第49話 帰還と過信
ナゾカケから逃げた俺たちは、一旦ホテルに戻って対策を考えることにした。高橋はまだ自分の手をじっと見つめながら歩いている。
もういいよこいつ本当に……。なんで俺に手引かれただけで恋に落ちてんだよ。まず男同士だろ。いやそう言えば高橋の性別知らねえけどさ。イドバタBとかカキアゲとかコヅツミのこと好きになってるから多分男だろ多分。知らねえけど。
「しかし玄司様、あのナゾカケとかいう男、面白かったですね」
「いや別に面白くはねえよ。俺ツッコミ入れられなかったし」
「ですが玄司様、あれはもう1つの芸ですよ。ツッコミを入れなくても成立します」
「いやお前、俺の目的覚えてる? ツッコミ入れなきゃ生き返れねえし、ボケルト王国も救えねえんだよ。俺はツッコミを入れなきゃいけねえんだからさ、そこはちゃんとサポートしてくれよ」
「分かりました。しっかりダ・カーポします」
「サポートしろよ! 曲の最初に戻ってどうすんだよ!」
高橋は相変わらずのマイペースだ。よくそんな感じでいられるもんだ。正直俺はナゾカケにツッコミを入れられなかったことが、かなりショックだった。落ち込んでもいる。
でも大丈夫だ。俺のツッコミはこの世界では万能。例え相手がナゾカケだとしても、ツッコミの力で対処できるはずだ。
「玄司様、もうホテルに着きますよ。窓から侵入しましょう」
「普通に入れって! なんでお前はいつも侵入することしか考えてねえの!?」
「趣味特技が侵入なので」
「それ面接とかで絶対言うなよ!? もう店のもん盗みますって言ってるようなもんだぞ!?」
「いやいや何言ってるんですか。マヨネーズしか盗みませんよ」
「まず盗むなよバカ! マヨネーズ泥棒はこの国では大罪なんだろ!?」
「大罪ですけど、もう何度もやってるので別にいいです」
「開き直んなって! なんで更正しようとしねえんだよ!」
よく考えたらマヨネーズ泥棒と一緒にずっと行動してるのやばい気がしてきたな。日本で言えば連続殺人犯と一緒にいるようなもんだろ? 大犯罪者じゃねえか。なんでこいつが救世主を導く存在なんだよ。見た目も鬼だし。
「玄司様、何をヴォーっとしてるんですか? 着きましたよ?」
「なんでVの発音なんだよ! 普通Bだろ! そんな指摘したの初めてだぞ!?」
「でもぼーっとしているってかっこよくないじゃないですか。ヴォーっとしている方がかっこいいですよ」
「別にそんなことねえだろ! どっちにしろ状態は一緒じゃねえか! 何かっこよくぼーっとしてるって!?」
「玄司様、ヴォーっとです」
「分かったようるせえな! どっちでもいいわそんなこと!」
なんでこいつはここまでマイペースでいられるんだよ……。俺はかなりメンタルに来てるってのに。高橋のメンタルの強さだけは尊敬できるな。いや真似したくはねえけど。
「それより玄司様、このままだと部屋に入れないので早くコインキーを出してくださいよ」
「ほんとなんでこのホテルの鍵コインなの!? 相場カードキーだろこういうの!」
「あ、玄司様すみません。さっき小腹が空いた時に500円玉と間違えて使っちゃいました」
「何してんだお前は! さらっと俺の財布から金盗ってない!?」
「大丈夫ですよ。カードは盗ってませんから」
「何が大丈夫なんだよ! この世界だとカードあっても使えねえだろ! 金盗んなよまず!」
「アメ〇カンエク〇プレスなら使えますよ」
「使えんのかよ! そこまでしたら他のカード会社にも対応してろよ!」
「ちゃんとキック決済にも対応してますよ」
「なんで蹴るんだよ! タッチでいいだろタッチで!」
意味不明だなボケルト王国……。なんで地球のクレジットカードが普通に使えるんだよ。ボケルト王国支社とかあるのかな。だとしたらそこに普通に地球人いそうだけど……。
いやでも多分いっぱいいるんだよな地球人。見た目がボケルト人と変わらないから、ボケるかどうかでしか判断できないし、そもそも地球人でもボケるやつはいっぱいいるから、理論的にはボケルト人と地球人の判別は不可能だ。名前が地球人ぽいとかで判断するしかない。いつか出会いたいもんだな。この世界の不条理さを共有したい。
フロントにいたオフトンにコインキーを再発行してもらい、俺と高橋はようやく部屋に戻って来た。
「やっと帰って来られた……。コインキー紛失で2000円取られたじゃねえか。何してくれてんだよお前」
「まあでも再発行できたからいいじゃないですか。劣化ザーサイです」
「結果オーライだろ! なんだその不味そうなザーサイは! そもそも結果オーライでもねえし!」
「ところで玄司様、お腹が空きませんか? ザーサイ食べに行きましょうよ」
「行かねえよこの流れで! とりあえず休ませろ!」
それにしてもかなり疲れたな……。眠くなってきた。ナゾカケの対処法はまた明日にでも考えよう。ま、どうにでもなるだろ。俺のツッコミなら大丈夫だ。サクッとこの町を救って、王都へ向かう。それだけだ。
ナゾカケなんて敵じゃない。また出会っても俺のツッコミを炸裂させて、ひいひい言わせてやろう。高橋や他のボケルト人にツッコミを入れてきた俺なら大丈夫だ。間違い無い。
まどろみの中で確かな自信を取り戻しながら、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。




