おっさんは恋愛脳も嫌い。
理不尽にも異世界に放り込まれた俺。さっさと東京に帰りたいんだけど、本当に?
風呂入ってたらふく魔王様が提供してくれた飯を食べ、クソして暖かいふかふかベッドで寝て朝起きたら、昨夜感じた理不尽感はだいぶなくなっていたりする。現金だなあ俺。本上さんも元気そう。
「いえ、そもそも異世界タクシーは、世界から逃げ出したい、今の世界に未練が無い、という人にしか見つけられないタクシーなのです。そこまでの人は滅多に居ませんし、田舎の世に倦み疲れたおじいちゃんおばあちゃんを連れてきても仕方ないので、大都市を中心に流すことにしたんですが」
「だからもういいよ異世界タクシーの詳細は」
「けどそれで佐藤くんがタクシーとめたってことは、佐藤くんあっちに未練が無いってこと?」
そんなことは無いんですけどね、と言いながら俺は少し迷う。本当に?
確かに仕事はあるけど俺が居なきゃ、ていう程でもない。両親が死んでからずいぶん経つが、妹にも子供もでき、嫁ぎ先にも可愛がってもらっているし何より旦那がこれまた良い男で、あんな妹を全力で大事にしてくれている。そういやこんど四人目だっけ。あいつに任せておけば安心ってもんだ。彼女なんていなけりゃ趣味もなし、ネットを見るだけ。暇過ぎて若人向けのライトノベルサイトをそれが文章だという理由だけで読み漁り不必要なオタク知識だけ増えていく、ろくでもない人生だな。未練なんか特にないのかも。
「その気持ちわかるけど、佐藤くんいないと私のチーム駄目んなんないかなあ」
「そこなんですよ。俺の仕事は大したことないけど、チームのこと考えるとね」
同僚、彼女からしたら他の部下の顔を浮かべ、しみじみと二人で頷いていると、魔王がポンと手を叩いた。
「ああ、そういう所じゃないですかね」
「何が」
「佐藤様の心残りは本上様にその仕事を残す事なんでしょう。本上様と一緒に異世界に来るなら仕事はもう関係無いですし最良の解決と言えます。本上様も佐藤様の居ない世界より、佐藤様と同じ異世界の方が良い、と思われているのでは。そういう所が異世界タクシーのレーダーに引っかかったのだと」
俺は本上さんと顔を見合わせた。お互いの心の機微を、俺は幼女に、本上さんはイケメン攻略対象に、そりゃもう赤裸々に勝手に語られているわけだが。
「いい大人が、そんな偏見に満ちた穿った意見に納得するかい」
「そうね、そこは流石に。恋愛脳だったらそれでいいかもしれないけど」
何せ二人共いい年した大人なのである。本上さんは血まみれでドラゴンを石で銃殺する狂人っぽいが、結構美人、そんな風に言われて悪い気はしないが、本気にすると血の涙を零す結果になるのでそれくらいで流すのが大人。そんな事ばっかりで世間は動いていないのよ。
「つうわけで、魔王様ご謹製の異世界タクシーは恋愛脳のポンコツレーダーで間違えて俺たちを異世界に連れてきたと」
「私がグーで殴るか、賠償を要求できるレベル」
「そんな、恋愛脳だなんて、嬉しいお言葉を」
「いや、それ昨日佐藤くんにやったから、褒めてないから!」
そうやって適当に話しながら、俺はちょっと考えることができ、本上さんはこちらの顔を見て何か言いたげだったが、何も言わずに朝食に目を戻すのだった。




