表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
99章 変化し続ける世界の中で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1361/1398

1355. 娘を嫁に出す父親の心境

「おはようございます、ルシファー様」


 さわやかな朝、執務室の扉を開けたら鬼がいた。伸びた金髪を軽く結い上げ、にこやかな笑顔で……なぜか威嚇してくる。逃げ出したい気持ちを抑えながら、曖昧に頷く。


「おはよう。アスタロト、体調はもういいのか?」


「はい。お気遣いいただきまして。何分にも妻がしっかり休ませてくれましたので……ほぼ万全の状態ですよ」


 含みのある間を気づかなかったフリで逃げる。こういった場では逃げの一手に徹した方が被害が少ないのだ。過去の経験から判断する魔王は、さらりと流した。


「それはよかった。心配したんだぞ」


 さっさと席に座り、今日の処理すべき書類を確認する。こういう日に限って書類が少なかった。ゆっくり処理しないと、早く終わってしまう。ちらりとアスタロトの様子を確認して、慌てて書類に目を戻した。


「私がいない間に、いろいろあったようですね」


 世間話のように切り出され、頭の中を様々な出来事が流れる。どれだ? どれを指摘している? 焦りながら、何もなかったように答える。


「予備費の使用か? 今後のベビーラッシュへの備えが必要だからな」


「ええ、それは存じております」


 これじゃなかった。焦りながら別の話題を振る。


「オレの部屋に入ってきた新種の魔族の話なら、ストラスが詳しいぞ。黄緑色の綺麗な鳥で、魔法陣で発動する魔法に耐性があるんだ」


「そうですか。珍しいですね」


 これも違うのか!? いっそ直接尋ねるか。それとも黙ってやり過ごすか。居心地の悪い時間を過ごしながら、書類を片付けていく。いっそ全部一瞬で処理して、この部屋を出るという手段を選ぶしかない。ぐっと羽根ペンを握り、すごい勢いで署名を始めた。あと5枚!


「ルシファー様」


「なっ、なに、な……」


 話しかけられると思わなくて、混乱する。ひとつ深呼吸し、深刻な顔をしたアスタロトを観察した。どうもオレが何かやらかしたわけじゃなさそうだ。別件の相談があると見た。ごくりと喉を鳴らし、最後の書類に署名して押印する。処理済みの箱に放り込みながら、羽根ペンを引き出しに片づけた。隣に印章もしまう。


「どうした? 何かあったなら相談に」


「ルカが、私との食事を断ったのです。その理由が、結婚式の催し物だとか……詳細をご存知ですか? アベルと一緒に過ごすようですが、どうしてでしょうね。元勇者と軽く戦ってみたい気分です」


 あ、それ軽くないやつだ。息の根を止めるまで、止まらない戦いになる。絶対に止めなくては。


「その話なら知ってるぞ。ルーサルカだけでなく、シトリー達も全員が婚約者と打ち合わせをしている。ルーサルカだけじゃないから、許してやれないか?」


「もうすぐ私は可愛い娘を奪われる父親です。許せるわけがないでしょう」


「うん、悪かった」


 すまない、アベル。守ってやれないかも。鬼の形相で詰め寄られ、まだ父親の心境が理解できないルシファーは顔を引き攣らせた。すると、アスタロトは例え話を始める。


「ルシファー様とリリス様の間に姫君が生まれたとしましょう。きっと可愛いでしょうね。毎日愛情を注ぎ、大切に育てた姫に男が近づいたら」


「抹殺する」


 そんな男を許せるわけない。幼い頃のリリスにだって許せなかったし、彼女にそっくりの愛らしい娘だったら……モテるに違いない。誰かに奪われる想像なんてぞっとする。


「お分かりいただけましたか?」


「気持ちはわかる。だが……考えてみろ、アスタロト。ルーサルカはアベルを選び、もう結婚式目前だ。奪い返す余地はない」


 流されかけたルシファーだが、何とか立て直して釘を刺す。この状況でアスタロトが邪魔をすれば、ルーサルカは彼を許さないだろう。その点まで踏まえて指摘すると、がくりと机にうつ伏せてしまった。


 どうやら自分でも理解できているらしい。数十年もすれば自分にも巡ってる可能性がある現実、ルシファーはそこから目を逸らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ