第78話 玄司の思案
空のマヨネーズ容器が気になるところだが、俺たちはとりあえず出発することにした。マヨネーズ容器はいつも通り高橋がアンダースローから放たれる138キロで山の奥深くに放り込み、一旦忘れることにした。止めたんだけどな……。ゴミだからさマヨネーズ容器とか。勝手に山に捨てんなよこいつ。
フンシツの馬車を先頭に、ウマシカの背に跨った俺たちが続く。今日も晴れたハイキングコースを、フンシツの落としものを拾いながらゆっくりと進む、のんびりとした旅。
だが俺の頭には、マヨネーズ容器を置いた犯人のことがずっと引っかかっていた。
「誰がやったんだろうな……」
「何言ってるんですか玄司様。中臣鎌足ですよ」
「大化の改新の話してねえよ! お前日本の歴史もいけんの!?」
「中大兄皇子の方でしたか?」
「だから大化の改新の話してねえって! なんで今このタイミングで『大化の改新って誰がやったんだろうなあ』って思うんだよ!」
「定期テストが迫っているからですよ。オトボケ村のシジボウが、もうテストを作っているそうですよ」
「ああ俺たちまだあいつの生徒扱いなんだ! 経営学しか学ばなかった気がするけど!?」
大化の改新はどうでもいいが、マヨネーズ容器を置いた犯人は気になる。高橋が結構ちゃんと接触しているが、こいつの話から得られる情報は、犯人の離婚歴ぐらいだからなあ。そんなもん分かったって何にもならねえよ。いや68回も離婚してたら、その情報だけで特定できそうではあるけどさ。
……思ったよりできそうだな。ちょっとやってみようか。
そんなことを考えながら進んでいると、前を行くフンシツの馬車から、何か大きなものが転げ落ちた。なんだあれ? ピンクでデカくて人ぐらいあるけど……。
「あいててて新小岩……。僕まで転げ落ちるとは、予想外だった新小岩!」
「本人だったのかよ! もう落としものじゃねえよ転落事故だよ! 何やってんのお前!?」
「僕はよくものを落とすんだ新小岩。仕方の無いこと新小岩」
「もの落とすのはもう仕方ねえけど、お前が落ちるのは気をつけろよ! そのうち命を落とすぞ!?」
「玄司様、今の上手いですね。敷布団2枚です」
「持て余すわ! 相場座布団だろ!」
「高橋、敷布団2枚はもったいないっすよ。2人が1枚の布団に寝られる方がコスパ良くないっすか? だからそこは大きい敷布団1枚でいいと思うっす!」
「なんでダブルサイズなんだよ! いやだから座布団にしてもらえる!? 敷布団持て余すって!」
「分かりました。では今から座布団を持って来ますね」
「うんよく考えたら座布団でも今は持て余すわ! 何も持って来んな!」
「え、じゃあこの人生ゲームも持って来ちゃいけないんですか?」
「どこで拾ったんだよそんなもん! 早くかなぐり捨てろ!」
「拾ったんじゃなくて持って来たんですよ。ウメボシの家にあったので」
「オトボケ村から持って来たのお前!? なんでそんなもん持って来たんだよ! かさばるだろ!」
何を言ってるんだこいつらはずっと……。フンシツが馬車によじ登るのを見ながら、高橋とウマシカのアホさ加減にため息をつく。
変なこと話してるから、マヨネーズ容器を置いた犯人のこと忘れそうだったじゃねえか。
でもそろそろ、犯人を直接捕まえてやりたいな。いつまでもマヨネーズ容器を置かれるのもめんどくさいし。毎回高橋に処理させるわけにもいかねえしな。あいつ山に投げ込むんだもん。不法投棄だもん。
しかし犯人、どんなやつが何の目的でこんなことをしてるんだろうか。嫌がらせにしても地味だし、高橋とは仲良くなってるみたいだし。よく分かんねえけど、ボケルト人だからそれぐらいで嫌がらせになるのかもしれねえな。
「玄司様、今日はずっと考えごとをされているようですね。何についてお考えで? 日中関係の悪化についてですか?」
「そんなわけねえだろ! 俺が今日本の情勢について考えてる余裕あると思う!? あと俺が考えたところで何にもならねえだろ!」
「玄司様、そういった他責思考が今の若者の政治離れを起こしているのではないですか? もっと当事者意識を持ってください」
「なんでそれを異世界のバケモノに言われなきゃいけねえんだよ! 内容が正しくてもお前が言うことではねえわ! 絶対に!」
「じゃあ俺っちが言ってもいいすか? そういった他責思考が今の若者の政治離れを」
「言わなくていいわ! お前も異世界のウシガエルじゃねえか! いや見た目は馬と鹿のハーフなんだけどさ! ややこしいんだよお前!」
「玄司様、ウマシカだってこの見た目に生まれたくて生まれたわけじゃないんですよ。ちゃんとこのようなマイノリティも受け止めた上で、多様性というものは語られるのではないでしょうか?」
「多様性の話今してねえから! 俺そんな高尚な話した!?」
「してませんよ。何言ってるんですか」
「なんだお前この野郎! お前が勝手に始めた話でなんで俺が詰められるんだよ!?」
そんな調子でハイキングコースを進んで行き、今日もまた日が沈んだ。どこからともなく現れたカリヤドがいつも通り簡易宿を設営し、俺たちはフンシツと共に中に入る。
今日は空のマヨネーズ容器が置かれてないといいんだけどな……。




