魔王の力は半端ない
サラリーマンは体力だと思ってるおっさんは多い、俺もそうだ。頭で考えても無理ってくらい状況は刻々と変わるから、予測する頭より追っかける瞬発力とか追い続ける持久力を求められるんだよな。
というわけで、半年近く自らの体力の限界を追い求め続けていた俺たちは早々に追求を諦め、現実を淡々と認めることにした。とにかく遍く存在する魔王様は初めから居たものとして、しかたないデートは次の機会ね、と呟く本上さんは無視。会社のおつかれさん会って言ったじゃん。
「まあいいでしょう。佐藤様も本上様も仕事が忙しく、こちらに来る暇が無いことは承知しています」
見た目は子供、中身は邪神が、飲み干したジョッキを「あ、これもう一つおねがいしまーす」と店員に渡しながら、異世界ブッチを寛大にも許容する発言。お代わりお願いしてる脇でそんな厳かに宣われても困るんですけど。
「忙しいわりには年末クリスマス会などお楽しみのようで」
「回答は拒否」
「また、チームのもう一人に対するクレームは前回のご訪問時にも本上様からお聞きしていましたので、先ほどこちらに来て確認の上、因果を弄らせていただいております。さすがに今期中の異動は難しかったのですが、うまいこと人事に干渉できたようですね」
七味を混ぜきったマヨネーズに、エイヒレをつっこみながら魔王様の続ける内容は不穏だが、七味は全員かける派だったので文句はなかった。
「当事者は因果を変更するまでもなかったようですが、新しい方はお二方の仕事のサポートが出来るレベルの人材を用意いたしました」
採用アシスタントみたいな事を言う魔王様は、「おまっせっまぃたー」ていう掛け声と共にテーブルにどんと置かれたジョッキにお礼を言ってから一口啜った。この邪神もう三杯目くらいじゃねえかな。俺まだ二杯目に口つけてないけど。
飲み会開始時のお互い遠慮がちな雰囲気も消え、酔いが回ってからやっと本題に入る魔王様が飲み会に慣れ過ぎで怖い。
「新しいチームメンバー高橋さんですが、元々詐欺が本職のリアル黒い企業に就職、彼女と別れ犯罪に手を染め、最終的に上司を殴り殺して服役する運命だったところ因果を改変、ブラックでもまだマシな当社を選ばせ彼女と順調に交際を続けつつ、外資系にヘッドハンティングされる二年後までは当社に居る事となっております」
「それ本当?よかったわ〜」
「ん、当社?」
「人事に介入するため、勢いでつい買収となってしまい」
「因果律関係ない!単なるオーナー権限!」
「反省も後悔もしておりませんよ。魔王ですから」
「そんなノリでうちの会社買収すんじゃねえ!」
異世界で魔王に出会った、と思ったらその魔王様が現世の勤め先を知らぬ間に買収していたでござる。意味がわからん。魔王様の物言いにツッコんだらヤブヘビ過ぎた。俺と本上さんは改めて顔を見合わせる。
「それは、もう私が恋愛脳な魔王であるからして、ご了承いただく他ないのですが」
「んと、高橋くんと彼女ちゃん、気に入っちゃったってことかな魔王様」
「はい。あんな恋愛的に豊かなカップルは、是非とも我が部下に加えたいと」
「高橋くんに暗い運命が訪れなきゃ、もうなんでもいいわ〜」
「代償も、三年後に日本経済が破滅するリスクが六十パーセント増加する程度ですし」
「うそだろ」
呆然とする本上さんと、にっこり笑顔の魔王様である。高橋くんって一応言っておくけど日曜出勤変わってくれたヘルプの彼。そっかー、恋愛脳的に気になったら、それだけで会社買収まで進むんだあ。そんで俺たち日本でも邪神の部下になるんだあ、日本経済が破滅するその日まで。
「え、やめて?ガチ死亡フラグじゃん」
「高橋様は二年七ヶ月後、外資に転職し妻と二人で海外の本社に栄転する予定です。いずれにせよ問題ありません」
「俺!俺と本上さん!」
「お二人は死にませんから」
「未来視?それとも俺達こっちで使えるチートあんの?」
「私これでも神ですから、蘇生復活あ〜たり〜まえ〜、です」
「なんでも安い〜って命までかあ」
古いCMを思い出す本上さん。俺は殺しても死なないどころか殺されようが死ねない従業員扱いに本気で震えた。ブラック企業のオーナーが邪神なんて詰みまくりだろコレ。どうにか逃げられないかな。無理か。
「以上で、最早、仕事を理由にこちらに戻らない選択肢は無い点、ご理解いただけた事と思いますが、明日は何時にご出発なさいますか?」
「拒否権ないっぽいよ、佐藤くん」
「本上さんがあんな事言うから」
「もしくは、業務命令で来期、つまり明日から異世界に転勤します?おとなしく明日散歩がてら此方にいらっしゃるか、どちらがお好みですか?」
「どっちも嫌。転勤はマジ勘弁」
「一応今期中は、お仕事と当社利益を鑑み接触を控えていたのです。オーナーへの感謝を頂きたいところですよ?」
邪神が微笑んだ。
「諦めよう佐藤くん。がっつり抑えられてる」
「うぃーっす」
その後、三者合意に達したお祝いに痛飲する俺と本上さんに加え、店内に見えるカップル達の秘密をこそこそ暴露しては悶える魔王様が面白く、それぞれのカップルの秘密にも夢中な俺たちは終電過ぎまで飲み明かすことになった。
もうおっさんだからね。俗悪どんとこいな現実逃避である。




