魔王とチャリとクレーター
たまに、よく分からない場所にチャリが捨てられてる事ってあるよね。海とか川とか樹海とか。
電車でよく見る川の橋下にチャリが落ちてて、すわ事件か乗ってる人はどうなったと思いつつ、二年かけてだんだんそのチャリが沈んで藻が生えて見えなくなっていくのを車窓から観察したりするのも、長生きなおっさんには珍しい事じゃないだろう。学校のプール掃除ん時に底のヘドロにまぎれたチャリを発見とか、懐かしいよね。滅多に無いと思うけど。
しかし異世界の森の中でチャリを発見するおっさんは珍しいかもしれない。まず異世界行ける人間が限られる。おそらく俺ともう一名だな。
クレーターから、よっこいしょういち、など言いながら這い出してくる魔王は無視で、俺たちは手をブンブン振りながら地上に着陸した。ボーダーにジーンズなペアルックの男女二人が手を鳥の様に振りながら、小型ドローンよろしく、ゆらゆら揺れながらクレーターに降りてくるシーンを想像いただきたい。大型ヘリコプターの着陸みたいな轟音と強風がセットだ。幻想的である。非現実的って意味でね。
せめて本上さんがスカートだったらなあ。いや絶対ダメだわ。俺は恥ずかしくなった。飛べたと嬉しそうな本上さんを見て、余計にいたたまれない気がする。あさましい。
それでも無事に着陸できたので良しとしよう。俺と本上さんは手を振るのを止め、立ち上がった魔王様に歩み寄る。魔王様は無い裾をはたくふりをしていた。本上さんには袖をはたく王子様が見えてるんだと思う。
そして魔王様はにっこりと微笑んだ。
「さて、無事に目的の異世界にたどり着けたということで」
「無事でもないし聞きたいことがある」
「なんでしょうか」
「トランクに入れてた俺のチャリはどうした」
そう、出発前にタクシーのトランクにどうにか押し込んだ俺のチャリはどこいったんだって話だ。俺の質問に魔王様は目を瞑って空を見上げた。それから魔王様は辺りを見回した。最後に魔王様は振り返ってクレーターの穴を覗き込んだ。俺たちに向き直る魔王様。
「…パクられました」
「無〜理〜」
本上さんが即答だ。
「え〜、お二方とも仲良くパクられたでいいじゃないですか。懲役ってことで」
「パクられたの用法違い」
「異世界までペアルックは捕まって当然かと」
「なんでよ」
「異世界なんて、結局非モテ男子による妄想の舞台装置にしか過ぎませんし、ペアルックのカップルが土足で踏み込む場所とは言い難いのです」
「連れてきたの魔王様でしょ」
「恋愛脳の魔王としては、そんな思春期男子の群れの相手は嫌なので、微妙な恋人未満の二人を異世界でくっつけるマッチングサービスなどをですね」
「私らに目をつけたってそんな俗っぽい理由なの」
「所詮、恋愛脳ですから」
「本上さん、ダメだよ魔王様に騙されてるよ」
際限なく話がズレそうなので流石に俺は話を止めた。パクられからカップルトークとかどんだけ寝業師だわ魔王様。チャリの話だよね、と俺は話を戻した。
「魔王様、俺のチャリどこ」
「…」
「どこ」
「えと、穴の底に」
俺と本上さんは魔王様が作ったクレーターの底の穴を覗いて、底になんかフレームからひん曲がった俺のチャリらしき物体を発見した。前輪タイヤが無いとか、むしろ残骸。あーあ。
「どうすんだよ魔王様、帰れないじゃん」
「大丈夫だよ佐藤くん、また異世界タクシー呼べばいいし」
「すいません。タクシーはさっきの遠回りと崖で故障が出て、メンテが必要でして」
「マジか」
「いいじゃないですか。本上様のチャリを見つけて、二人乗りで帰れば」
「よし!」
「いや、よしじゃ無いよ本上さん」
「えー、だって」
どちらが漕ぐんですか、やっぱり佐藤様ですよね、など聞いてくる魔王様も、二人乗りに拳をギュッと握りしめる本上さんも話を聞いてくれなさそうだ。俺はそこら辺は我慢、いや放置して魔王様に次の質問。
「ていうかさ、俺ら本上さんのチャリ探しに来たんでしょ。ここにあるの?森だよ?」
「ええ。クレーターで埋まってなければあの辺りにある筈なのですが」
魔王様が指差す方向はクレーターの外縁部だった。埋まってる、ていうかたった今埋めた感じ。




