第51話 コボケ町の日常
朝食を終えた俺たちは、身支度をして再び町に繰り出していた。隣を歩く高橋は、少し黄色い汚れが付いた草履を手に持っている。
「お前それなんで持って来たの!? 要る!?」
「いやあ、せっかくの名物ですから。とっておいた方がいいかなと思いまして」
「いや要らねえだろ絶対! 草履オムレツから出てきた草履だろ!? 玉子が付いてんだよまだ!」
「ああ大丈夫ですよ。これはちゃんと舐め取ります」
「気持ち悪いな! 洗えばいいだろ洗えば!」
「玄司様。食べものを粗末にしてはいけませんよ。食べられる部分はちゃんと最後まで食べないと」
「じゃあまず草履を包むなよ! 片方だけあっても何の役にも立たねえし!」
「湿度を占えたりはしますよ」
「天気占えよ! 草履で湿度分かんのこの世界!?」
高橋にツッコミを入れながら歩いていると、ベンチに座って話すコヅツミとフクラミの姿が見えた。何してんだあいつら。お互い仕事とかねえのかよ。
「あのね、フクラミを誘ったのはね、第一印象に入ってたからで……」
「まだ恋愛リアリティショーやってるわあいつら! 何初めて会いましたみたいな感じ出してんだよ!」
「本当に? ありがとう。僕は正直なことを言うと、コヅツミは第一印象に入ってなかったんだ」
「リアルだなおい! いやリアリティショーだからリアルなのは当たり前なんだけどさ! なんでこいつらこんなに見られてて恋愛できんの!?」
「そっか……。そうだよね。フクラミはモテそうだもんね」
「うんモテるよ。めっちゃくちゃにモテる」
「嫌なやつだなあいつ! 鼻につくわ!」
「玄司様、あのベンチの両端が空いてますよ。あそこに座ってソリティアしませんか?」
「しねえわバカ! お前すげえメンタルしてんな!? あの2人挟んでソリティアとかしてたら空気読めなさすぎるだろ!」
「TKGってやつですね」
「KYだろ! TKGは卵かけご飯だわ!」
ていうかコヅツミとフクラミを見て思ったけど、別に俺が見てないところでもボケルト人はボケてるんだな。元々こんな感じなのか……。
それで誰もツッコミ入れてくれないんだもんな。なら確かに、俺みたいなのが来たら救世主って呼ばれるのも理解できる気がする。ボケを笑いに変えるのは、ツッコミの仕事だもんな。
そんなことを考えていると、高橋がいつの間にかコヅツミとフクラミの間に割り込んでいた。
「おいこら高橋お前何してんだバカ! よくその間に入れんな!?」
「コヅツミ、昨日は私のことを好きだと言っていたじゃないですか。もう浮気ですか?」
「嫌な詰め方! まだ告ってねえしお前もOKしてねえんだから誰に行ったっていいだろ!」
「高橋くん……。私の中では高橋くんへの気持ちが1番大きいかなって思ってるんだけど、でもまだ始まったばかりでしょ? だから色んな人と話してちゃんと決めたいなって」
「こいつはこいつで恋愛リアリティショーのノリが徹底してんな! よく聞くセリフだわ!」
「私の中で第一印象に入っていたのは、コヅツミとヤモリだけ。最初はどちらかと言えばヤモリへの気持ちが大きかったんですが、昨日コヅツミと話したことで、コヅツミへの気持ちも大きくなったんです」
「高橋くん、ヤモリはメンバーじゃないよ」
「え……?」
「『え……?』じゃねえよバカだな! ヤモリと恋愛しようとすんなよ! むしろなんで第一印象に入ってたんだよ! 顔合わせの時地面見てたのかお前は!」
「いえ、壁を見てました」
「壁を這ってたのな!? どっちでもいいけど人見てやれよ! なんでお前はボーッと壁見てたんだよ!」
やばいわこいつら。ボケルト人が集まるとボケが止まらねえ。でもこうやって捌いてるのも気持ちいいな。俺のツッコミの実力が証明されてるみたいで、気分がいい。
この調子で今日もどんどんツッコんでいこう。それがこの世界を救うことにも繋がるんだしな。
「高橋、今は僕とコヅツミの時間なんだ。邪魔をしないでもらえるかな? 後で君ともゆっくり話そう」
「分かりました。無線スピーカーの丸揚げは要りますか?」
「もう文脈が分かんねえわ! なんで要ると思ったんだよ!」
「無線スピーカーの丸揚げはちゃんと人数分持って来てもらおう。じゃあ今日の夜、楽しみにしているよ」
「要るのかよ! 何に使うんだよ無線スピーカーの丸揚げ!」
「無線スピーカーの丸揚げ、略してンールゲはどのサイズにしますか?」
「略し方間違えすぎだろ! 言いにくすぎるわ!」
もうめちゃくちゃだわこいつら……。恋愛リアリティショーのノリなのも意味分かんねえし、無線スピーカーの丸揚げが要るのはもっと分かんねえわ。
でもこれで『こいつらはこういうもんだし』って受け入れたらそれで終わりだもんな。ちゃんとツッコんでいかないと。じゃないとこいつらずっとボケ放置されたままだもんな。ツッコミで初めてこいつらの存在意義が生まれるんだから。俺がこいつらをちゃんと活かしてあげないと。
そんな決意を固めていると、フクラミの後ろの方から、赤いジャケットを着た人物が顔を出した。出たな……。ナゾカケだ。




