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おっさんと彼女と異世界チャリ  作者: モロコロス
おっさん、チャリをパクられる
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魔王とチャリとタクシーと

 おっさんになるまで生きてると、チャリの一台や二台は盗まれた事あるだろう。


 チャリはパクられる。特にボロボロのママチャリなんつうのは、コンビニのビニール傘と同じくらい、簡単にパクられる。駐輪場に止めていてもだ。ロードバイクがその価値から盗まれるのとは違う。「急いでるし、こんなボロチャリ盗んでも誰も困らないだろ」という理由でパクられるのだ。パクった方は大して罪の意識を感じていない。


 俺も納得は出来ないが理解はできる。盗む、盗まないで言えば盗まない方がいい。しかし大事な用事に遅れそうで、相手がとても大事な人で、人生を決める出来事であり、走ったら間に合わなくて、すぐそばに蹴ったら外れそうなボロい鍵のママチャリがあったとして、一体何人が遅刻してもいいからと走るだろう。結構な人間がチャリをパクって遅刻を回避しようとするんじゃないだろうか。結構は言い過ぎかもしれないけど。


 その結果、ボロチャリに乗った人間を重点的に職務質問する警察に捕まるのだ。大事な約束に遅刻した挙げ句、警察で説教されたり前歴が残ったりと、人生が別の方向に変わってしまう。


 わははは、結局ダメじゃん。なおここで笑っちゃうと嫌われるらしい。実例は俺。


 いや、話は俺が嫌われる原因ではなく、異世界チャリをパクったらどうなるかだが、警察には捕まらなさそうだし、前科も前歴も付かなそう。


「マンション出たらもう異世界ですね」

「そらそうだな」


 魔王様が首を傾げた。そんなチャリをパクって何がしたいのだろう、と悩んでいる様子。いや普通チャリにそんな異世界転移能力求めてませんし、予想もしませんし。


「え待って魔王様。その人、あの絶海の孤島に行っちゃうってこと?」

「それはわかりません。貴女方と違い、特に目をつけられた、もとい招待されたわけでもない場合は能力も付与されませんし、私の世界に行くとも限りません」

「聞き捨てならない点はあえてスルーしとこう」

「ありがとうございます」


 本上さんが魔王様の重大発言にスルー宣言。まあ、既に公知の情報だから仕方ない。一体俺たち何処で目をつけられたんだろうな、と思うだけで。


「さて、実は私、お二方と、お二方の異世界チャリの現在位置を常時把握しておりまして」

「最初からパクられたの知ってんじゃねえか」

「盗んだ人間も知ってますし、盗まれたのが結構前なのも知っております」

「早く教えてよ」

「今回、それもあってこちらにお邪魔したのです」

「飲み会から参加する意味はないけどな」


 魔王様も華麗に俺のツッコミをスルーした。


「盗んだのはお二人が良く知ってる人です」

「誰よ。あ、まさか」

「突然会社に来なくなった人、ご存知ないですか?」

「あああああ!」


 本上さんと俺は同時に声をあげた。帰還直後に消えた、本上さんチームの元メンバーこと同僚こと、突然会社にこなくなった奴を俺たちは知っているからだ。元メンバーってなんか犯罪者の香り。いやいや。まあ、真剣に犯罪者なんだけどな。


「その人が本上様に嫌がらせしようと、チャリをパクったのです」

「なんで知ってんだあいつ」

「おそらく尾行で、チャリを確かめつつ愛の巣に戻る二人を目撃したのでしょう」

「愛の巣て。しかも尾行?」

「ストーカーってそういうの得意ですよね」


 魔王様は笑顔で断言した。あ言っちゃったよこの人。


「そのストーカーもとい犯人は、本上さんのチャリをパクリ異世界に転移してしまいました。私が調整するまでもなく全ては因果律、宿命によるものであり、この転移に私は一切関わっておりません」

「助ける必要無い奴でよかった」

「本上さん」

「だってさあ」


 魔王様の適当な逃げ口上も聞かず、アイツこの世から消えてよかったまで言い切る本上さんを流石に窘めようとしたのだが、俺を睨むっていうか拗ねた顔なのかなこれ。俺が知らないだけでアイツが引き起こした失踪直前の不祥事は、かなり本上さんの負担になっていたようだ。


「それでどうしますか。異世界チャリの回収に向かいますか」

「アイツはともかく、チャリは回収したいなあ」

「佐藤くん」

「チャリの二人乗りなんて、ここら辺すぐ警察に止められちゃうから」

「くそ」


 本上さんは一瞬こっちを笑顔で見つめそうになったが、続く俺の言葉に拳を握りしめて悪態をついた。だってさあ、男女のチャリ二人乗りって確かに青春って感じするけど、アレ怒られるし、もうそんな年じゃないでしょ俺ら。


「では行きましょうか」


 魔王様が右手をあげると、駐輪場の前の道路にキキッとタクシーが止まった。お、異世界タクシー。本上さんの握り締めた拳が震えだした。


「チャリ二人乗りでいいじゃん」

「やだ、捕まるから」

「マンション出たらもう異世界なんでしょ。公道出なきゃいいんでしょ」

「魔王様はどうすんの」

「勝手にこっち来てんじゃん。放っておいても大丈夫よきっと」


 言い合う俺たちを無視し、魔王様はタクシーのトランクを開けた。


「佐藤様、トランクにチャリを乗せてください」


 ママチャリってトランクに収まらない筈なんだけどなあ、と思いながら、ふと見るとチャリの荷台を掴み、本上さんがブルブル首を横に振っていて、拗ねた目で俺を見ていた。


 可愛いなと思った。


 まあ、それを口に出さないのが俺クオリティである。ヘタれって言うな。

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