第26話 合宿終わり
「やっと……終わった……」
「お疲れ様です玄司様。卒業祝いにからしマヨネーズを買って来ますね」
「要らねえから大人しくしてろお前は! なんでこの村のやつみんなマヨネーズのことしか考えてねえの!?」
「玄司様、私はウインナーとソーセージの違いについても考えていますよ」
「まだそれ考えてたのかよお前! バカじゃねえの!?」
俺と高橋の後ろから、フラフラになったオンセンとマヨネーズを直飲みするフタコブが出て来る。対照的な2人だが、実はしっかり勉強してテストでも結果を出していたのはオンセンの方。フタコブはずっとマヨネーズを吸っていただけだった。何しに来たんだよこいつ。本当に大卒なのかよ。
「つ、疲れたゲートウェイ……。今すぐ帰ってシャワーを浴びたいゲートウェイ」
「そこは温泉入れよ! なんでお前シャワーで済まそうとしてんの!?」
「全く、オンセンは情けないね。ボクはまだまだ体力が余ってるよ! 君は勉強に慣れないといけないね!」
「お前はずっとマヨネーズ吸ってただけだろ! シジボウの質問に対しての答えも全部『マヨネーズ』だったし、テストの解答欄にも全部好きなマヨネーズ書いてたじゃねえか!」
「救世主様、解答欄だけじゃないよ。名前のところにも『マヨネーズ』って書いたよ」
「知らねえよバカ! じゃあもうお前の名前マヨネーズじゃねえか! 気持ち悪い愛情!」
アホなやり取りをする俺たちの後ろから、シジボウがフラフラで出て来た。頬はやつれ、髪はボサボサ、髭は伸び放題という状態だ。
「いやなんでお前がボロボロなの!? 教える側だったよね!?」
「コインランドリーは教えるのにとても気力を使うんだ。こんな合宿なんてすると、もう3日は起き上がれないね」
「もう教師辞めちまえお前!」
「玄司様、祝杯を上げるためのホワイトソースを買って来ましたよ! さあさあ注ぎましょう」
「とりあえず祝杯をソースで上げようとするのやめられる!? グラタンでも作ってろよお前!」
「せめてそこはドリアにしてくださいよ玄司様」
「うるせえなどっちでもいいわ! 好きにしろよ!」
でもこれで俺たちはボケルト王国における経営学をしっかり学ぶことができたわけだ。あとはオンセンの事業を成功させて、一儲けするだけ。そのためにはまず、役所に事業申請をしに行かないといけないらしいからな。まあツエツキに頼めばすぐ申請も通るだろう。
「では玄司様、こちらが先ほどのホワイトソースを使って作ったラザニアです」
「ドリアって聞いてたけど!? なんでちょっと変えてきたのお前!?」
「いやあ、ドリアだとご飯が要るじゃないですか。だからです」
「理由になってねえんだよ! お前の中にある謎の理屈は何なの!?」
「ねえ高橋、そのラザニアにボクのマヨネーズをかけて食べるのはどう?」
「フタコブ……それは素晴らしいアイデアですね……! 早速試してみましょう!」
「もういいから勝手にやっててもらえる!?」
高橋とフタコブがラザニアで盛り上がっている中、オンセンはさっき書き上げた事業計画書を見つめている。オンセンはちゃんと苦労したもんな。頑張って書き上げたそれを、今から役所に出しに行くんだ。感動もひとしおだろう。
「救世主様、この事業計画書ってラザニアに入れたら美味しいかゲートウェイ?」
「美味いわけねえだろ! え、お前もラザニア側の人なの!?」
「玄司様、オンセンはサルです」
「分かってるわ! そんなこと言ってんじゃねえよ今は!」
え、なんでこのサルは苦労して書き上げた事業計画書をラザニアに入れようとしてんの? ボケのためならどれだけでも体張るタイプなの? だとしたら怖すぎるなボケルト人。笑いに全てを懸けすぎだろ。
「さあオンセンくん、その事業計画書を役所に出して、立派な温泉経営者になるんだ! コインランドリーは君のことを応援しているよ!」
「シジボウ、何故私のことは応援しないのです? 私もちゃんとウスターソース専門店の事業計画書を書き上げたじゃないですか」
「まだウスターソース諦めてなかったのお前!? 無理だって! この村マヨラーしかいねえんだもん!」
「温泉のマスコットキャラクターはボクで決まりだね。ボクの着ぐるみやぬいぐるみで儲けまくって、一躍大マヨネーズ持ちだ!」
「ほらな!? もう稼いだ金全部マヨネーズに使おうとしてんだもん! 大金持ちじゃなくて大マヨネーズ持ちって言ってんだもん! この村でウスターソースは無理だって!」
「玄司様、例えどんな逆境にあったとしても、諦めたらそこで事業は終わりなんです」
「だとしてもだよ! やってみてもすぐ終わるから! お前1回失敗してんだろ!?」
「それはシジボウの教え方が悪かったからですよ、玄司様」
「まだ反省してねえのお前!? そろそろシジボウのせいにするのやめたら!?」
騒ぐ俺たちの横で、ひっそりとシジボウが倒れていく。え、何やってんのこいつ。家まで気力保たなかったの!? 教えるだけでこれって、めちゃくちゃ教師向いてねえじゃん。
「さあ玄司様、オンセン、フタコブ、役所に行きますよ」
「見てお前これ! シジボウが倒れてんだぞ!? なんで放っておけるの!?」
「大丈夫ですよ。海水に入れとけば勝手に復活します」
「そんなスーパーで売ってるエビみたいに!」
結局倒れているシジボウを置いて、俺たちは役所に向かって歩き出した。




