おっさんと彼女。
諦めたらそこで終了なら、俺は一生諦めないぞ。何を?
とりあえず東京に戻ってきた。俺は慌てて鞄からスマホを取り出して時間を見るとタクシーに乗った日の、夜の十一時だった。時間の流れが違うとかどうでもいいが、こりゃ流石に誰も会社に残ってねえだろうな、会社に戻るかどうしようか、と俺は考える。俺はいい大人、つまり社畜だからまず仕事優先なの。普段からこんな時間まで会社に残るのは俺のチーム、つまり俺か上司の本上さんくらいだから、今帰っても意味ないけどね。後のチームメンバー?推して知れ。
少し後ろで同じく止まった本上さんも、鞄からかわいらしいケースのスマホを取り出して、何やら確認している。俺は彼女を待つことにした。
「あ、お母さん?私。そう、今日はもう会社上がったんだけど、友達の家に泊まるから。うん、お父さんもう寝てるでしょ。うん。わかった。着替えは大丈夫。会社にも着替えおいてあるし」
なんだかとんでもない事を言ってるぞ?今から女友達の家に行くわけじゃなさそうだし。
電話を終えた本上さんは、すっきりとした笑顔でサムズアップした。
「さて佐藤くん。今日はきみの家で飲みたいな」
「マジで何言ってるのアンタ」
「わかってるくせに〜。つり橋効果?」
「いや、つり橋なんか一回も無いよね」
「最初、最初」
「ああ、最後の大量のほほん殺戮大会ですっかり忘れてた!」
本上さんは今までにも、終電逃したがシャワーを浴びたいとかよくわからない、大変危険な理由で何回も家に来ている上司である。それ男女関係あるんじゃね、と彼女の家族ふくむ周囲に邪推されるのを見越して動く「罠を張るのが大変うまい女子」の尊称を奉りたいほどの危険人物。男の汚い部屋も、昔の彼氏で慣れてるとか言うんだよ。断っても押しかけてくるし。
さらに、ちょっと危ない遠足を終えてやっと元に世界に戻ってきた今の心理状態で家に来られるとまずいんじゃないかなあ、主に俺の方が、と思ったりもするのだ。別に本上さんが嫌いなわけでも無いから更に困る。今回は罠にかかってしまうかもしれない。いや諦めるな。まだ試合は終わっていない。
「何がまずいのさ」
「いや、これが孔明の罠かと」
「へたれんのもいい加減諦めようよ。異世界まで付き合ってあげたんだから」
「えええええ」
いい年したいい女にダメ出しされる。うーん、格好いいなこの人。寧ろ、俺が単なる小心なチキンなのか。異世界でドラゴンなます切りにした男なのに。
結局、会社にボロチャリを置くこともできず、本上さんの家はチャリでは遠すぎるので、俺のマンションに置いて欲しいというお願いを拒否出来ず、本上さんは家に来た。
チャリを置いてからコンビニに立ち寄り、酒とか下着の替えとかあとまあ色々、主に本上さんが買いこんでたが俺は中身をろくに見ないで金だけ払う。そんで家に帰って酒盛りしたわけなのだが、二人共最初のゲロ話で盛り上がり過ぎてしまい、さらにゲロ話でなんだかそういう気分にもなれず、いや最初のパンモロん時の話はなんとなくそういう雰囲気になったんだけど、その直後に貰いゲロでしょ。その話からバカ話が延々続いたわけで。
飲みすぎて何事もなく二人でソファに倒れるように寝て、朝九時に起きた。ちなみに会社の始業は九時半。歩いて十分の距離。仕事だわ。
俺が先にさっさとシャワーを済ませて着替え、女の人は化粧やら準備に時間がかかるので彼女を置いて家を出るので、合鍵を渡さざるを得なくなり。
鍵は二度と返さないからね、と本上さんに宣言されるのだった。
くそ、諦めないぞ。俺の冒険はここからだ!
異世界チャリ入手編、完。




