352. キマイラの材料は
部下から上がる報告を纏めながら、ベールは奇妙な共通項に気づいた。目撃証言が集中するのは北の領地、キマイラによる被害はほぼない。そして魔王城へ繋がる龍脈に置かれた拠点……すべてを地図上に落とし込み、指先で地図を叩いた。
不思議なことに、ある地域がぽつんと残される。アスタロトやルキフェルも、すぐに同じ結論を導き出すだろう。あからさまに不自然な配置は、意図的なものか。だとしたら、この地域を治める種族を罠に嵌める作戦かも知れない。
「証人は不要ですが、数人捕まえる必要がありますね」
ベールの呟きを受けて、副官たちが動き出す。それぞれが指示を伝えて証人を連れ帰るだろう。尋問はアスタロトに任せればいい。血腥い同僚の顔を思い浮かべ、自然と口元が緩んだ。最悪死んでいても情報は取れるのだ。
「鬼が出るか、蛇が出るか。どちらにしても我々の敵ではありません」
部下が持ち帰った証人や証拠品を纏めて転送し、ベールは意味ありげに呟いた。
転送された資料を前に、ルキフェルはすでに分析を開始していた。速読で中身を把握して、片っ端から順不同で読み漁る。内容は頭の中に散らばるパズルのピースを合わせるように、順番に組み立てた。見た風景や文書を焼き付ける、特殊な記憶能力があるルキフェルだから可能な方法だ。
アスタロトから送られた研究文書を追加しながら、ベール達魔王軍が転送した資料に首を傾げた。
時々出てくる不思議な記号の意味がわからない。何かの暗号なのか。それは材料を示す記号のように思われた。しかし他の材料をそのまま記載したのに、この一種類だけ記号にする意味に着目する。
「この記号に材料が入るとして、外部に示せない材料……キマイラの材料で核となる……っ」
脳裏に浮かんだのは生きた者を直接使う禁術だった。魔王城の書庫から持ち出された書に、生贄という名称で実験台にされた魔族のキマイラが載っていたはず。つまりこの伏せられた記号が示すのは、実験台となる生物だ。
「なんてことだ……」
生きたまま他の生物と融合させられる。手探りの魔術は失敗も多いだろう。それだけたくさんの魔族が犠牲にされたとしたら……どの種族だ? 最近数が減った種族、災害を言い訳にしたかも知れない。
「魔族の人口変異を示した資料を! 大至急、ここ1年分でいいから」
ルキフェルの指示に、数人の文官が前に進み出た。担当する文官なのだろう。資料の前で足を止め、すらすらと人口変動の推移を説明する。聞き流しながら、気になった部分があった。
「待って。今の……人族が村単位で消えた話の裏は取れてる?」
「はい。人族の監視をしているハルピュイアの報告です。人族の村が一夜にして焼失し、生存者は確認できなかった、と」
確認できなかった。つまり連れ去られた可能性が高い。もし焼死したなら、死体が確認されたはずだ。しかしハルピュイアは確認できなかった。死体すらなかった、と? 完全に炭になって砕けて消えるほどの劫火は、通常の火事ではありえない。
連れ去った人族をそのまま使ったのか? 確かに魔族と混じることが出来る種族は人族のみだ。その混血特性を利用すれば、キマイラの接合部として使える。だとしたらキマイラに人の意思は残るのか。魔獣や魔物の本能に飲み込まれたか。
新しく転送された資料を貪るように読み、次々と実験結果を紐解いていく。その剣幕に何が起きたのかわからず、文官達は散らばった資料の片付け役に徹した。
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