてもらっている。名前はこの世界の人が発音しやすいようにちょっと変えた方がいいそうで。
「お二方の装いについては、この世界ではいつでも最適な恰好に見える様にしましたので」
「いや、別に着替えてもいいんだけど」
「慣れないコルセット、歩きにくい木靴、臭い古いボロ切れとか、本当に着替えたいですか?」
「あ、いいです」
「私もユニバーサルな洋服大好き!」
「ちなみに今は、数ヶ月の旅の果て、やっとたどり着いた旅人風ボロに見える筈です」
「想像しにくい」
「こんな感じです」
なんだかゴミ捨て場から拾ってきたような、黒くて臭くてスカスカに生地が痛んでるボロ切れを取り出した魔王様を見て、本上さんは腕で体を抱くようにロンTをまもりつつ首を横に大きく振った。絶対着替えないぞアピール。もちろん俺も本上さんに全面的同意である。
なるべく慣れない恰好はしたくないって言うか、この年で今更コスプレとか嫌だし、それ以前に魔王様が取り出したのはどうみても三十年放置されてた雑巾。しかもなんか濡れてる奴。下水を煮込んだ汚水でじっくり三年すすいだ濡れ雑巾にどうぞお着替えください、とかどんな異世界スタンダードだよ。
魔王様による、言っちゃ悪いが、別に悪くないか、幻覚効果は俺たちには効かないので、俺たちからすれば、ユニバーサルな普通の街中ファッションのままだ。なんだかテーマパークのアトラクションみたいで、現実感がまた遊離していく。
俺はえいっと両頬を叩いて、揺れる緊張感を復活させる。一応何がおこるかわかんねえしな。本上さんも居るし。
「よし、行きますか」
「とりあえず適当にぶらつけばいいのね」
「はい、因果の流れで、生死に関わらず貴女方は同郷の人間に引き寄せられる筈です」
「出会ったら別人ってことは無いだろうな」
「…いってらっしゃいませ」
おい、あるのかよ。
「所詮新参者ですから、私の前任者やら同僚やら、対立する方々の召喚とかはその、分からないと言うか」
「ま、私のチャリもあったし、居るならアイツよ。そうそう他の日本人はいないでしょ」
「だといいけどなあ」
少し不安を抱えながら、質素な木の門、その簡素な扉を開けようとして、俺たちは止まった。
「内側から、ロックされてないかこの門」
「閉じられてるってことはそうだね」
「怪力チートでぶん殴るってわけにもいかないか」
「器物破損で実刑かな、猶予つくかな」
はい、解散。




