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【完結】魔王様、溺愛しすぎです!  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
100章 幸せになろう

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1389. 誰も知らない幸せな未来

 喉が痛いわ。けほっと咳き込んで、手が届く距離に用意された水を飲む。腰や足が痛いことはなく、それが救いだけど。常に癒しながら抱き潰されたリリスは、最後にルシファーを怒鳴って追い出したのだ。


 求められるのは嬉しいけど、限度があるでしょう? もう少し落ち着いて欲しいわ。常々自分が周囲から言われた注意を、平然と夫に適用する。もうすぐ戻ってくるわね。そうしたら、優しく迎え入れて一緒に眠るの。ゆっくりと時間を過ごしたい。


 痛む喉を魔法で癒した。魔力って本当に便利だわ。生命力そのものなのね。だからさまざまな事象を起こせるし、誰かを癒したり森を生み出したり出来る。この世界はようやく外部からの干渉を排除したばかり。大切に育てて行く必要があった。ルシファーなら任せても大丈夫だわ。


「……リリス、まだ怒ってるか?」


 心配そうに扉の隙間からこちらを窺う純白の魔王は、その肩書きに似合わぬ表情を浮かべていた。泣きそうな子猫……失礼な表現が過り、ふふっと笑う。


「平気よ、さっきはごめんなさい。ルシファーったら休ませてくれないんだもの」


「それは、本当に悪かった。アスタロトやベールにも叱られたし。女性は受け入れる負担が大きいとベルゼビュートにも言われた。ルキフェルに睨まれたのも堪えた。リリスを大切に愛したいのは本当だ」


 必死に言葉にしたルシファーに微笑み、ベッドの手前を少し開けて手招く。近づいたけど手が触れない距離で止まったルシファーへ、シーツを捲って誘った。


「一緒に眠りましょう? 少し休息を取りたいの」


「だが」


「ルシファーも一緒がいいわ」


 だが隣にいると不安だろう? そう問う声を遮って、一緒がいいと伝える。ルシファーはいつだってそう。暴走することは少ないけど、その後必要以上に反省してしまうの。お母さんの記憶があるから、私はルシファーを誰より知ってるつもりよ。


 ぽんぽんと隣を叩いて促せば、おずおずと隣に滑り込んだ。リリスが服を脱ぐよう促し、素肌で抱きしめ合う。


「ほら、温かいじゃない。数日でいいの、このまま過ごしたいわ」


 ぐっと変な声がしたが、ルシファーは承諾した。


「魔の森が眠りについたのは、体内にいた異物を排除したからよ。しばらくは安全だわ。ゆっくり、過ごしましょう」


 先はずっと長いの。どこまでも一緒に、いつまでも仲良くいるために。互いに譲歩しなくちゃね。先に譲歩したリリスに対し、今はルシファーが譲る。


「愛してる、リリス。魔力尽きるまで、一緒にいよう」


「知ってるわ、私も愛してる」


 重すぎるくらいの愛情を受けて育った。あなたを庇った後、私は後悔したのよ。魔の森に還って生まれ直せばいいと思ったのに、世界ごと捧げて蘇らせようとするんだもの。あの時に気づいたわ。魔の森が、どうして私を生み出したのか。


 あなたは壊れる寸前だった。コップに水滴が落ちるように、満たされてきた孤独が溢れるところで。その水を飲み干すのが私の役目ね。世界が壊れるからじゃなくて、あなたを守りたい――愛してるわ、ルシファー。


 抱き締める腕の中で、美しい純白の髪をひと房握る。幼い頃と同じ仕草で、あの頃より満ちた心で頬を擦り寄せた。







 数日後、こっそり外へ出た二人はすぐに見つかり、大公や大公女達に囲まれた。周囲は城に勤める侍従や侍女が集まる。動けない状況になり、ルシファーはぱちんと指を鳴らして転移して逃げた。


「逃げるぞ、リリス」


「外はヤン達が待ってるわよ」


「分かってる! とっておきの場所があるんだ」


 隠れ家を口にして脱走した魔王と魔王妃が見つかり、再び祝福の声に囲まれるのはわずか数十分後。


「こらっ! リリスに近づくな!! オレの嫁だぞ」


 威嚇するルシファーの姿が目撃された、そんな噂が城下町を駆け巡った。人々はその話に頬を緩め、未来に思いを馳せる。魔王夫妻や大公女夫妻のお子は、いつ頃会えるだろうか。それは……眠る魔の森さえ知らない、幸せな未来。


 さあ、ご一緒に!


【魔王様、溺愛しすぎです!】


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