おっさんは平和について考える。
俺はおっさんなのでチートだのハーレムなぞ要らない。普通と平和が一番な普通のおっさんなんだ。
だから。
平和を愛する俺は、涙目でただその光景を見続けることしか出来なかった。
蹂躙を。圧倒的な蹂躙を。
足で踏み潰される彼女を、まるでおもちゃのように見つめるその獣。
獣が酷薄にも見える笑みを浮かべ、胸に穴のあいた、彼女の顎を抑えるのを、ただ。
見続けることしか出来なかった。
ちなみに獣の名は本上と言うんだが。本人からは酷いって言われたけど。
話は、どうも力が強化されているようだから石でも投げてみよっか、と本上さんが例のストッキングをスリング代わりに石を投げつけたのが始まりだった。音速を超えると衝撃波って出るんだね。俺はそんなことも知らなかったよ。
ぱああん!という何かを叩きつけるような大きな音がしたと思ったら、周囲の木から葉がバラバラと落ちてきて、そして上空を飛んでいる大きな雄の黒いドラゴン、雄だと分かった理由は推して知るべし、の頭部がぼん、と弾けて飛んだ。黒い巨体がどおん、と轟音とともに地上に墜ちる。
その後もぱあん、ぼん、どおん、ぱあん、ぼん、どおん、とリズムマシンのように規則正しく音が響き、近くの木の葉がパラパラ落ちるのが収まった時には、もう城の上空を飛んでいるドラゴンはいなかった。
いたのは、赤く染まった山肌に、胸に穴を開けて横たわる雌のドラゴンと、その頭を足で踏みつけ、角を抜こうと頑張っている本上さんと、周りに散乱する頭部が爆散したドラゴンの死体。こええ。
「いやいや。最後の力を振り絞って噛みつかれるのが怖かっただけじゃん」
もう血まみれも気にならなくなったらしい本上さんは、顔に飛び散ったドラゴンの血にも気づかず、ケラケラ笑いながら引っこ抜いた角ごと、血まみれの手を振った。もうグロ耐性つくのが早すぎとか以前に、単純に見た目が怖いんだけどこの人。だって血にまみれて真っ赤だよ。
かく言う俺も、本上さんを諦めというか怖がって俺に殺到したドラゴンを右手の金棒で叩き潰し、左の大鉈でなます切りにし、蹴飛ばしてやっぱり頭部を爆散させたりしていたので十分血まみれだった。しかもドラゴンの臓物まみれ。これは殺人カップル爆誕ですか。いや、俺のグロ具合に流石の本上さんもドン引きなので爆誕とはならなかったが。
俺は体を猫や犬見たいに振って、こびりついた臓物を振り払った。ビシャビシャってなんか音がするけど無視だ無視。
「ここまでやっといて、城に乗り込むのは死ぬから嫌だ、て言う佐藤くんがよくわからない」
「いやあ、こんな事してると心が死ぬ気がするんです」
「良い性格してるわ〜やっぱり」
「そんな、褒められると調子乗っちゃうんで」
「褒めてなくない?」
やはり平和とは破壊の後にしか訪れないものなのだろうか、などと俺が考えていると、
「あの〜」
静かになった城の正門辺りから、こちらに声をかけてくる者が現れた。




