第38話 町の困りごと
フクラミは諦めずに霜降り肉を探し始めたビタミンを横目に、俺たちに話を始める。
「救世主様、お前さんのツッコミは、雨とチーズを降らせる力があるということだったね?」
「チーズはねえよ! いつ俺が空からチーズ降らせたんだよ!」
「玄司様、玄司様のツッコミにはチーズを降らせる力もあります」
「ごめんできるみたいだわ! 俺が知らなかっただけみたい!」
「そんなチーズ救世主様、略してチー救の力を見込んでお願いがある」
「チー牛みたいに言うなよ! なんかバカにされた気分だわ!」
遂に霜降り肉を探して地面を掘り始めたビタミンの頭を叩き、ビタミンを立ち上がらせたフクラミは、俺たちに向かって頭を下げた。
いやビタミンはそろそろ諦めろよ。霜降り肉ねえって言っただろ。なんで地面まで掘り出してんだよ。元は空飛ぶ霜降り肉って話だっただろ。バカなのかよ。
「チー救、高橋、この町を救って欲しいんだ……!」
「だからチー救で呼ぶなって! 真剣みが感じられねえわ!」
「フクラミよ、この町を救って欲しいとはどういう意味です? 様々なバケモノ妖怪変化という意味ですか?」
「それは魑魅魍魎の意味だろ! 関係無さすぎるわ今!」
「そういう意味もあるが、メインはそっちじゃない」
「なんでそういう意味はあるんだよ! 何この町めちゃくちゃ妖怪とか出んの!?」
「玄司様、コボケ町には稀に鬼が出るという噂があります。その鬼はマヨネーズを好むとか」
「じゃあそれお前だよ! 何コボケ町の怪異になってんだよお前は!」
「ですが私はどちらかと言えばタルタルソース派ですよ?」
「知らねえって! 誰がお前の好みそこまで詳細に把握してるんだよ! そこまでお前に興味ねえよ!」
フクラミは高橋のボケを無視して話を続ける。よくこいつ高橋の存在無視できんな。えぐい存在感してるぞこいつ。話が進まないでお馴染みになってきたなもう。
「コボケ町には今野菜が全く出回っていないんだ。みんなじゃがいもや僕のパン、サーロインステーキなんかを食べて凌いでいる状態だよ」
「割と十分贅沢してるように見えるけど!? 何さらっとサーロインステーキなんか食ってんだよ!」
「玄司様、サーロインステーキには実体は無いが、目には見え、美しく感じられるものという意味があります」
「ねえよ! それ鏡花水月の意味じゃねえの!? サーロインステーキに実体無かったら食えねえだろ! イマジナリーステーキとか聞いたことねえわ!」
「でもイマジナリーステーキでご飯が食べられたら非常にコスパが良くないですか? 今度やってみましょうよ」
「やらねえよ! とりあえず今サーロインステーキの話いいから黙っててもらえる!?」
「玄司様、サーロインステーキの話はもう終わっています。今はイマジナリーステーキの話です」
「どっちだっていいわ! とりあえず黙れお前!」
「……というわけだ。頼むよ救世主様、この町を救ってくれ!」
「ごめん全然聞いてなかったわ! 高橋の相手してたから! お前ももうちょっと相手が聞いてるかどうか確かめてから話してもらってもいい!?」
「仕方ないな。もう1度話してあげるから、ちゃんと僕の話を即興で落語にするんだよ」
「なんでだよ! 町の危機じゃねえの!? 面白おかしくオチ付けてる場合か!」
フクラミは結局もう1度コボケ町の危機について話してくれた。簡単にまとめると、コボケ町には野菜が出回っていなくて全員が便秘気味なんだそうだ。じゃがいもを食べてるなら大丈夫そうだと思ったが、どうやら食べすぎるとじゃがいもも逆効果らしい。
そこでコボケ町で1番の八百屋であるビタミンの店を復活させて野菜を流通させ、全員の体調を整えたいという話だ。
いや町の危機って便秘なのかよ。もっと大変なことかと思ったわ。どういうことだよそれは。俺に救って欲しい危機にしてはしょぼすぎないか? いや別にいいんだけどさ。危機ではあるんだろうからさ。
「チー救、どうだい? やってくれるかい?」
「まあやるけど……。それで便秘が治ったらいいんだもんな?」
「玄司様、あと私のA型インフルエンザも治してくださいよ」
「お前インフルなのかよ! え、ちょっと近寄らないでもらえる!?」
「チー救、さっきのようにこの町に雨を降らせて欲しいんだ。そうしたら畑も田んぼも潤うし、ビタミンの店から野菜が流通する。ついでに降って来たチーズでチーズフォンデュができる」
「贅沢しようとすんなよ! チーズフォンデュに関しては俺の管轄外だわ!」
しかし雨を降らせろって言われても、俺が意識的に降らせられるわけじゃないんだよな……。俺が雨を降らせることができるのは、ボケルト人にツッコミを入れた時。それも毎回降るわけじゃない。どうしたものか……。
「玄司様、では意識的に降雨を操れればいいのでは?」
「え、そんなことできんのか?」
「できますよ。コマンドを覚えれば」
「格ゲーか! そんな感じなのツッコミって!? あとできるならもっと早く言えよお前! もう第1章終わってんだよ!」
「では玄司様、まずはコマンドを覚えるためのツッコミを覚えましょう。私が教えてあげますよ。まず近所を歩き回ってください」
「お前それコマンドじゃなくてお散歩じゃねえの!?」
ダメだ、やっぱ高橋は当てにならなそうだ。でもそもそも雨を降らせて野菜を育てて八百屋で売ってってサイクルを回すのは、相当時間がかかるんじゃないか? これはコボケ町に暫くいることになりそうだぞ……。




