第4話 村の門番ハラマキ
木の門の前で寝そべるオヤジは、一応何か槍のようなものを持っている。てことはやっぱり門番なのか。あんなやる気ないやつが門番で大丈夫なのか?
「さあ玄司様、まずはあの門番から村に入る許可を得なくてはなりません。ここからが本番ですよ」
「てことは、ここからはツッコミでゲージが回復するんだな? よし、気合い入れて行こう」
「では気合いを入れるためにお尻を叩かせていただきますね」
「やめろこら! 運動部かお前! 何で叩くつもりなんだよ!」
「え、それはもうそこに生えている大木とかで」
「死ぬ死ぬ! お前俺を生き返らせるサポートするんだろ!? スタート地点で殺してどうするんだよ!」
「この木はこの村でとても愛されている大木なんです」
「なんで今木の説明を!?」
「愛が込もった木で叩けば、気合いが入るかと」
「やかましいわ! こじつけが過ぎるだろ!」
アホなことを言う高橋にツッコミを入れていると、その声で門番のオヤジが起きたようだ。眠そうに目を擦りながら、俺たちの方へやって来る。
「なんだおめら? オラたちの村に何の用だべ? 国勢調査か?」
「そんなわけねえだろ! 俺はまだしもこんな鬼みたいなやつが国から派遣されるか!」
「玄司様、鬼みたいな見た目でも国から派遣されたっていいじゃないですか。国鬼として」
「その読み方は誤解されるわ! お前ちょっと黙ってろやかましい!」
「はい黙ります。お口バック」
「チャックだろ普通! 口だけ後退して行ったら怖すぎるわ! 何お前口から先に生まれてきた人の逆!?」
門番は俺たちを怪しそうに見て、槍をこちらに向けてきた。やべ、高橋連れてるから怪しまれたか?
「おめら、なんか怪しいべ。こんな仕事でも村を守るため、このハラマキ、しっかり門番として働くべ!」
「こんな仕事って……。なんだお前、前は違う仕事してたのか?」
俺が尋ねると、門番——ハラマキは少し悲しそうな目になり、視線を落とした。あれ、なんか地雷踏んじゃった?
「オラは元々この村の役所で働いてたべ。でも仕事中にパチンコに行ってたら、窓際に追いやられたんだべ」
「うんそりゃそうだろ! 役所で働いてるやつがなんでパチンコなんか行ってんだよ!」
「そこでオラは閃いたんだべ。もう役所にパチンコ台を持って来たらいいでねえかと」
「バカすぎるだろ! なんで働いて巻き返す方じゃなくてよりサボる方に頭使うの!?」
「役所にパチンコ台を運んでたら、そこを村長に見つかったべ。オラは必死に頭を回転させて、こう言ったべ。『村長さん、お届けものです』と」
「最低だなお前!! 村長に罪擦り付けようとしたの!?」
「玄司様、私も昨日掃除当番を誰かに擦り付けようとしたので、よくあることです。この門番も許してやってもらえませんか?」
「お前もしかしてまだ小学校に在籍してない!?」
しかしこのハラマキ、元は役所の人間だったのか……。このパチンコ台事件がバレて、窓際から更に飛ばされて門番にされたってとこか?
「パチンコ台は村長に擦り付け、なんとか持ち込みに成功したべ」
「なんで成功してんだよ! 村長もバカすぎるだろ!」
「そのまま窓際でパチンコを打ってたんだけども、ある日どうしても忙しくて仕事を任されたべ。その時オラはしっかり仕事に向き合ったんだけども、何もできなくて呆れられて、門番にされたんだべ」
「シンプルに仕事できないだけだった! 役所はもっとパチンコに怒れよ!」
「そういうわけで、オラは今門番をやってるべ。村の平和を守るため、あと役所のパチンコ台を守るため、おめらを通すわけにはいかねえべ!」
「後半が本音だろ絶対! そもそもなんで異世界にパチンコあるんだよ!?」
「あ、それは私の祖先が津市から持ち込んだそうです」
「余計なことしてんなお前の一族!」
アホ2人を相手にしていると、突然空が曇り出した。するとポツ……ポツ……と雨が降り始め、やがて地面に広がるようにリズムを刻んでいった。おいおい、幸先悪いな。さっきまでピカピカに晴れてたのになんだよ。
俺が嫌そうな顔をしているのとは対照的に、ハラマキは驚いた顔で空を見上げていた。
「あ、雨……!? 雨なんてここ数十年降ってなかったべ!? なんで急に……」
え、そんなカラカラの土地だったの? なら雨降って良かったのか。しかしどうやって生活してたんだこいつら。井戸水とかで凌いでたのかな。
呑気なことを考える俺を押しのけ、高橋がずいっと前に出た。
「よくお聞きなさい門番のハラマキよ。このお方は、我々ボケルトの民を救いし救世主。このお方が我々のボケにツッコミを入れると、この乾いた土地に恵みを与えるのです!」
「なんだそれ聞いてねえぞ!?」
「あ、言ってませんでしたっけ。玄司様のツッコミは自然に影響を与えるんですよ。で、よく聞け門番のハラマキよ」
「なんで俺への説明さらっとしてんの!? もっとそこ重要じゃなかった!?」
「き、救世主……!? そんな言い伝えがあったような無かったような……」
「分かったらさっさと村に通しなさい。我々はこの村を救いに来たのです。村救いです」
「そんな金魚すくいみたいに言うなよ! おい、こんなんで通してくれるわけ……」
「失礼しただべ救世主様! どうぞお通りくださいだべ!」
「通れた! え、まじ? この雨たまたまじゃねえの!?」
ハラマキは木の門をゆっくりと開け、俺を門の前まで通した後高橋を止めた。
「待つべ。おめは救世主様の何なんだ? 見た目もバケモノだし、おめが何者が分かんねえ限りは通せねえべ」
「あ、高橋です」
「バカなのお前!? そういう時は名前にプラスしてお前の情報を喋れよ!」
「今は彼女いません」
「そんな情報誰も知りたくねえよ! お前自分が救世主のサポート役だって言えよ!」
「マヨラーです」
「ダメだこいつ!」
結局高橋は止められ、俺だけが村に入ることになった。いや待ってくれよ。俺1人じゃ何も分かんねえよ。どうすりゃいいんだよ。
「安心してください玄司様。私は裏口からこっそり入りますので」
「結局なのかよ! もっと真面目に生きたら!?」
高橋に見送られ、俺は門の前に立つ。ハラマキは笑顔で俺を招き入れ、こう言った。
「ようこそ救世主様、オトボケ村へ」




