第22話 説得
高橋が完全に俺の味方についたと分かり、俺は改めて教師を説得することにした。でもただ熱意を伝えたりしてもダメだよな。まずはこの教師とコミュニケーションを取ってみよう。
「なあ教師、お前の名前は何て言うんだ?」
「コインランドリーの名前かい? コインランドリーはシジボウと言うよ」
「とりあえず一人称なんとかならねえの!? まあいいや、シジボウな。俺は城金玄司。こことは違う世界から来たんだ」
「ほう……。異世界から来た救世主レスラー、というわけだね」
「レスラーではねえよ! 俺レスラー要素ある話した!?」
やっぱシジボウもボケルト人なんだな。高橋がやかましいから目立ってなかったけど、結構こいつもボケてくるじゃん。いいぞ、このボケっぷりなら、俺のツッコミである程度コミュニケーションが取れる。楽っちゃ楽だな。
「シジボウはあらゆる学問に精通してるって話だったけど、どうやってそんなに色々学んだんだ?」
「おや、救世主様はコインランドリーの人生について興味がおありかな? コインランドリーは元々学ぶのが好きでね。子どもの頃から本を読んだりしていたんだ。でもある時気づいた。この世界におけるあらゆる学問のデータを、頭にインストールした方が早いんじゃないかって」
「急にサイバーな話になってきたけど!? 大丈夫世界観壊れない!?」
「玄司様、私の発言で大体世界観は壊れています」
「分かってんなら自重しろよバカ! お前のせいで色々めちゃくちゃなんだわ!」
高橋が茶々を入れるが、そんなことは気にせずシジボウは喋り続ける。お、こいつ多分自分のことを喋るのが気持ちいいタイプだな。ある意味教師っぽいな。
「そこでコインランドリーは脳科学と機械工学、医学を専攻したんだ。そして2週間前、ついにコインランドリーはあらゆる学問を自分の脳にインストールすることに成功した!」
「めちゃくちゃ最近じゃねえか! ……ん? 2週間前? おい高橋、お前がウスターソース専門店やったのっていつの話だよ」
「3日前の話ですね」
「俺が来る前日じゃねえか! お前よくそんなんでこいつのとこすぐ来れたな!?」
「いやあそれにしても玄司様、2日目でこれだけの密度の時間を過ごせているって素晴らしいことですよね! どうですか玄司様、ボケルト王国は楽しめてますか?」
「露骨に話題逸らすなよお前! はあ……。まあいいや。シジボウの話に戻ろう。それでシジボウ、お前が教師を始めたのは、その2週間前からなのか?」
「いや、コインランドリーはあらゆる学問をインストールする前から家庭科の先生をやっていたよ」
「なんで教科家庭科なんだよ! 機械工学とか脳科学とかどこ行ったんだよ!?」
でもこれで大体シジボウのバックボーンが見えてきたぞ。こいつは元々勉強好きで、あらゆる知識を手に入れたいが故に、それを自分の脳にインストールした。それ以前からも勉強好きが高じて教師をやっていた。何故か家庭科だけど。
で、そこに高橋が経営学を学びに来て、何故かウスターソース専門店を開業し、大失敗したのをシジボウのせいにして、シジボウはそれがトラウマになったと。
……うん、なんかまとめてみたけどやっぱり意味不明だわ。高橋が意味不明なのはもうどうでもいいとして、シジボウのやってきたこともまあまあ意味不明だ。ボケルト人ってみんなこうなのか?
「どうだい救世主様。コインランドリーの人生は」
「あ、ああ。めちゃくちゃ勉強好きなんだなってことは分かったよ。でもさシジボウ、お前は自分が知識を得ることだけが好きなのか?」
「それはどういう意味かな? 冬に三日間ぐらい寒い日が続き次の四日間ぐらいが暖かく、これが繰り返されること、という意味かい?」
「それ三寒四温の意味だろ! 今関係ねえよ! いやそんな話はしてねえんだわ。お前がもしただ知識を得ることだけが好きなら、わざわざ教師なんて職業選ばねえだろ?」
「……まあそうだね。コインランドリーは、学んだことを人やバケモノに教えるのが好きだ」
「一応高橋も教える対象に入れてやってんの優しいな!? いやまあそれはいいけど、そうだろ? お前は教えるのが好きだから教師になったんだよ」
「それは認めざるを得ないね。みざえなだね」
「なんで無理やり略した!?」
よしよし、いい感じだぞ。高橋のせいで忘れかけていた初心を思い出しかけてる。このままいけば、経営学を教える段階までいけそうだ。
いや高橋が余計なことしてなきゃスっと教えてもらえたんだけどさ。ほんとバカだろこいつ。
「なあシジボウ。ここにお前から学びたいってやつが4人来てるんだ。お前の教えたい気持ちは、学びたいやつに向けるべきじゃないのか?」
「そうだそうだ! ボクも経営学を学んで、マヨネーズアート教室を開きたいんだ!」
「フタコブお前そんなこと一言も言ってなかっただろ! 静かにしてたと思ったら腹ん中で余計なことばっか考えてたのかよ!」
「オイラも温泉事業と整骨院と老眼鏡専門店を成功させたいんだゲートウェイ!」
「オンセンもしれっと起業する数増やすなよ! なんでお前のターゲット層全部老人なの!?」
「私だって、ウスターソース専門店は諦めていませんよ!」
「お前は諦めろよ! なんで諦めてねえんだよ! この村マヨラーしかいねえから無理だよ!」
ヤジが要らないことすぎるだろこいつら。もっとシジボウの背中を押せるような言葉を言ってくれたらいいのに。ボケルト人だから仕方ないのかなあ……。
シジボウは少し俯いてじっと考え込んでいたが、顔を上げて口を開いた。
「分かったよ。君たちの熱意に負けたよ。コインランドリーは、君たちに経営学を教えよう。2泊3日でいいかい?」
「ああ合宿形式なのね!? まあ教えてくれるならなんでもいいや!」
こうして俺たちは、無事シジボウの元で経営学を学べることとなった。俺の作戦が上手くいって良かった……。
2泊3日ということで、俺たちはそれぞれ一旦家に戻り、明日からの合宿に備えることとなった。俺はフタコブを抱き、高橋と連れ立ってウメボシの家へ足を向ける。しかし濃い1日だったな……。今日はしっかり休もう。
ふと思い出して生き返りゲージを見ると、11パーセント。無事溜まってきてるな。このペースなら10日ぐらいで生き返れそうじゃないか?
「玄司様、ボケルト王国はそんなに甘くありませんよ」
「お前いちいち俺の思考読むのやめられる!?」
「生き返りゲージについてまだ言っていないことがあります。少し長くなるので、ウメボシの家に帰ってから話しますね」
なんだよそれ……。気になるな。まあとりあえず今は帰って休むことを考えよう。




