第7話 宿探し
災厄という言葉が気になるところだが、俺たちはとりあえず宿を探すことにした。寝泊まりするところが無いと困るからな。
「イドバタたち、この辺で宿屋はありませんか? しばらくこの村に滞在して、その様子をドキュメンタリー番組にして放送したいのですが」
「後半要る!? 俺と高橋の宿屋での生活誰が見たいんだよ!」
「この村に宿屋? そんなものは無いね。旅人が来ることなんて想定されてないからね。来るとしたら神様ぐらいだよ」
「超大物じゃねえか! それは迎え入れる準備しとけよ!」
「こんな村に旅する人なんて、滅多にいませんからねえ……。あなたたちのような救世主が来ることなんて、分かりませんでしたし。あ、でも私たちイドバタ三人衆はカレンダーに印を付けて待っていましたよ」
「めちゃくちゃ楽しみにしてんな!? なら泊まるとこぐらい用意しといてくれよ!」
「そんなこと言われても無理だわよ。とりあえず近くのばあちゃん家でも行くだわよ? 泊まらせてくれるかもしれないだわよ」
ばあちゃん家って……。そんな孫みたいな感覚で行けるもんなのか? こんな見ず知らずの異世界人と、異世界人よりも怖いバケモノみたいな見た目のやつと。うん、ダメな気がしてきた。ていうか絶対ダメだろ。こんなのばあちゃん家に泊めていいわけねえわ。食われそうだし。主に高橋に。
「玄司様、私は人間の老婆など食べません。食べるなら若い肉がいいですから」
「結局人は食うのな!? できればそこを否定して欲しかったぞ俺は! あとさらっと人の心読むな!」
「心を読んだわけじゃありませんよ。玄司様になり切って、今玄司様が何を考えているのか想像し、それに対して返答しただけです」
「だとしたらすげえなお前! 完璧に俺になり切れてるわ! まだ会って1日も経ってねえのに!?」
「玄司様の思考はトレースが簡単なんですよ。まず玄司様の頭の中を覗くじゃないですか」
「覗くなバカ! 結局心読んでないそれ!?」
「そしたら脳が見えるので、シワの数と形から思考パターンを予測するんです」
「めちゃくちゃ解剖してる! え、俺知らない間に頭割られてたの!?」
「脳って美味しそうですよね。タルタルソースをかけて食べたいです」
「1回俺から離れてもらえる!? 怖すぎるわお前!」
高橋の激ヤバ脳談話を聞いてたら頭おかしくなりそうだわ。いやもう覗かれておかしくなってそうだけども。
そんなことはどうでもいいんだが、とりあえず泊まるところを探さないと……。
「なあイドバタ、そのばあちゃん家ってのはどの辺なんだ? 一応行くだけ行ってみたくて」
「あたいはイドバタじゃないだわよ。イドバタ3号だわよ 」
「どっちだっていいわめんどくせえな! じゃあイドバタ3号、ばあちゃん家まで案内してくれよ」
「ごめんだわよ。あたいたちは今から買いものに行くだわよ。自力で行って欲しいだわよ。あそこに電動キックボードがあるから、使うといいだわよ」
「なんでそんなもんあるんだよ! その技術あったらもっと村発展させられただろ!」
「玄司様、私が案内しますから大丈夫ですよ。ああそんなに喜ばない! 掃除機のノズルなんか振り回しちゃって」
「喜んでねえよ! 知ってんならさっさと案内しろ! あとなんだその特殊な喜び方は!?」
玄司の案内でばあちゃん家に向かうことになり、俺たちは再び村の中を歩き出した。電動キックボードは使ってない。3台あったんだけど、イドバタ三人衆が買いもの行くのに使っていったからな。俺たちに勧めたんだからそこは残しとけよ全く……。
「それにしても、玄司様は色んな人に絡まれますね。人を引き寄せる何かがあるのかもしれませんね。まるで樹液のようです」
「お前ボケルト人のことカブトムシだと思ってない!?」
「思ってるわけないじゃないですか。でも私以外のボケルト人はゼリーが主食だと思ってますよ」
「じゃあカブトムシだと思ってんじゃねえか! しかも人に飼われてるタイプの!」
「ボケルト人のメスは角が無いですからね」
「オスにもねえよ! 角あるのお前だけだわ!」
アホなことを言いあっているうちに、少しだけゲージが上がるのが見える。1パーセント上がって今は合計3パーセントだ。こんな調子でしか上がっていかないのか……。結構な負担だぞこれは。
「そういや高橋、お前ばあちゃん家知ってるって言ってたけど、オトボケ村にはよく来るのか?」
「週に2、3回は侵入しますよ」
「普通に入れねえのお前!? だから門番のハラマキには認知されてなかったのかよ!」
「どうしてもあの洞窟だと取れる食料が限られているので、この村に調達しに来るんですよ。民家に行って、悪い子はいねぇかーって」
「なまはげの所業! お前ルーツ三重って言ってなかった!?」
「三重になまはげがいたっていいじゃないですか」
「まずここ三重ですらないからね!? ボケルト王国だからね!?」
「まあまあ、細かいことは気にせずにいきましょう」
「めちゃくちゃデカい話だわ! 世界自体違うって言ってんだぞ!?」
「世界ぐらい違うことだってあるでしょう? 私なんて前世ではヒーラーとしてダンジョン潜ってましたからね」
「じゃあもうお前が主人公じゃね!?」
なんでもありな高橋に振り回されながら、俺は目的のばあちゃん家へと向かって行った。




