魔王と連れ立ち午前様
ブラックな企業に勤める大人になると、午前様なんて仕事帰りと同じ意味なんだよなあ、てしみじみ思う。ブラックの飲み会は開始二十三時から翌六時なんてざらだぜ。夜勤か。
さて、魔王様がお会計を済ませて三人で店を出る深夜二時。ごちっす魔王様。ししとう美味しかったわあ。引き続き現実逃避で焼き鳥の美味を思い出しつつ、なぜか腕を組もうとする本上さんと間合いを取る俺をニヤニヤ見たり、お店をニヤニヤ振り返る魔王様が少し怖かった。
「いや、色々あるカップルのご来店が多くて、全員マーキングしておきました」
ぶれない恋愛脳だ。カップルの皆さんには合掌。秘密は守るぞ。まもるぞー、おー、と本上さんと俺は深夜の路上で絶叫し、いちにちいちぜーん、て追加で叫んだ俺は本上さんに頭を思いっきり叩かれた。近所迷惑だって言われたが直前にお前も叫んだじゃねえか。
途中で近所のコンビニに立ち寄り色々買い込んだりしたが、ニコニコとコンドームを籠に入れてくる魔王様を黙って見つめてゴムを元の場所に戻したり、同じくニコニコとコンドームを籠に入れてくる本上さんの頭を叩いて元の場所に戻させたり、知らない間にビールと御菓子と漬物セットと食パンが籠に追加されていたり、暴れ回る酔っ払い三人だった。一人、人間じゃねえけどな。
コンビニの酔っ払いって迷惑だと思うし、俺は違うと言いたかったがトイレの扉をドンドン叩き、入ってますかー、と叫んだりしたから同罪むしろ罪は重い。いや本上さんが入ってた筈なんだよ。しかし出てきたのは見知らぬ女性だった。即刻平謝りする俺。もうこのコンビニ来れないよ恥ずかしい。俺は本上さんの白い目に耐え、悶えるばかりだった。もちろん見知らぬ女性が出ていくまで謝罪を継続しながらだ。
つまり酔いとはかくも恐ろしいものであり、大人は、そして未成年の皆も大人になったらぜひ気をつけて欲しいものである。気をつけよう、酒はやめよう、と俺は人生何十回目な反省をした。
すっかり酔いも覚めた俺は危ない人間を見る目つきの外国人店員さんにひたすら、すいませんすいません、と謝りながら支払を済ませ、コンビニの袋を反省がてら両手で持った。マンションのオートロックのドアも部屋のドアも素早く本上さんが開けてくれる。この人はまだ酔ってるし、まだ合鍵も返してもらってない。寧ろアレからずっと、週三以上の頻度で利用されてる。
元は両親と俺と妹が住んでた部屋に三人で入る。四人暮らしがある日突然二人になり、妹夫婦と俺の三人暮らしだったこともあるが、今は公式には俺の一人暮らし。だから広い。寂しさに慣れていたが、今や家族じゃない本上さんが我が家のように寛ぐ姿に慣れつつあって危険。笑うな魔王様。
俺は俺の部屋で、本上さんは元妹の部屋兼客室、現彼女の部屋で、魔王様は俺たちがシャワーを済ませた後のお風呂場で寝ることになった。魔王様がニヤニヤして一部屋でいいんじゃないですかあ、とか言ったけど無視ですし。
「本上さん先シャワー?」
「佐藤くん先で、私魔王様と話があるから」
「じゃ先で」
魔王様の就寝場所については俺も本上さんもツッコむつもりはなく、俺はさっさとシャワーを済ませて部屋に戻って寝た。魔王様も居るからね。いや居なかったらどうって事もないけど。本上さんが何時シャワーを浴びて寝たかは知らない。一応おやすみは言ったけど。
それで日曜日の朝八時に俺は目覚めた。早いっていうか本上さんが起こしてくれたのだ。「起きて佐藤くん」ってのに慣れつつある恐怖については何も聞かないで欲しい。先に起きてた本上さんが手早く作ってくれていた目玉焼きとトーストで朝食を済ませる。本上さんにお礼を言って、皿洗いとかは俺がやるのがいつもの流れ。
その後準備だ。本上さんの趣味でどんどん家具が変わっていく元妹の部屋現本上さんの占有ルームから長袖Tシャツにジーンズの本上さんが出てきて、同じ恰好の俺と、相変わらずパジャマみたいな薄着の魔王様がリビングに出揃った。
「ペアルックですか」
「そうです」
「違います」
某ユニバーサルな衣服のお店で、安かったからとまとめて買ったらお揃いになっただけ、そうですと言い切る本上さんがダウト、の筈。そんな彼女を今更断る理由なんか無い癖に、などと魔王様は主張して本上さんに止められていた。おっさんは頭固いんだから仕方ない。納得しないで流されるなんてあってはならないのだ。本上さんの微笑みが痛いのは無視した。
事ここに至ってまだ否定する意味?五月蝿い、諦めたら終了なんだよ。
本上さんの休日用スニーカーなんかも揃ってる我が家だ。下駄箱からスニーカーを取り出す本上さんを見て、無言で魔王様が俺を見る。俺はそっと目を逸らした。わかってるよ。わかってんだよほんとに。
無言でエレベータで下り、三人で駐輪場に行った。
すると、なぜか異世界チャリが一台しか無かった。あれ?
正確に言うと、本上さんの異世界チャリが無かった。ちゃんと俺、二台確保してる駐輪スペース使って留めてたんだぜ。面倒だから妹の分を解約してなかっただけなんだが。
壁際に転がっていた前輪用の鍵を拾い上げて魔王様が言った。
「パクられてますね」
「鍵かけといたのになあ」
「こんな、前輪に引っ掛ける旧式なんて意味ないのよ」
「そのとおり。蹴って外せる鍵ごとき、無いも同然でしょう」
「いや鍵用意したの魔王様じゃん」
駐輪場用のマンション管理シール貼ってなかったので管理人さんに撤去されちゃったかもしれない、という希望的観測は鍵が壊されてるから採用できない。管理人だって前輪の鍵蹴り外して持ってったりしないだろうし、ガチでパクられたかも。
まずい気がしてきたぞ、と。




