第27話 事業計画書
役所に着くと、早速ツエツキがいる村長室へ案内してもらう。3日ぶりだな。ツエツキもまさかこんなにすぐ俺たちが来るなんて思ってないだろうな。忙しいわ本当に。
村長室のドアを開けると、ツエツキの大きな声が聞こえてくる。
「そこじゃ! 差せ! 差せ!」
「まだボートレースやってんのかお前は! さっさとギャンブルから足洗えよ!」
「ん? おお、救世主様。どうしたんじゃ? そこのラクダの誤解は解けたはずじゃが。まさか馬主になったとかか?」
「そんなわけねえだろ! お前がギャンブルしてる間に俺たちは勉強してたんだわ! てかお前今ボートレースじゃなくて競馬やってんの!?」
「いや、競輪じゃ」
「もうめんどくせえなお前! 何個ギャンブルやってんだよ!」
「ギャンブルというギャンブルは大体網羅しているのが、ワシという人間じゃ」
「やかましいわ! 誇らしげに言うなそんなこと!」
本当にこいつが村長でいいのか? そういや村人もみんなギャンブルやってるみたいな話だったよな。クソみたいな村だなオトボケ村。ギャンブル狂のマヨラーしかいねえのかよ。情報量が多いわ。
「それで、今日はどうしたんじゃ? まさかウスターソース専門店を事業として展開したいというわけでもあるまい」
「おお惜しいけど! それやろうとしてるやつはいるけどそうじゃねえわ!」
「玄司様、相談なんですが、私ウスターソースじゃなくて中濃ソースに変えようかと思ってまして」
「どうでもいいわそんなこと! この村じゃソースが無理だって言ってんの!」
「困りましたね。ではガラッと変えてハロウィン雑貨専門店とかどうですか?」
「需要が限定的すぎるわ! あとお前事業計画書提出しに来る段階で計画コロコロ変えんのやめたら!?」
「分かりました。では当初の予定通りストリートファッション古着のお店でいきますね」
「ごめんその予定知らなかったわ俺! いつその話してた!?」
「ざっくり28年16日3時間49分57秒前ですね」
「お前ざっくりって言葉知ってる!?」
「残念に思うことですよね」
「それはがっかりだろ! もうちょっと黙ってもらえる!?」
勝手に喋る高橋とは対照的に、フタコブとオンセンは緊張の面持ちだ。そうか、高橋は1回事業計画を通したことがあるけど、こいつらは初めてなんだもんな。そりゃ緊張するわ。いくら村長がギャンブル狂でも。
「さあオンセン、胸張って行ってこい」
「ゲートウェイ! 村長、オイラの事業計画書を見て欲しいゲートウェイ!」
「ほう、このサルが事業計画書を書いたんじゃな? なかなか賢いサルじゃな。両生類にしてはしっかりしておる」
「改めてなんでこの世界だとサルは両生類なの!? 認識がめんどくせえな!」
「ふむふむ、ゲートボール用品専門店じゃな?」
「なんでお前また違う事業やろうとしてんの!? 温泉やりたい話どこ行ったんだよ! あとずっとターゲット層が爺さんだな!」
「オイラのゲートボールへの愛は、尽きることを知らないんだゲートウェイ!」
「ゲーゲーうるせえな! 吐いてんのかお前は!」
結局オンセンが持って来た本来の温泉事業計画書をツエツキに見せ、ツエツキから許可をもらうことに成功した。整骨院と老眼鏡専門店とゲートボール用品専門店は却下されたみたいで、オンセンは肩を落としながら役所を出ていた。
「なんでオイラの事業計画が通らなかったんだゲートウェイ……」
「色々手出そうとするのやめようなほんと!? 温泉事業が通ったんだから良かったじゃねえか。本命だろ?」
「本命は整骨院だったゲートウェイ。温泉事業は3番手ゲートウェイ」
「オンセンって名前なのに!? 2番手ですらないんだ!?」
「玄司様、私のストリートファッション古着の店は何故通らなかったのでしょうか?」
「知らねえよ! 異世界でストリートファッション古着なんか売ろうとすんな!」
すると黙って先頭を歩いていたフタコブが、突然立ち止まった。そして神妙な顔で俺たちの方を振り向き、口を開きかけてはやめる。
「どうしたんだよフタコブ。突然止まって、何かあったのか?」
「ああ、赤信号だよ」
「交通ルール守ってただけだったのかよ! じゃあなんで何か言いたげなんだよ!」
「赤信号は守らないといけないからね。車が来たら危ないし」
「まずこの村車走ってねえだろ! 電動キックボードはあったけど!」
「玄司様、地球で言う青信号は、ボケルト王国ではショッキングバーガンディです」
「鮮やかなのかくすんでんのかどっちだよその色! なんで赤と似たような色選んだの!?」
めちゃくちゃだなボケルト王国……。ちょっと色弱の人とかいたら分かんねえだろそれ。そもそも車ねえのになんでいっちょまえに信号だけあるんだよ。意味不明だわ。
「救世主様、ボクは決めたことがあるんだ。ボクは、オンセンの事業を全力で手伝うよ」
「え!? いいのかゲートウェイ!?」
「もちろん。ボクは必死に事業計画書を書いているオンセンを見て思ったんだ。こいつ必死だなって」
「最低かお前! 冷笑すんなよ!」
「だからボクは、このオンセンと二人三脚で温泉事業を営んでいくよ。それでいいかい? オンセン」
「もちろんだゲートウェイ! 嬉しいゲートウェイ!」
おお、なんかいい関係じゃん。フタコブにどういう心境の変化があったのか知らないけど、仲良く事業をやっていくのはいいことだ。
「ということで救世主様、ここでお別れだよ。オンセンとしっかり稼いで、アドバイザー料は振り込むからね」
「頑張るゲートウェイ!」
「おお、頑張れよ! 俺と高橋も応援してるからな!」
「玄司様、私はこいつらを見て鼻で笑ってますよ」
「なんでだよ! 応援してやれよ!」
そんなわけで、フタコブとオンセンを置いて、俺と高橋はウメボシの家へ戻ることになった。フタコブとオンセンが俺たちの背中に手を振る。
「ありがとう救世主様ー! オイラ頑張るゲートウェイ!」
「助かったよ救世主様! ボクはオンセンをらしっかり支えて、マスコットキャラクターとしての地位を確立して独立して大儲けするからね!」
「めちゃくちゃ打算的だった! 最低だなあいつ!」
ウメボシの家への道を辿っていると、電動キックボードで走って来る3人のおばちゃんが見えた。あれは……イドバタ三人衆か?




