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【完結】魔王様、溺愛しすぎです!  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
99章 変化し続ける世界の中で

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1363. 魔の森からも祝福を――前夜祭1

 前夜祭は完全なるお祭りだ。飲んで食べて騒いで、とにかく盛り上がることが条件だった。礼儀作法もへったくれもなく、即位記念祭と同じく無礼講となる。すでに城門前は大盛り上がりだろう。


 ゆっくり登場する主役を待つ間に、魔族は慶事に歓喜する。即位記念祭のように、周囲の森や広場は各種族のテントが並び、それぞれに持ち寄った特産物の交換やお振る舞いが始まっていた。


「陛下だ……!!」


「魔王様とリリス様だ!」


 着替え終えた二人の姿に、わっと周囲が沸き立った。さざ波のように話が後ろへ流れていく。返す波さながら、歓声が戻ってきた。喜んでくれる民に手を振りながら現れた二人に、あちこちから祝いの声がかかる。


「おめでとうございます!」


「お幸せになってください」


 たくさんの光が舞う広場は、幻想的な雰囲気だった。各種族が趣向を凝らした灯りや飾りを持ち込んでいる。打ち合わせもしていないのに、不思議と調和が取れた風景だった。精霊も光を放ちながら飛び回り、魔の森の木々も大きく葉を揺らす。伸ばした蔦が、各テーブルを飾っていた。


「お母さんも頑張ってるわ」


「あとでお礼を言わなくちゃな」


 くすくす笑いながら魔の森の噂をすると、たくさんの光が森から放たれた。柔らかな緑の光は、祝福するように人々の上に降り注ぐ。淡い雪に似ていた。触れると消えてしまうが、あちこちから思わぬ声が上がった。


「傷が治った」


「腰痛が楽になったよ?」


「あれ、肌荒れが消えた」


 大盤振る舞いらしい。ずっと見守った愛し子である魔王と己の分身であるリリスが結婚する。その祝いのつもりか。城門の上で大公達と並び、運ばれたグラスを手に取る。掲げる仕草に釣られ、集まった魔族は一斉にグラスを手にした。中には瓶ごと掲げている者もいる。


「祝いに駆け付けてくれたこと、感謝する! 皆の幸せに乾杯」


「「「乾杯」」」


「「「「おめでとうございます」」」」


 乾杯でグラスを空けたら、そこからは無礼講だった。竜族が並んで空中ダンスを披露する。お礼に鳳凰が舞を返し、幻獣であるユニコーンがひらひらと布を揺らして飛び回った。城門の上から飛び降りるルシファーは、リリスをその腕に抱えている。途端に、上から声がかかった。


「陛下! 大人しく席に……」


「無理だ、存分に祝われてくるぞ」


 止めるベールを無視して駆け出す。目配せされたアスタロトがお目付け役として飛び降りた。ベルゼビュートはすでに酒瓶を空にし、据わった目で次の瓶を探し回る。ハイエルフのオレリアに渡されたワインに感激し、大胆にも抱き着いた。女同士だが嫉妬したエリゴスに引き離される。


 今日のベルゼビュートのドレスは、胸元が大きく開いている。豊かな胸が露わになりそうな危険な状態で、抱き着いたオレリアの顔を胸に押し付けたら……浮気に近いと説教された。しょんぼりしたベルゼビュートは小声で謝る。エリゴスのエスコートを素直に受け入れ、用意された席に落ち着いた。


 普段は出歩いて行方不明になるベルゼビュートが着座したことで、ルキフェルやベールが動ける形になった。すぐさま動き出す彼らは、待機する大公女達を紹介しなくてはならない。魔王とリリスの紹介は不要だが、大公女とその婚約者は知名度が偏っている。


 先ほどの乾杯でも、脇でグラスを掲げていた少女達は、順番に婚約者とセットで紹介された。アスタロト大公の養女で狐獣人のルーサルカと元勇者で日本人として魔族になったアベル。水の精霊族の侯爵令嬢ルーシアのパートナーは風の精霊族の伯爵令息ジンだ。


 互いにパートナーの色を取り入れたアクセサリーを付けるのが流儀であり、ルカは黒い真珠の首飾りを大切そうに指で触れる。アベルには銀灰色のイヤーカフだった。ルーシアは淡い水色の腕輪を、ジンも彼女の色である青いカフスを身に着ける。


 この風習は魔族の婚約や結婚ではよく見られる。紹介されるたびに歓声と祝いの声が上がり、恥ずかしそうに顔を赤らめた。初々しいカップル達は一礼し、人々の中に飲み込まれていく。注がれる酒や渡される食べ物は、可能な限り口を付けるのがマナーだ。


 結婚前のカップルに直接触れるのは厳禁と通達があったこともあり、肌や服に触れる者はいなかった。

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