魔王と彼女の悪だくみ
おっさんは何となく、男子が力仕事、女子が細かい仕事っていう風潮って中学とか高校で形成されてると思う。いや小学校ん時は男女問わずクラス全員で机運びしたけどさ、中学高校あたりで掃除が雑な男子への苦情からの「男子〜机運びなさいよ〜」て言う掃除得意女子と、俺たち机運び役とか、作業分担が出てきた気がするな、と思い出したり。いや掃除得意男子とかもいたけどさ。
何が言いたいのかと言うと。現在本上さんのチャリを掘りあてていて、隣を見ると、本上さんが凄い勢いで地面を素手で掘り返していたり。いや俺の手も動いてるが。ここまで怪力だと男女の性差とかあんまり関係ないのな、と思うわけで。だって本気で殴ったら地面にクレーターできるんだぜ。筋肉量とか関係なくだ。
最初本気で殴ってクレーター作ろうとしたら「チャリ壊れるから」と止められたので、素手で土を掬うように掘り進めているのだが、まあ自分の手がシャベルかってくらい、俺も本上さんも掘るわ掘るわ。気づいたら本上さんのチャリを地中五メートルで発見していた。
掘ったなあ。穴が崩れたら怖いし魔王様も「この辺り」までしか分からないらしく、結局範囲数十メートルを五メートル掘ったんだが、多分一時間かかってない。パワーショベルも真っ青。あれなんで黄色いんだろうね。
地中から掘り当てたチャリを本上さんが両手で掴んで地面から引っこ抜いた。パワー派だ。そのあとチャリを振ったのでバラバラっと土くれが辺りに飛び散り、俺や魔王様にもバチバチ当たるしボコボコ地面にめり込む小石達。地味に痛い。
「あ、ごめん」
「いいよ」
そんな会話の端で、飛び散った土くれが当たった森の外れの木々が大きく揺れたり、幹から折れて倒れたりし始めたので、本上さんと俺は黙って顔を見合わせた。魔王様がフォローする。
「力とはつまり、重さと速度ですから」
「それほどのスピードで土くれが飛び散ったってことか」
俺は納得した。一応物理の常識は異世界でも通用するっぽい。そんな土くれを顔面に受けても地味に痛いだけなチートレベルの頑丈さは物理じゃ説明出来ないけど。
「あの魔王様。怪力でチャリや服が壊れないのは」
「お二方の怪力にあわせてチューンしましたので」
服の土をはたいて落としながら、本上さんがそういえばと聞いたら魔王様が安定の「そんなこともあろうかと」な答えだった。いつ俺んちの服チューンしたんだよ。俺のチャリもチューンしとけよ。
「いや俺のチャリ壊れたんですけど」
「まあ、それは私との衝突は想定しておりませんでしたので」
「あ、そうか」
つまり魔王様が腕を組んで脳天から地面というか俺のチャリと激突さえしなければ、俺のチャリも無事だった筈だっておい。
「え、わざと壊したの?」
「いい年した大人が嬉し恥ずかし初めての二人乗りなんて捗るじゃないですか」
「いぇーい」
「おいこら」
恋愛脳な魔王様と本上さんがいぇーい、のタイミングでハイタッチしてる。十歳児にしか見えない魔王様と本上さんがハイタッチするには魔王様ジャンプしなきゃならない筈だが、そんなシーンも、本上さんがしゃがむ素振りも無かったのは目の錯覚か。やっぱ見た目弄くってるだけあって、魔王様の周囲は物の見え方がおかしくなるらしい。
本上さんのチャリは埋まってたとはいえタイヤもパンクしてないしフレームに傷も無い、前のかごが歪んでるのはボロいママチャリのご愛嬌だろう。チェーンに砂が噛んでることもなく、手で軽くペダルを動かしても引っかかりもなくペダルはくるくるっと廻った。五メートルの土に埋もれた直後とは思えない。
「佐藤様のチャリが大破など若干問題はありますが、本上様のチャリは無事回収できました」
「いや大問題だろ」
「だから、二人乗りで帰ればいいじゃん」
「あれ、すぐお帰りですか。おそらく近隣の町に異世界転移者が居る筈なのですが」
「マジで。生きてるのアイツ」
本上さんの舌打ちが聞こえる。魔王様は首を傾げた。
「さあ。生きて森を抜けられれば町に辿り着けますし、無下に発見即処刑とはならないでしょうからボロ雑巾のように生きてる筈です。また最悪の場合でも森で遺留品か本人のご遺体とご対面できます。どうされます?」
どっちも嫌だ、無視して帰りたい。俺も本上さんも全く乗り気じゃないんだが、魔王様はさっさと森に足を踏み入れて俺たちを振り返った。
「かつての部下や同僚の末路に唾吐きかけるのが、ざまあって奴ではないのですか?」
誰だよそんなエグいざまあをこの魔王に教え込んだ奴。




