1261. 口止めはきっちりと
魔の森は母なので、攫って分解、再構築をしている可能性は公表できない。そのため、アデーレやリリスに絶対に他言無用を言いつけた。特にリリスに関しては、うっかり話す可能性がある。十分すぎるほどに念を押したが、それでも不安だった。
「失礼ね、私だって約束は守れるんだから」
ぷんと頬を膨らます姿は愛らしいが、彼女の口の軽さに関しては信用がない。そこでアベルに関する話をすべて禁止し、人から聞いても相槌を打つだけに留めるようお願いした。しっかり内容を反芻し、理解してからリリスが頷く。
「わかったわ。彼の話は外で絶対に口にしない。聞いても曖昧に笑うだけね」
幼い頃のように指切りの歌で約束し、ルシファーはようやく胸を撫で下ろした。ここまですれば大丈夫だろう。魔法陣や制約で縛るのは可哀想なので、ここは彼女を信じて妥協だ。
「大公に対してはアベルの話をしてもいいが、大公女はダメだ」
ルーサルカが過剰反応するかもしれない。そこは素直にリリスも納得した。別に混乱を招きたいわけではないし、ルーサルカが心配する姿を楽しむ趣味はなかった。
「ロキちゃんはいいのね?」
「他の人がいなければ、だ」
お茶を終えて散歩しながら、再度念押しをした。周囲に結界を張って音漏れを防ぐルシファーは、久しぶりに見かけたベールに手を振る。
「陛下、リリス姫、ご機嫌麗しゅう」
「ルキフェルの手が空いたら、大公全員でオレの部屋に集合してくれ」
ルシファーが全員召集を掛けるのは、重大な事件があったときだ。一度リリス絡みのどうでもいい招集も掛けられた記憶が過り、ベールは確認した。
「内容を事前にお聞きしても?」
「魔の森と日本人に関して」
アベル個人を名指ししなかったのは、もしかしたら他の2人も可能性があるから。新しい知識や発想を求める魔の森が満足していなければ、次に狙われるのはイザヤとアンナだった。これ以上はこの場で話せないと短く伝えれば、ベールは真剣な表情で一礼した。
「畏まりました。現時点でアスタロト以外の予定は支障ありません。彼には私から確認いたします」
午後すぐに顔を出すと約束し、足早に立ち去った。見送ったルシファーとリリスは薔薇を摘んだり、エルフが植える花壇を見て過ごした。最後に裏庭に陣取るイグアナ達の様子を確認し、水浴び用に小型の池を作る。鱗があれば水は好きだろうと一方的な思い込みで池を作ったが、イグアナは大喜びだった。
こぞって飛び込んだため、急遽水を増やして穴を広げる。ばしゃばしゃと中に入り、ゆったりと目を細めて水に浸る姿は気持ちよさそうだった。
「池のある日当たりが良い土地か……どこかに空いてたかな」
この条件は好条件になるため、すでに他の種族が獲得している可能性が高い。日当たりさえ確保できれば、池は人工的に作ればいいか。この辺は魔法が使える魔族の強みだった。なければ作ればいい。
どうしても見つからなければ、このまま裏庭の番人をしてもらう手もあった。どうせ誰も住んでいないのだ。
「ルシファー、あの子だけ色が違うわ」
端から頭数を数えていたリリスが、指さした先、確かに色の違う個体がいる。ひとまわり小さいが、色が抜けて白っぽかった。他の個体は茶色や黒に近い緑色なのに。ぽてぽてと白っぽい個体が歩くと、慌てて周囲のイグアナが避ける。気になって話しかけた。
「お前、もしかして言葉が話せたり……しないか?」
白は強い魔力保有の証だ。そのくらい出来てもおかしくない。そう感じたルシファーの予想は、思わぬ返答で裏付けられた。
「何、偉そうに上から話しかけるんじゃないよ」
「「え?」」




