第45話 自信の境界
「なんか……雨止まねえな」
土砂降りの雨は地面に跳ね返り、屋根の下にいる俺たちの足元を濡らしている。
今までも雨は降らせてきたけど、今回の雨はやけに激しいな。高橋とコヅツミへのツッコミが激しかったから、その分雨も激しくなってるとかそんなんだろうか。
「この雨じゃ屋根の下から出られねえな……。どうやっても濡れるし」
「玄司様、私折りたたみガザを持ってますよ」
「傘じゃなくて!? そんなイスラエルとややこしいことになってそうなもん折りたたむなよ!」
「折りたたみイスラエルと折りたたみエジプトの間に置いてあったので、つい買っちゃいましたね」
「ああほんとにガザなんだ!? そこは傘であって欲しかったな! あとなんでお前が地球のややこしい地域のこと知ってんだよ!」
「救世主様、ここでずっと雨宿りしていても何も始まらないわ。早く私たちの恋物語を始めないと。ね、高橋?」
「どうでもいいわ恋物語! なんでお前まだ恋愛リアリティショーモードでいられんの!?」
「玄司様、私はイドバタBとカキアゲが第一印象に入ってるんですが、コヅツミのアピールで彼女も気になる人に入ってしまいました。気になる人が3人は多すぎますかね?」
「知らねえよ恋愛相談すんな! ナゾカケをどうにかする話だっただろ!」
「玄司様は気になるハトとかいないんですか?」
「なんで俺だけハトと恋愛しなきゃいけねえの!? せめて人用意してもらえる!?」
「でもこの国ではハトは倦怠感の象徴ですよ」
「ああ平和じゃねえんだ!? そんなインフルエンザみたいな象徴嫌だな!」
そんなことを言っている間にも、雨はどんどん強くなる。おいおい、これ日本なら警報級の雨だぞ。このまま外にいて大丈夫か? どこかで災害とか起こってないだろうな。
まあもし起こってても俺のツッコミでなんとかなりそうではあるけど。なんか知らないけど俺のツッコミはこの国では万能みたいだからな。
「玄司様、雨が少し弱まってきましたよ。そろそろ屋根の下から出て町に飛び出し注意しましょう」
「飛び出すだけで良かっただろ! なんだお前道路標識か!」
「昔は道路標識として働いていた時もありましたね……」
「まじで言ってんのお前!? なんの標識やってたんだよ!?」
「双方通行です」
「一方通行じゃなく!? それ普通の道路じゃねえの!?」
高橋はアホなことを言っているが、雨が弱まってきたのは事実だ。もう傘も要らないくらいの弱さになってきてるし、そろそろ雨宿りも終わりだな。
「さあ玄司様、町に出てナゾカケとかいう怪鳥を探しましょう」
「まだ鳥だと思ってんのお前!? 多分人だぞ!?」
「救世主様、ナゾカケはボケルト王国の分類では鳥類よ」
「そうなんだ!? 恐竜の子孫!?」
「玄司様、鳥類の祖先はカニカマです」
「嘘つけお前カニカマがどうやって鳥に進化するんだよ!」
「見ます? まずカニカマから耳が生えるじゃないですか」
「もう鳥から遠ざかったぞ!? 鳥から耳は生えねえだろ!」
「その後耳が生えたカニカマは、親の転勤で富山県に引っ越すことになります」
「ごめん何の話!?」
「そうしてカニカマは鳥類に進化したのです」
「すっ飛ばしすぎだろ! 何がどうなって鳥になったんだよ!?」
「あれ、理解できなかったですか? まずカニカマに耳が」
「分かった分かったもう! もうそれでいいわもう! 理解はできねえけどそういうもんだと思っとくわ!」
なんだよこの国の進化……。全部意味不明だわ。高橋が魚類でサルの温泉が両生類の時点で意味不明だけど、カニカマから鳥類は今までで1番意味不明だな。もう考えるのはやめよう。理解できるもんじゃねえわ。
「とにかく行きましょう玄司様。私たちの恋はこれからが本番ですから」
「恋しに来たんじゃねえんだけどな……。まあいいや、とりあえず出よう。ここでダラダラしててもしょうがねえしな」
俺たちは草履工場の屋根の下から出て、晴れ間が出てきた空の下に歩き出す。まあこんな感じで雨降らせていけば、とりあえずビタミンの八百屋はどうにかなるだろう。この町はオトボケ村と同じく、雨が降ってないことが問題だったんだからな。
さてもう1つの問題はナゾカケとかいうやつだ。今のところ謎かけのお題をやたら求めてくることと、恋愛リアリティショーのメンバーらしいことしか分かってないが……。嫌われ者を好かれるようにするのって普通ならめちゃくちゃ難しいんじゃねえの? 俺じゃなかったらできないだろそんなの。
「救世主様、早速ナゾカケを探しに行くわよ。あなたの力なら、やつもなんとかできるかもしれない」
「嫌われてるだけなんだろ? ならどうにでもなるだろ。舐めんなよ俺のツッコミを」
「舐めたらダメなんですね。なら啜ってもいいですか?」
「何俺のツッコミって液体なの!?」
「ツッコミ100パーセントジュースですよ」
「なんか飲みたくねえなそれ! なんでやねんの文字とか浮かんでそう!」
「文字は浮かんでませんが、1杯1杯違うボケが浮かんでいるらしいですよ。このジュースの名前は片山ですとか」
「えらく庶民的な名前してんなジュース! どうやってそれツッコミながら飲むんだよ!」
またしても高橋のアホに付き合っていると、建物の影から赤いジャケットを着た人影が出て来るのが見えた。いた! ナゾカケだ!




