第24話 いざ合宿所へ
「んん……。もう朝か」
カーテンの隙間から朝の光が差し込んで来て、俺は目を覚ました。隣を見ると、高橋がまたいない。どうせまたドアのところで壁倒立とかしてるんだろうな。今度はもう驚かされないからな。
そんなことを考えながら起き上がると、目の前に鬼が座っていた。
「うわあああ! お前何してんだよそんなとこで!」
「おはようございます玄司様。いい朝ですね」
「お前のせいで目覚め最悪だわ! なんでお前壁倒立してねえの!?」
「いやあ、人の足元で正座してないと眠れないんですよね」
「昨日と言ってること違うじゃねえか! 壁倒立は何だったんだよ!?」
ほんとこいつがいると起きるの怖くなるな。鬼みたいな見た目してるんだから、もうちょっと自分が怖いということを自覚して欲しいものだ。迷惑なやつだなあ。
「玄司様、朝食を食べたら早速合宿に向かいましょう! 今日の朝食はヘッドホンの丸揚げだそうですよ!」
「ごめん俺朝食要らねえわ! ウメボシに機械を揚げんなって言っといてもらえる!?」
「承知しました! ではお部屋にヘッドホンの丸揚げをお持ちしますね!」
「話聞いてたお前!?」
結局いつもウメボシが食べているというシリアルをもらい、それで朝食を済ませた。ヘッドホンの丸揚げは無事高橋の腹に収まったようだ。なんで食えんだよこいつ……。
フタコブは昨日と同じように俺たちより早起きで、またしてもマヨネーズを直飲みしている。よく気持ち悪くなんねえなあいつ。怖いわもう。
朝食を摂った俺たちは、軽く身支度をして玄関に向かった。合宿の準備って言っても特に俺荷物とか無いからな。いつも通りの服に、フタコブを入れるリュックを持っただけだ。
玄司まで見送りに来たウメボシが、俺の手を握る。
「救世主様、どうかお気をつけてのう。合宿所にはドラゴンとそれに準ずる何かが出るそうじゃからのう」
「何その後半の曖昧なやつ! そいつ気になって仕方ねえんだけど!」
「玄司様、合宿所には野良猫も出るそうですよ」
「知らねえよ! ドラゴンの次に出す情報それじゃねえだろ絶対! 野良猫ぐらいどこにでも出るわ!」
「救世主様、あと合宿所にはラクダも出るらしいよ!」
「それお前が行くだけだろ! ラクダ行きまーすって言ってるだけだぞお前!?」
「それでは行ってらっしゃいですのう。ワシはここでバーベキューをして待っていますでのう」
「マンションで絶対すんなよそんなこと!?」
不安になる言葉を残したウメボシに見送られ、俺たちは合宿所へと向かって歩き出した。少し歩くと、昨日俺たちが入った温泉に、サルが入っているのが見える。お、オンセンか? 朝風呂なんて羨ましい。俺も入らせてもらおうかな。
「おーいオンセン、朝風呂か?」
「あ、救世主様! おはようだゲートウェイ! オイラは別に朝風呂してるわけじゃなくて、温泉の中に住んでるんだゲートウェイ!」
「ああお前水生生物なの!? プランクトンとか食って暮らしてる感じ!?」
「玄司様、ボケルト王国のサルは、地球で言う両生類です」
「カエルとかと一緒なんだ! ややこしいなサルの見た目してんのに!」
「救世主様はどこに行くんだゲートウェイ?」
「合宿だろ! お前なんで忘れてんだよ!」
呆けているオンセンを引っ張り出して、俺たちは4人で合宿所へと向かう。シジボウに伝えられた合宿所は、村のはずれにある小さな小屋だ。ここで缶詰になって経営学を学ぶってことだな。
無事合宿所に着き、高橋が小屋の戸を叩いた。
「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃ放火するぞ!」
「やめとけバカお前! 脅しじゃねえか! そもそもハロウィンで来てねえし今! なんでお前ハロウィン知ってんだよ!?」
すると小屋の戸が開いて、メガネのレンズを太陽に反射させたシジボウが出て来た。
「ようやく来たね君たち。コインランドリーはもうとっくに準備を終えてこの小屋に辿り着いていたよ」
「おお、気合十分だなシジボウ。俺たちに教えるためにしっかり準備してくれたのか?」
「いや、楽しみで寝付けなかったんだ」
「初めての遠足か! お前最初教えるの嫌がってたじゃねえか!」
なんなんだよこいつ……。嫌なのか楽しみなのかはっきりしろよ。まあ俺がシジボウを焚き付けた効果が大きかったんだと思っておこう。じゃないとツッコミ疲れて合宿どころじゃないからな。
「さあ君たち、中に入るんだ。ぐっちょり経営学を教えていくからね」
「みっちりとかじゃくて!? なんで汗まみれで経営学教えんだよ!」
「さあ座った座った。救世主様は真ん中、オンセンは左、フタコブは右、高橋は後ろで立つでいいかい?」
「高橋まだ根に持たれてた! 座らせてももらえねえのかよお前!」
「玄司様、これはシジボウからのメッセージです。私に副担任として期待をしているという」
「ポジティブだなお前! 1回学んだ上で大失敗してそれを教師のせいにしたやつが副担任なわけねえだろ!」
「まあまあ、それはタルタルソースに流してもらって」
「そんなもんに流すな! ドロドロして流れにくいわ!」
「何をごちゃごちゃ言ってるんだい君たち! コインランドリーの時間は限られているんだからね! さっさと座って、学ぶ姿勢になるんだ!」
「なんだよお前、そんなに忙しいのか?」
「いや、昨日寝不足で早く寝たいんだ」
「自業自得じゃねえか!」
こうしてシジボウによる経営学の合宿が始まった。




