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おっさんと彼女と異世界チャリ  作者: モロコロス
おっさん、チャリをパクられる
23/35

魔王に騙され空を飛ぶ

 そういえば、あん時も最初ぼうっとしてたなあ、など最初の異世界を思い出す。そうだよ。タクシー乗ってた筈があん時はいつの間にか森の外れに立ってたんだよなあ。そんな事を思い出すには理由があるわけで。


「次の角を曲がる筈なんですけど」


 魔王様がそう言った。周囲は緑色の草だか何だかわからないものに囲まれていて、前も横も後ろも見えないタクシーの運転席でだ。そもそも次の角がどこにあるかも俺たちにはわからない。どこだよ、と思っているうちに魔王様がぐるんとハンドルを切った。


「そういえばこの異世界タクシーはですね」

「なに、どうしたの魔王様」


 ハンドルを切る魔王様は後ろ、つまり俺たちから目を離さないので大変に怖いのだがそろそろ慣れてきた気もする。そう、本上さんも気にしないと決めたようで魔王様に相槌をうってるし。


「前回でご承知かと思うのですが、目的地に到着すると自動的に」


 俺たちは魔王様の言葉を聞いてたのだが、次の瞬間。


 びゅうううううううう。


 突然、足、いや全身への圧力が消えて、俺たちは下から風を受けていた。つまり空を飛んでいたというか、正確に言うと落ちていた。何がなんだかわからない。


「消滅するようになっているのです」

「先に言えやああああ!」

「転移の座標軸が中々合わずですね。間違えちゃいまして」

「そういうのいいからあああ!」


 俺と本上さんが交互にツッコミを入れるのだが、魔王様は気にも留めず続ける。つまり、タクシーに乗っていたと思ったら、次の瞬間、地上を遥か下に見下ろす上空で自由落下していた。


 なにこれ!状況をまったく把握できない。あと風の音で聞こえない筈の魔王様や本上さんの言葉が何故かはっきり聞こえる辺り作為的なものを感じずには居られないがそれはともかく。


 俺たちは山、森、平原、あ、あれ町かな、などが見える、どう考えても日本ではない土地のおそらく上空数千メートルを落下している。直下には大きな森が見える。いや大きいかどうか分からないがスケール的に脇に見える町の数倍の大きさだし、建物の大きさから考えてかなり大きい筈だ。


 そんな森に向かってどんどんと落下する俺たち。自由落下とはいっても実際風の抵抗もあり、それほどのスピードは出てないような気もする。違うか。距離がありすぎて速さが掴めないだけかもしれない。


「し、死ぬうううううう!」


 本上さんが涙声だった。死んでもどうせ蘇生させられるんだろうけど、死ぬのが怖くなくなるわけじゃない。俺も当然ブルってる筈なんだが頭は妙に冷静で、地面に落下して死ぬのかなあ、俺ら怪力チートだし体も相当頑丈になってるしなあ、なんてのんびり考えてた。ここまできて現実逃避とか業は深い。


 そんなこんな、俺たちはパラシュート無しのスカイダイビングを継続して早三十秒が経過していた。墜落だなあ。


「と、とりだ!とりさん!とりさんになるんだ!」


 そして本上さんが壊れた。バタバタと手を振り始める。バタバタとは思えないほどぶおん、ぶおんと風が鳴るのは怪力チートのおかげだろう。


 なんというか、驚くことにそうしてるうち、大の字で落下する俺と手を振る本上さんの垂直距離が開き始めた。俺から見て、本上さんが上に登っていく。


 これ本当に飛んでるんじゃないか?


 試しに俺も手を鳥のように振ってみた。ぶおん。ぶおん。手を振るだけなのに凄い勢いで風が鳴る。そして俺の落下スピードが落ちた気がした。下からの風が弱まった気がする。


「あなた方なら、手を羽ばたかせて空を飛ぶことも不可能ではありませんよ」


 魔王様がそんな事を言いつつ、腕を後ろに組み、頭を下にし、落下していった。空気抵抗を極力減らして地面に突っ込んでいく魔王。意味不明なスタイルではある。


「よし佐藤くん、とりだ!私たちは鳥になるんだ!」

「うぃーっす!」

「焼き鳥食べたのがフラグなのですうううううう」


 ドップラー効果で低くなる声を再現しつつ落下する魔王様は無視。俺と本上さんは、それこそハチドリのつもりで手を振り始めた。ぶおんぶおんぶおん、と風を唸らせながら手を振る。


 必死で手を振ること暫し。だいぶ地面が近づいたなあ、というところでコツをつかんだか、落下の感覚が消えた。


 多分一秒間に五回以上手を振ってるし、一回ごとに凄い風が巻き起こってる感じもするのだが、どうにか俺たちは空を飛ぶことに成功したらしい。お互い手を振り激しい風が舞う。空中で俺たち二人は顔を見合わせた。セミロングの髪が孔雀の羽みたく縦横無尽に暴れ回ってる本上さんだったが、なんとも子供のような笑顔で彼女は叫んだ。


「とんでる!飛んでるよ佐藤くん!」


 その笑顔にちょっと惚れ直しもとい、つられて笑顔をみせるも俺はやっぱり冷静だった。異世界で空を飛ぶのが物理ってどういうことだろう、と微妙な気持ちを捨てきれない。折角の異世界、できれば魔法で飛びたいんだけどなあ。


 考えても見ろ、ピーターパンから最新中国ワイヤーアクションまで、手をバタつかせて空飛んでるキャラ、どこに居るんだよ。


 モヤモヤしつつ、どうにか俺たちは空中に静止しているようだった、あ、手はブンブンと振り続け、頭を上に、足もバタ足みたいに空気を蹴りながらだが、ちゃんと空中に浮いてると思う。泳いでるでもいいな。


 見下ろすと、もう町は見えなくなっていて、見える場所は全て森だった。上空百メートルくらいだろうか。幸い、地面はそれ以上近づいてこない。よかった。


 そして足元、予測落下地点である森の真ん中に、でかいクレーターができていた。風で聞こえなかったが魔王様、とっくに激突していたらしい。

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