第44話 新たな問題児
ナゾカケという名を口にしたコヅツミは、今まで高橋に見せていた乙女の顔から一変、暗い表情を見せる。
いやむしろなんで今まで高橋に乙女の顔できたんだよ。バケモノと草履工場の見学に来ただけだぞ? だけって言う割には情報量が多いんだけどさ。
しかし、ナゾカケ? いかにも謎かけしそうな名前ではあるが……。そんなに問題児なのか?
「コヅツミ、そのナゾカケという鳥について詳しく教えてください」
「誰が鳥って言ったよ!? 知らねえけど多分人だろ! 恋愛リアリティショー出るくらいだし!」
「玄司様、鳥が恋愛リアリティショーに出たっていいじゃないですか」
「良くねえよ! 万が一成立したらどう責任取るんだよ! もしそのまま結婚とかしたら産まれてくるのが子どもなのか卵の段階なのか気になって仕方ねえわ!」
「分裂して繁殖しますよ」
「アメーバか! 人間がその増え方したら気持ち悪いわ!」
「玄司様、鳥です」
「どっちにしろ気持ち悪いわ! その増え方するタイプの生きものじゃねえだろ!」
いやそんなことはどうでもいいんだよ。今はナゾカケという人物についてもっと知りたいんだよ。いや鳥かもしれねえけど。まだ分かんねえけど。
「コヅツミ、そのナゾカケってのはどんなやつなんだ?」
「常に赤いジャケットを着て、人に謎かけのお題を求めてくるやつよ。真面目に恋愛せずに謎かけばかりしているから、番組的にかなり問題児扱いされているわ」
「うんまあ……。名前の通りではあるな。確かに恋愛リアリティショーでずっと謎かけしてたら、番組の趣旨変わっちゃうもんな」
「玄司様、私にも謎かけのお題をください」
「なんでだよ! お前謎かけとかできんの!?」
「謎かけくらいできますよ。ほら早く早く!」
「ああもう分かったよ。じゃあクジラで」
「とっ散らかしました」
「整えろよ!」
「クジラとかけまして、ブロッコリーと解きます。その心は、どちらもマヨネーズをかけると美味しいでしょう」
「お前にとっちゃ全部そうなんじゃねえの!? 別にクジラに限った話じゃねえだろ!」
「他にもなんでもいけますよ。ほらほら次のお題を」
「お前どうせ全部マヨネーズぶっかけるだけだろ! マヨラーは引っ込んでろバカ!」
「玄司様、私はどちらかと言えばタルタルソース派です」
「分かったってもううるせえな! 頼むから黙っててもらえる!?」
高橋がいると話が進まねえんだよ。なんだこのマヨネーズ謎かけ。謎とマヨネーズを一緒にかけんじゃねえよ。何ソースになるんだよその場合。
ああもう、高橋のせいで全然ナゾカケについての情報が聞けねえじゃねえか。ちょっとこいつの口にガムテープでも貼っとこうかな。
しかし赤いジャケット……? そういやさっきからチラチラ見えてる人影も赤いような……。
「救世主様、お願いよ。ナゾカケをなんとかして欲しいの。あの鳥がいると番組が成り立たないわ」
「ああ鳥ではあるんだ!? 本当に!?」
「そもそもナゾカケはボケルト人の中でも異端なの。謎かけを強要してくるから、皆から鬱陶しがられているわ。どうにかして普通にボケられるように矯正したいの」
「普通にもボケなきゃいいんじゃねえの!? 今のところ俺の負担えぐいよ!?」
「救世主様のツッコミなら、ナゾカケにも太刀打ちできるはず。あの調子とリニアモーターカーに乗ったナゾカケを止めてちょうだい」
「リニアモーターカーにも乗ってんだ!? それは別にいいんじゃねえの!?」
「玄司様、私も何かに乗りたいです。なんかパッとキッチンカーとか出せないんですか?」
「出せねえよ! なんで今キッチンカーに乗りたがるんだよ! 何か食べもの売りてえの!?」
「クジラ南蛮を売りたいです」
「クジラ南蛮!?」
でもナゾカケが問題児なのは本当らしいな。町の嫌われ者か……。そいつをどうにかしろってのがコヅツミの頼みだ。まあここまでツッコミで人々を救ってきた俺なら、そんな問題児くらいさっさと対処できるだろう。なんてったって俺は救世主だからな。このボケまくる高橋の相手をずっとしてるわけだから、相当ツッコミも鍛えられてるはずだ。
「玄司様、もしかして今私のことを考えていましたか? 咳が出て鼻水が止まらず、熱もあります」
「くしゃみとかじゃなくて!? お前のこと考えただけで体調不良になんの!? めんどくせえやつだなお前!」
「そう言われましてもこればっかりは体質ですので……。しばらく私のことを考えないでもらえますか?」
「無理だよお前存在感えぐいんだから! ただでさえ見た目鬼なのに、情報量が多すぎるんだよ!」
「情報量なんて多くないですよ。ちょっと魚を捌けるくらいです」
「ほらまた新情報出てきた! 魚捌けるんだ!? お前魚類じゃなかった!?」
そんなことを言っていると、空に黒雲が広がって雨が降り始める。ほらな、俺のツッコミならこの町を救うなんて朝飯前なんだよ。
ビタミンの八百屋も救って、そのナゾカケとかいうやつもなんとかする。さっさとこの町を救って、王都に向かわないとな。そもそも俺の目的は生き返ることなんだから、こんなところに長居しちゃいられない。ま、さっさと救ってコボケ町を出ますか。
草履工場の屋根の下に入って雨宿りをする俺の目には、いつもよりも激しく降る雨が映っていた。




