第6話 イドバタ会議
おばちゃんたちは俺の方をチラチラと見ながら話していたが、やがてこっちに寄って来た。おばちゃんは合計3人。パーマをかけたおばちゃんに、メガネをかけたおばちゃん。それにエプロンを付けたおばちゃんだ。
なんだ? 俺に何か用なのか? 戸惑っていると、パーマのおばちゃんが俺に向かって口を開いた。
「ちょっとあんた! オトボケ村に胡散臭い男が来たって聞いたけど、あんたのことじゃないだろうね!」
「はあ? 何のことだよ。俺はこの村に来たくて来たわけじゃ……」
「言い訳するんじゃないよ! このトロびんちょう!」
「トロびんちょうって悪口の認識でいいの!?」
「あんたの悪い噂はもう村中に回ってるんだからね!」
俺の悪い噂……? 俺まだこの村に来てちょっとしか経ってないんだが……。覚えが無さすぎて怖い。
すると今度はメガネのおばちゃんが俺を指差した。
「あなたはこの村に災厄をもたらす存在だと聞いています! 役所に連れて行くから、早く本名を名乗りなさい! この炙りトロサーモン!」
「俺炙りトロサーモンって通称なの!? 美味そうだなおい!」
畳み掛けるように、エプロンを付けたおばちゃんが大声を張り上げる。
「みんなー! ここにいるのが災厄の源だわよー! 早くこのわさびなすから離れた方がいいだわよー!」
「とりあえず寿司ネタで呼ぶのやめてもらえる!? なんで全員違う寿司ネタで認識してんだよ! せめて統一しろよ!」
おばちゃんたちはずいずいと俺に近づき、至近距離でメンチを切ってくる。迫力えぐいな。一丸となったおばちゃんほど怖いものは無いからな。
「さあ、早く名乗りな! あんたの骨盤を役所に突き出してやるんだから!」
「首じゃなく!? そこ持って行っても誰のか分かんねえだろ!」
「いいから名乗りなさい! 名前を聞かないことには始まらないですよ!」
「ああもう分かった分かった! 俺は城金玄司ってもんだ。別にあんたらに危害を加えるつもりはねえよ」
「嘘つくんじゃないだわよ! 災厄をもたらす存在、その証拠がさっきの牛だわよ!」
「ああ確かにあれは災厄だわ! でもあれ俺じゃねえからな!? 高橋のせいだからな!?」
あの牛のせいで俺疑われてんのかよ。迷惑な話だよ全く。あいつ俺のサポートするって言って、結局足手まといにしかなってねえじゃねえか。ていうか早く戻って来いよ。いつまで牛に飛ばされてんだよ。
高橋が戻って来ないことにやきもきしていると、おばちゃんたちの様子が少し変わった。ん、何だ? 高橋の名前を出した途端に態度が変わったような……。
「高橋……? 高橋って、あの高橋かい?」
「どの高橋だよ! 多すぎて分かんねえわ! ……ああこの世界には高橋あいつしかいねえのか! めんどくせえなあもう!」
「高橋……。聞いたことがあります。高橋一族は、我々ボケルトの民を救う救世主を導く存在だと。あとマヨラー」
「マヨラーの情報はどうでもいいだろ! 並列に語る内容かそれ!?」
「てことは、この男は……救世主ってことだわよ!? あたいたち、とても失礼なことをしたんじゃ……」
おばちゃんたちが謎の動揺を見せ始めた時、ちょうど血みどろの高橋が戻って来た。また血みどろなのかよ。今度はどんな酷い目に遭ったんだろうな。めんどくさいからもう聞かないけど。
「玄司様! いやあお待たせしました! 牛たちと仲良くなっていたら、つい遅くなってしまいましたよ! はっはっは!」
「お前血みどろで高笑いすんなよ! 気味悪いわ! あと絶対仲良くなってねえだろその怪我は!」
「そんなことありませんよ! 牛たちが私にやけに懐いてくれましてね、角でみぞおちを突くんですよ!」
「嫌われてんじゃねえか! さっさと逃げ出して来いよバカ!」
呑気な高橋にツッコミを入れていると、おばちゃんたちの表情が明らかに驚愕のものに変わる。お、高橋の存在ってこの世界だとそれぐらい大きいもんなんだな。
「高橋がいるってことは、やっぱりこの男は救世主だよ! あたしたち、勘違いしてたようだねえ」
「そうですね……。大変失礼しました」
「聞きたいんだけども、ほんとに高橋はマヨラーなんだわよ?」
「そこどうでもいいだろ! 俺も知らねえわ!」
「どちらかと言うとタルタルソース派ですね」
「だからどうでもいいって! マヨラー返上しろお前!」
おばちゃんたちは俺と高橋の前に跪くと、俺たちを見上げて再び口を開いた。
「救世主様、失礼したね。あたしはこの村の情報収集屋、イドバタだよ」
「同じく、イドバタBです」
「同じく、イドバタ3号だわよ」
「アルファベットか数字かで統一しとけよややこしいな!」
「救世主様、勘違いしてすまなかったね。となると、災厄はまた別のクルマエビかい……」
「お前ら俺のことクルマエビだと思ってたの!? 災厄とかよりその方がショックだわ!」
なんで俺クルマエビだと思われてんだよ。この世界は意味分かんねえな全く……。
呆れていると、高橋が俺の太ももを叩いた。
「おいそういう時は肩だろ叩くの! なんで太ももなんだよ!」
「玄司様、ゲージを見てください。ハラマキとこのイドバタたちにツッコミを入れたことで、少し回復していますよ」
高橋に言われてゲージを見ると、2パーセントまで回復している。おお、こんな感じで回復していくんだな。しかし2パーセントか……。まだまだ先は長いな。
「玄司様、あれを見てください!」
「今度は何だよ……ってあれ、虹だ」
「ああそっちじゃありません。その手前で煙が上がってますよね? あそこでみかんを焼いているみたいですよ」
「なんでみかん焼いてんだよ! 正月の神社か!」
「流石救世主様だねえ。ツッコミのキレがツルツルだよ」
「それキレに使う言葉か!?」
まあとりあえず誤解は解けたみたいで良かった。しかし災厄? 気になる言葉が出て来たな。俺以外にもこの村に誰かが来てるってことなのか……?




