第17話 魂結び
───穏やかな時が過ぎてゆく。
バルドルと別れてからの事。目新しい町での生活の事。酒場の人々、大らかなハンナや、無骨だが優しいその旦那、そして馴染みとなったお客さんや、ガイの事。楽しげに翠が今までの事を話していると、グルゥ、とバルドルが低く唸る。
≪───我が半身は何をもたもたして居るのだ……≫
「ん?どうしたのバルドル」
唸り声で、バルドルの呟きを聞き漏らした翠が問いかけるが、何でもないとばかりに目を伏せるバルドルに、それ以上深追いする事は無かった。
≪善き者達と、巡り会うたな翠≫
「……ええ」
その幸せを噛み締めるように頷く。そんな風に静かな会話を続けていた翠が不意に、思い出したようにバルドルを見る。
「そういえば前に、バルドルには私の居場所が判るって言ってたけど、今日なんとなく感じたよ」
呼んでる、って感じだった。翠が一人頷きながら告げると、さもあらん、とバルドルもまた頷く。
≪其方は我が伴侶故。……契約半ばとはいえども、我との儀は完了して居るからの≫
「え?半ば……って、終わってなかったの?」
花嫁などと呼ばれたあの時に、全て終わってしまったのだと思っていた翠が目を見開く。
≪其方は未だ、我が半身───ジークハルトと儀を交わして居らぬ≫
「そういえば、二人で一人だもんね」
≪是。……契約を成せば、魂が結ばれる≫
「魂が結ばれるって……どういうこと?」
≪我とジークハルトに近き関係だ。余りに距離を置けば適わぬが、魂を分かつ我ら程ではないが、その存在を感じ取ることが出来、僅かながら……感情も伝わる≫
「…………」
初耳のその内容に、翠の顔が引き攣る。何だろう、この恐ろしい契約は。
「そ、それって……破棄、なんて事は……」
そこまで言いかけ、翠は慌てたように破棄なんてしないから!!と続ける羽目になる。翠と居ることで、ほわほわと幸せオーラを発していたはずのバルドルが、余りにも悲痛な雰囲気で首を落とすのだから。
思わず、捨てないから!と言いかけた翠の目には、先ほどのバルドルは、今にも捨てられそうな子犬の如き姿だった。
(でもこれって……精神的ストーカー……?)
つい、こう思ってしまっても仕方がないだろう。遠い目をした翠に追い討ちを掛けるように、ふと顔を上げたバルドルが更なる爆弾発言を落とした。
≪……翠よ、ジークハルトが此方に向かって居るようだ≫
今回かなり短いのですが、キリがいいのでとりあえずここで(・ω・)
ちなみに、もちろん婚姻契約破棄できません(ぁ




