第52話 ナゾカケ無双2
突然フクラミの背後から現れたナゾカケは、前と同じように赤いジャケットの襟に手を置き、ベンチに座る3人の前に回り込んだ。
「お題ください」
「やっぱりこいつはそれしか言わねえんだな……。ボケルト人たちはどう対応してんだ?」
「ナゾカケくん……! あのね、私ナゾカケくんも第一印象に入っててね」
「なんで入ってんだよ! お前迷惑そうにしてたじゃねえか!」
「ナゾカケ、私も実はナゾカケが第一印象に入ってるんです」
「なんで!? 高橋の恋愛対象ってどこまでなんだよ!?」
「無機物はちょっと恋愛対象にはならないですかね」
「有機物は全部入るんだ!? 広大なストライクゾーンだな!」
すごいなこいつら……。ナゾカケの言動に一切動じず、いつも通りボケ続けている。これがボケルト人か……。なんかもうナゾカケにも他のボケルト人にも、真面目に対応することが間違いな気がしてきたな。
ただナゾカケ本人も全く姿勢を変えず、同じ言葉を繰り返す。
「お題ください」
「お題って言うと、年俸1億円のことかい? 僕にそれを言われてもね……」
「それは大台だろ! しかもプロ野球選手の! どんな聞き間違いだよお前!」
「違いますよフクラミ。お題というのは、服をかけるための道具です」
「ハンガーじゃねえか! だからお前もうちょっと語感近いもんと間違えろよ!」
「2人とも違うわよ。お題っていうのは、謎かけにおいてかける言葉になるものよ」
「その通りだよ! それ分かってんならさっさとお題出してやれよ!」
ボケルト人たち相手では埒が明かないと思ったのか、ナゾカケは俺の方に向かって来た。
ナゾカケが近づいて来るのを見て、俺の体は自然に強張る。どんな謎かけが来ても、俺のツッコミでどうにかしてやる。頭ではそう思っているのに、心臓は早鐘を打ち、足から根が生えたように体が動かない。俺は……本当にナゾカケにツッコミを入れられるのか?
「お題ください」
「分かったよ。じゃあ……雑巾でどうだ?」
「思いの外片付きました」
「だから整えろよ! なんだその片付けできないやつのセリフは!?」
「雑巾とかけまして、在校生代表と解きます。その心は、どちらも掃除をするものでしょう」
「……っ」
ダメだ。やっぱりツッコめない。ナゾカケの芸は、1人で完結している。謎かけ自体もちゃんと成立しているし、ツッコむ隙が無い。これに俺はどう対処すればいいんだ……。
慌てる俺の様子を気にも留めず、ナゾカケはどんどんお題を要求してくる。
「お題ください」
「またかよ……。なら紙袋でどうだ?」
「頑張って片付けました」
「知らねえよ! いいから整えろよ!」
「紙袋とかけまして、メンタルの弱いピッチャーと解きます。その心は、どちらも破れたら使えないでしょう」
「酷い言い草! ピッチャーはメンタル回復させてやれよ!」
「お題ください」
こいつ……。どんどんお題を要求してくる。今のは少し隙があったからなんとかツッコミを入れられたけど、このペースじゃダメだ。どうしたらいいんだ……?
「お題くださいお題」
「ああもう分かったよ! じゃあ消防車! これでどうだ!」
「心得ました」
「語感は惜しいけども! 整えてもらえる!?」
「消防車とかけまして、トラブルを隠蔽する会社と解きます。その心は、どちらも火を消すでしょう」
……ダメだ。やっぱりツッコミを入れる隙が無い。ちょっとでも隙を見せたらツッコめるように心の準備をしているが、純粋に上手い謎かけをされたら、俺にはどうしようもない。
やっぱり、俺はナゾカケに勝てないのか……。
「玄司様、こっちでツーショットどうですか?」
「まだ恋愛リアリティショーやってんのかよお前は! 呑気か!」
「あれ、何かお困りでしたか?」
「見りゃ分かんだろバカだな! 高橋、ナゾカケをなんとかしてもらえるか?」
「分かりました。今度は謎かけでも負けませんよ」
「また謎かけで勝負すんの!? お前のマヨネーズ謎かけじゃ無理だって!」
「大丈夫です玄司様。私も進化しています。さあ、お題をお願いします」
やけに自信ありげな高橋。そこまで言うなら、マヨネーズ謎かけを卒業したんだろう。もう1度だけ、高橋を信じてみるか。
「じゃあお題を出すぞ。お題は、傘だ!」
「整理整頓しました」
「とっ散らかしました」
「だからどっちかは整えてくれよ! なんでお前ら『整いました』が言えねえの!?」
前と同じように、ナゾカケの答えから聞いていこう。高橋がナゾカケを超えられるか、ここが基準になる。
「傘とかけまして、ヒーローと解きます。その心は、どちらも水から人を守るでしょう」
うん……上手い。ツッコミどころは見当たらない。俺じゃこのナゾカケには勝てないのかもしれないな……。でも大丈夫。こっちには進化したと言っている高橋がいるんだ。なんとかしてもらおう。
「傘とかけまして、ダウンジャケットと解きます。その心は、どちらもオーロラソースをかけると美味しいでしょう」
「やっぱダメだこいつバカだ! 何にも進化してなかった!」
「失礼ですね玄司様。ちゃんとマヨネーズにケチャップを混ぜてオーロラソースに進化してるじゃないですか」
「ソースを進化させても謎かけの中身は一緒じゃねえか! どこ進化させてんだよお前は!」
俺が高橋と言い合う中、ナゾカケは一切表情を変えず、再び俺たちに迫って来る。
「お題くださいお題くださいお題ください」
「うわあああああ! 高橋、ダメだ! 逃げるぞ!」
「待ってください。まだツーショット撮ってませんよ」
「知らねえよ! 撮らねえわそんなもん! いいから行くぞ!」
俺は高橋を引っ張って、再びホテルの方向へと走り出した。




