魔王飛び入り、おつかれ会
古いおっさんは土曜日は半ドン、半分働く日だと思ってるので土曜日出勤なんか目じゃないし、週休三日、つまり月火休、木金休休とかになると仕事出来なくなりそうで怖い生き物である。毎日が日曜日なんて地獄だと思う時点で色々失格だと思うが気にしない。つまりどういうことかというと、無茶苦茶忙しくて碌に休んでない社畜アピール。
本上さんチームの一人、本上さんでも俺でもないクソ野郎とかダメとか扱われてた奴が、ある日突然会社に来なくなった。確か俺たちが異世界から帰って一週間も経ってなかった頃だ。本上さんは上司だから色々呼ばれたり、俺は知らないふりをしながら消えた奴と本上さんの仕事を三人分任されたりでクソ忙しくてクリスマスも正月もバレンタインも梅も桜も花見もやらず、やっと他部署からヘルプが入ったのが今週だ。年度末が早めに終わった他部署から異動する奴が、年度末が終わらないうちから、チームの惨状を見かねて来てくれたってわけ。
年度が終わってから忙しくなる経理やらそこらがジッとそいつを狙っていたのをどうにか回避するのが大変だった。
明日、日曜の予定もなんとかそのヘルプくんにお願いすることができて、寧ろ「やりたいです!どうせ日曜暇なんで!」ていう新人みたいな事を言うそのヘルプ高橋くんに色々仕事を振って、ああ、本来三人チームってこういう動きするもんだよなあ、と感慨深く。
土曜出勤もこなしたヘルプ高橋くんが「マジすいません。今日はデートの約束あるんで、八時に上がれませんか」と申し訳なさそうに聞いてきたのは、本日土曜日の午後六時である。やべえこいつも社畜だった。
さっさと上がれバカ、つうか今上がれ、お前の彼女マジいい人、俺ら二人が本気で謝ってたって伝えとけ、花見は寒さに気をつけろ、今度二人に奢るから、と念には念をいれて送り出して。
桜真っ盛りの土曜日の夜に彼氏の仕事優先する出来た彼女なんて俺見たことねえわ、いや私の周りにもそんな彼氏居なかったよ、なんてブラックな会話、つまり彼氏彼女が出来ない言い訳を続ける俺と本上さん。
いや待て待て、なんで今夜花見デートで明日暇なんだわ、て話になって、多分アイツの彼女も、別に彼氏でもいいけど、明日仕事なんじゃないか、で納得した。頑張る若いカップル、素敵だ。
高橋くんならもっといいとこで働けるんじゃねえかなあ。仕事見てたけどすごい優秀だし、幸せになってほしいなあ、けど居なくなるときっと俺ら困るなあ、と二人で雑談しながら夜十時、今期の片付けとか仕事が漸く終わった。
なんだかしみじみしちゃった三十代も半ばな男女二人でセキュリティ確認して、会社を出て、少し食べるか、と土曜もやってる小さな焼き鳥屋に入ってさあ乾杯って時に、何故か異世界は絶海の孤島に住まわってる筈の恋愛脳魔王が同じテーブル席に座っているのを発見、ていうのが今までの粗筋。
おかしいな。うんおかしいよね。本上さんも俺も首を傾げるばかりだ。
つうかアンタ地球上に存在してはいけない奴じゃなかったっけ。のんびり生ビール飲んでレバー食べてていいの?あ俺のしいたけ全部とりやがった。しかもなんでエイヒレ食べてんだ?頼んだっけ?などの俺からの質問には一切答えず、魔王様はそもそもですね、と、もそもそエイヒレを食べながら質問してきた。
「ご近所なのですよね?店ではなく、佐藤様のご自宅でご飯作ってあげればいいじゃないですか」
「無視しないでよ。何時からいたっけか」
あれ?いつから、と本気で悩み悶える本上さん。生ビール三つ来てるけど、本上さん二つって言ってたし俺も聞いたし。あと家飲みじゃない理由なんかはっきりしてる。
「夜十時から家でご飯なんか作ってたら終電過ぎちゃうだろ」
「今更そこを気にしますか」
「その問答は拒否」
「またビールとか、魔王様最初の方にそういや言ってたね」
「こっちの話聞いてねえ。本上さん、まだ考えてたんですか?」
「明らかに三人で店に入ったことになってんだよね」
「ちょっと待て、『また』?」
首を傾げつつ首の後ろが少し寒い俺に、魔王様はやさしく微笑んだ。
「たとえ私が今、この瞬間に出現したとしても、因果律を変更すればよいだけですから。私はどこにでも居るし、どこにも居ない。遍く存在するモノです」
「やべえ」
「であれば、例えば年末のお二人だけのクリスマス会など、実は私も参加していた事にすることが可能。お二人の進展をこっそり眺めていたことにすることも」
「この人怖い、佐藤くん」
「人じゃないです、本上さん」
「そうだった。魔王様、こっちでも色々出来ちゃうんだね、やっぱり」
本上さんが恐る恐る尋ねた。
「はい、元はこちらの外宇宙神なので。あちらでは新参の愛の女神その本性は恋愛系魔王ですが」
「魔王のカバーとしては最悪のチョイス」
「所詮、恋愛脳ですからねえ」
本上さんの感想に、魔王が遠い目をした。
あくまで俺の目から見てだが、十歳くらいの女児がビールジョッキ飲みながら遠い目をする焼き鳥屋のシュール具合が極まってる。本上さんの目には見目麗しい王子様がジョッキ飲んで遠い目なんだろうが、そっちのがよりシュールかもしれない。店員にはこの魔王はどう見えているんだろうね。絶対十歳児では無い筈だ。




