魔王と土曜のやきとり屋
酒が好きなんじゃない。居酒屋の雰囲気が好きなんだ。だから家では飲まないっておっさん、結構いると思う。俺もそうだし。
昔は花木、花金なんて言われてたらしいが、土曜日も働いてるおっさんには関係ない。東京都内某所の焼き鳥屋に本上さんと二人で入って、テーブル席に案内され、お通しを貰ってメニューを眺める事、暫し。
お開きも近づき出来上がった半分スーツのおっさんずによる万歳三唱や、土曜日を満喫した私服のカップルがあーん、とかやってる。ま、俺たち二人はスーツだぜ背広だぜ仕事納めだ舐めんなよ。そういやなめ猫って一瞬復活してなかったっけ、という土曜夜十時。
店員がお通し持って来た。
「すいませんレバー、ねぎま、はつ、ししとう、しいたけ、あ、ねぎま塩とタレ両方で」
「あ、あと生ビール二つ。佐藤くん、いきなり焼き鳥頼まないでよ。まず飲み物でしょ」
「はい!ごちゅうもくぃかっま!なまさん、ればはっししとしたけ、ねぎましょたれ、あとえいひれっすねおまっだあい!」
威勢のいい、日本語端折りぎみの店員さんが下がっていった。またビールですか、本当にお好きですねと魔王様は呆れつつ、追加のメニューを考えている。いつもビールだと太るかなあ。
「諸君、私はビールが好きだ!」
「あ、そういうネタいいんで」
本上さんの最近のお気に入りは狂ったイケメン吸血鬼の漫画。微妙に古い気がするしあれはイケメンじゃないイカレメンだ。魔王様はウォルターさんはイケメン、と呟いたが無視。
「私は佐藤くんに受ければいいんだよ」
「うぜえなこのババア」
「ババア!ババアときたか!私がババアならお前はジジイだろ!」
「お互いジジババですって。自覚しろよもう」
「いやいや花の三十代つかまえてババアなんてセクハラだから」
「花?三十代なんて、もうジジイですよ」
とりあえずエイヒレあるしいっか、とメニューを閉じた魔王様は、俺たちの進展を聞きたそうに眺めてくる。本上さんは親しき仲にも礼儀ありだよ、なんて言ってるがそこまで親しくはないだろう。こちとらブラック会社員、異世界より帰還してからこっちずっと普通に激務だったし。進展なんて二人で飲む機会が増えたとか、こういう雑な物言い出来るようになったくらいじゃないかな。ババア呼ばわりが許されてる時点でもう普通じゃないですよね、と魔王様が正論を吐いたが無視。
「そうやって毎日仕事に仕事、家でも仕事。今日も仕事って楽しい?」
「そりゃ本上さんもでしょ?いや年度末、土曜日の夜十時、やっと飲めるこの幸せ!」
「日曜出社の予定すら嬉々として受け入れてたじゃん」
「あの件は振ったじゃないですか」
「佐藤くんもやっと仕事を人に振れるようになって」
「違うわ!ようやくまともに仕事振れる人が来たの!」
「そうね、やっと普通の三人力か〜」
お互いにしみじみ頷く俺と本上さんの二人である。今まで変則二人チームだったからね。そういや初めて異世界行った原因って、あの元同僚が意味不明な説明を取引先にしたからだなあ、と思い出した。魔王様はビールまだ来ないなあ、なんて店員さんを見つめてる。
「そいやあのクソ野郎の案件解決?」
「クビじゃね?よーいわれんけど」
「まさかねえ、取引先に」
「ダメだよそれ以上は」
「うぃーっす」
会社員なら一つや二つ、誰にも言えない言いたくない秘密はあるのである。そんな俺たちを見やり、では明日暇なら異世界来ませんか、と聞いてくる魔王様。
「よし、今日は泊まって明日朝から遊びにいこか」
「二人きりだからって直球過ぎ、いや泊まりも本来許可してねえし」
「あんな広い部屋に一人はヤバいぞ佐藤くん」
「妹家族が遊びにきたらどうするんですか」
着々と我が家の状況把握と占領を完遂しつつある本上さんだ。両親に「例の人とはどうなったの」とか言われててえ、など一方的な話をしてくるが俺には関係ない、筈だ。まあ、妹達が引っ越して随分と経ってるし、遊びに来ても部屋使う事も無いからいいんだけど。魔王様も追随して私もいいですか、こっちに家まだ無くてと言いだした。万が一妹家族と顔合わせたらどうするんだよ。姪っ子に嫌われるわ。
「どうせもうすぐおじちゃん臭いって来なくなるから」
「やめて!本当に止めて!泣くから!」
「甥姪にハマるって本当なんだ。私一人っ子だから分かんないわあ」
やべえぞ、良い所の一人っ子なお嬢ちゃんなんて益々俺には勿体ない。いや何がって言われても困るけど。そこらへんで話は止まる。魔王様の顔もぱあっと明るくなった。店員さんがビールと焼き鳥持ってきたのだ。焼き鳥も同時か、この店出来る奴いんなあ。
「おまたせしましたあ!生三つ、はつ、レバー、ねぎま両方、あとえいひれっす」
「ありがとうございま〜す」
あ、こっちとこっち、あとエイヒレはここにと魔王様が店員さんに場所を指示する。さあ、ジョッキを手に取り乾杯だ。
「今日は一応、デートっていうより年度末のお疲れさん会的な意味でって、おや?」
「ん?あれ?」
やっと違和感の正体に気づく俺達。ジョッキ持って構えてる魔王。
「魔王様?」
「やっぱり私お邪魔でしたか?お二人はもう、そういう関係に?」
「…」
「いつからいたっけ魔王様」
「はじめから。地の文からこっそり侵入してみたのです」
「メタい」
「てへ」
本上さんの質問に舌を出して笑う魔王様である。てへじゃねえわ邪神が。




