第15話 湯けむりの道
ボケルトラクダを抱いたまま、俺と高橋はウメボシの家へ戻ることにした。とりあえず今日は疲れたからな。しっかり休んで、明日以降のツッコミに備えないと。
……俺は一体何をしてるんだ本当に。なんでこんな異世界でボケまくる民族にツッコミを入れて回ってるんだ。本当に色んなことが起きすぎて、改めて考えると意味が分からない。
でも、俺が生き返るにはこうするしかないんだもんな。神の手違いとは言え、このまま死んでしまったら俺の夢も途絶えてしまう。
よし、頑張ろう。
決意を固めた俺の隣から、高橋の素っ頓狂な声が聞こえた。
「水餃子っ!!」
「何を言ってんだお前は!? 唐突に叫ぶことか!?」
「すみません玄司様、変なものを見つけたのでつい」
「つい出る言葉じゃねえだろ! ちょっと考えないと水餃子って単語出てこねえわ!」
「水餃子とか焼き餃子とかそんなことはどうでもいいんです」
「俺焼き餃子の話した!?」
「玄司様、あれを見てください」
そう言って高橋は前の方を指さす。俺もそっちに目を向けると、道の真ん中に温泉のようなものがあるのが見えた。
こんなところに温泉……? 蜃気楼ってわけでもないだろうしな。蜃気楼だったら見えるのはオアシスだろうし。てことはあれ、本当に存在する温泉ってことか?
「高橋、あの温泉は何か知ってるか?」
「肩こりに効くそうですよ」
「成分を聞いたわけじゃねえよ! あの温泉そのものが何なのか聞いてんの!」
「ああ、あれは温かい水が入ったお風呂です」
「それは分かってんだわ! お前バカなの!?」
「いえ、私は高橋です」
「バカじゃねえか! ああもうめんどくせえな、とりあえず見に行ってみよう」
「ボクはマヨネーズの温泉だったら嬉しいな!」
「お前は黙って寝てろ!」
温泉に近づくと、もうもうと湯気が上がっているのが見える。結構熱そうだな……。でもなんでこんなところに温泉があるんだ? 行きはこんなの無かった気がするんだが。
「玄司様、ちょうどいいじゃないですか。ここで温泉に入って疲れを癒し、上がったら接着剤を一気飲みしましょうよ」
「死ぬわ! 牛乳とかじゃなくて接着剤飲むのお前!? 確かに白いけども!」
「喉の中がくっついちゃうかもしれないですね! はっはっは!」
「何が面白いんだよ! 一歩間違えたら人殺しだぞお前!?」
「大丈夫ですよ。ボケルト王国では人殺しよりマヨネーズ泥棒の方がよっぽど罪が重いですから」
「じゃあお前大犯罪者じゃねえか! さっさと自首しろよもう!」
俺たちが温泉の前で騒いでいると、1匹のサルがとことこと歩いて来て、そのまま温泉に浸かった。ええ……。ボケルト王国のサルも温泉入るんだ……。ニホンザルだけだと思ってたわ……。
するとサルは俺たちの存在に気づいたようで、驚いた様子で話しかけてきた。
「お前たちは何者ゲートウェイ!?」
「そんな高輪ゲートウェイみたいに! 何言ってんだこいつ!?」
「この温泉は、オイラがついさっき掘った温泉ゲートウェイ! こんなに早く見つかるなんて、予想外ゲートウェイ!」
「ゲートウェイうるせえな! なんだその特殊な語尾は!?」
なんでそんな語尾なんだよ……。ゲートウェイって異世界で聞かない言葉ランキング相当上位だろ。山手線に乗ったかと思ったわ。
俺が困惑する中、高橋は屈み込んでサルに話しかけていた。
「新聞を取りませんか?」
「お前サルに何聞いてんだよバカ! サルが新聞なんか読むか!」
「失礼だゲートウェイ! オイラだって新聞くらい読むゲートウェイ!」
「嘘つけお前! どうせ読むって言っても端っこの四コマ漫画とかだろ?」
「流石にオイラも全部は読まないゲートウェイ。読むのは政治欄とコラムだけゲートウェイ」
「メインで読んで欲しいとこ読んでた! じゃあお前十分新聞読んでるよ! 自信持てよ!」
いやそんなことはどうでもいい。このサルに俺たちが何者かを説明しないとな。このままだとただの新聞勧誘に来た人になってしまう。
「おい高橋、ちゃんと俺たちのこと説明してやれよ」
「分かりました。サルよ、私は高橋です」
「だからもう! お前は名前に付随する情報を言えって! 何回言わすんだよ!」
「血液型は花形です」
「すごい華やかそうな血液型してんな! 誰に輸血できるんだよお前!」
「いつかスパイラルパーマをかけたいと思っています」
「知らねえよ! 勝手にしろよ! もういい美容室紹介するからさっさとその夢叶えてちゃんとしてもらえる!?」
こいつに説明任せるとろくなことにならねえな。救世主を導く存在って言われてるのに1番妨げてるじゃねえか。何してんだよ全く……。
そういやスルーしてたけど、このサルにしろラクダにしろ、普通に動物が喋る世界なんだな。ボケルトラクダが特殊なのかと思ってたわ。
「ちょっと待つゲートウェイ! もしかしてそのバケモノみたいな見た目のやつは、高橋じゃないゲートウェイ?」
「だからそう言ってんだろ! こいつ名前だけはちゃんと言うんだから!」
「ということは……そちらの方はまさか、救世主様ゲートウェイ!?」
「そうです。サルよ、この方はボケルト王国を救う救世主。もし無礼があった場合は九つ裂きにされますよ!」
「1個多いわ! いや八つ裂きにもしねえよ!?」
「げ、ゲートウェイ〜!」
「それはビビってんのか何なの!? どういう気持ちのリアクション!?」
高橋のやつ、適当に脅すのやめろよ……。まあいいや。俺も温泉入りたいし、このサルに交渉して入らせてもらうか。




