第31話 コボケ町の町並み
オトボケ村を出た俺たちは、次の目的地、コボケ町に向かって歩いていた。しかし何も確認せず出て来ちゃったけど、コボケ町までってどれくらいかかるんだろうな。馬とか電動キックボードとか借りとけば良かった。
まあでも案外近いのかもしれないし、高橋にコボケ町までどれくらいか確認しとくか。
「なあ高橋、コボケ町までってどれくらいかかるんだ?」
「新宿から山手線で1駅ですよ」
「そんなわけねえだろお前! コボケ町は代々木にねえだろ!」
「代々木には無いですよ。新大久保にあります」
「外回りだったのかよ! どっちでもいいわそんなこと! なんでお前が山手線の路線図把握してんだよ! ……よく考えたらコボケ町って歌舞伎町に発音似てんな!? まさかモデルが歌舞伎町なの!?」
「いえ、渋谷センター街です」
「とりあえず東京から出てみようか!?」
結局歩いてどれくらいか分からねえじゃねえか。本当に新宿から新大久保と同じ距離なんだったら、大体徒歩10〜15分くらいだけど……。だとしたら近すぎないか? 異世界って移動に何ヶ月もかかるイメージだけど、徒歩10分でそこまで大きく発展度合いとか変わらないだろ普通。
「玄司様、そろそろコボケ町に着きますよ」
「近すぎるだろ! え、まだオトボケ村出て10分くらいだけど!?」
「そうですよ? 距離的には新宿から新大久保と同じくらいです」
「まじでそうなの!? ほんと異世界感ねえなボケルト王国! 東京歩いてる気分だわ!」
「コボケ町にはホストクラブがたくさんあるので、楽しみですね!」
「じゃあもう歌舞伎町だよそこは! ホストクラブあっても俺には関係ねえし!」
「あと茶室激戦区です」
「なんでだよ! そいつらはどういうつもりで茶室置いてんの!?」
「基本的に飲みものがシャンパン、ドンペリ、抹茶の3択なんですが、玄司様はどれがお好きですか?」
「もうちょっと選ばせてくれよ! 水がいいわ俺は! オトボケ村で水ラー名乗っとけば良かった!」
想像の斜め上に不安になってきたけど、とりあえずコボケ町も救わなきゃいけないんだもんな。なんか変な抗争とかに巻き込まれなきゃいいけど……。
「着きましたよ玄司様! ここがコボケ町です! 早速自動ドアを通って中に入りましょう!」
「コンビニか! なんで自動ドアなの!? オトボケ村にはちゃんと門番いたじゃねえか!」
「コボケ町には自動ドアしかありませんよ。オトボケ村よりも発展していて治安が良いので、門番を置く必要が無いんです。ああでも湯守はいますよ」
「そんないい銭湯みたいなの要らねえだろ! 入口に湯守いても困るわ! 入口には番台がいろよ! ……いやいなくていいわバカ!」
異世界感の無い自動ドアを通り、俺と高橋はコボケ町に入った。コボケ町は石畳で道が整備されており、店や家もレンガ造り。なるほど、オトボケ村よりはかなり発展してるみたいだな。オトボケ村は道も整備されてなかったし、家も店も役所も木造だったもんな。タワマンはあったけど。
「玄司様、早速あのリニアモーターカーで移動しますか?」
「なんでリニアあんの!? 発展度合いえぐいなこの町!」
「あと人力車もありますよ」
「色々混ざってんな! 何観光地なのここ!?」
「そうですね、チーズハットグの店とかもあるので、地方の人たちは集まりやすいかもしれないです」
「やっぱここ新大久保じゃねえの!? オトボケ村から10分でこんな変わる!?」
「さあ玄司様、まずは宿を探しましょう。天蓋付きのベッドがあるスイートルームじゃないと私嫌なので」
「プリンセスか! お前普通に布団で寝てたじゃねえか!」
「布団では寝てませんよ。壁倒立してました」
「ああそうだったな! もう普通に寝てもらえる!?」
宿を探しながら町を歩いていると、色んな店から声をかけられる。活気のある町みたいだな。何に困ってるんだろうか。
「そこの兄ちゃん! どうだいうちの草履は!」
「兄ちゃん兄ちゃん! 草履はいらねえかい?」
「ちょっと草履を見ていきませんか?」
「すみません、うちの草履を試着してもらえませんかね?」
「草履履き 雪道残る 足跡や」
「なんでここ草履激戦区なの!? 最後のやつなんか俳句みたいなの詠んでなかった!?」
「コボケ町の名物は厚底スニーカーなんですよ」
「じゃあなんで草履激戦区なんだよ! ますます分からなくなったわ!」
めちゃくちゃだなこの町……。このボケのために草履屋を並べに並べたこいつらの団結力もすげえわ。俺だったら絶対そんなノリで店構えねえもん。競合店しかねえんだもん。需要も無さそうだし。
「あ、玄司様、あそこにリゾートホテルがありますよ!」
「なんでだよ! まずリゾートじゃねえだろここ! 新大久保だろ!」
「あのホテルを宿にしましょう! 小走りで行きますよ!」
「ああこら急ぐな急ぐな! そんな急がなくてもホテルは逃げねえから!」
「何行ってるんですか玄司様。ホテルの逃げ足はとても早いんですからね」
「お前ホテルのことトカゲか何かだと思ってない!?」
結局高橋と一緒に、そびえ立つホテルの中に小走りで入って行った。




